労働審判申立書が届いたら|必要な準備と手続きの流れ

裁判所から労働審判申立書が届いたら、放置せず、すぐに中身を確認しましょう。
労働審判手続きは、原則として3回以内の期日で審理を終結する手続きであるため、迅速な対応が求められます。
この記事では、労働審判申立書を受け取った使用者がとるべき対応や手続きの流れについて、以下の点を解説します。
- 労働審判申立書が届いたら|受領後の対応
- 労働審判申立書が届いた後の手続きの流れ
- 労働審判手続きは第1回目の期日までの約1か月が勝負
- 労働審判手続きは弁護士への依頼が不可欠
労働審判申立書を受け取った方は、ぜひご参考になさってください。
労働審判申立書が届いたら|受領後の対応
ここでは、労働審判申立書が届いた場合にとるべき対応について解説します。
呼出状に書かれた期日を確認する|申立書受領当日
裁判所から労働審判申立書が届いたら、同封されている期日呼出状を確認しましょう。
期日呼出状には、以下の事項が記載されています。
- 指定された第1回労働審判期日に出頭を求める旨
- 提出期限(第1回期日の1週間~10日前)までに答弁書の提出を求める旨
通常、労働審判申立てから約1か月先(原則40日以内)に第1回期日が設けられます。第1回期日は、原則として変更が認められないため、指定された日時に裁判所に出頭できるようスケジュールを調整しましょう。
申立書の内容を確認する|申立書受領当日
労働審判申立書が届いたら、申立書の内容を確認して、労働者の主張や争点を把握しましょう。
弁護士に相談・依頼する|申立書受領当日~1週間以内
顧問弁護士がいる場合は、申立書受領後、一両日中に報告して対応を依頼します。
顧問弁護士がいない場合には、申立書受領後1週間程度で初回面談が実施できるよう、なるべく早く弁護士を探してアポイントをとりましょう。
初回面談には、裁判所から届いた書類一式に加え、以下の資料を持参するとスムーズです。
- 会社側の認識や時系列を書いたメモ
- 就業規則
- 賃金規程
- 雇用契約書
- 給与明細書、賃金台帳およびタイムカード
- 業務日報
など、申立ての内容に応じて必要な資料を準備します。
照会書を裁判所にFAXする|申立書受領後10日以内
依頼する弁護士が決まったら、申立書に同封されている労働審判手続の進行に関する照会書に弁護士名・連絡先を記入し、裁判所にFAX送信で提出しましょう。以降、裁判所からの連絡は弁護士が窓口になるため、自社で対応する必要がなくなります。
弁護士への依頼時に照会書を持参すれば、弁護士が裁判所に提出してくれます。
労働審判申立書が届いた後の手続きの流れ
ここでは、労働審判手続きの流れについて解説します。
答弁書を作成・提出する
期日呼出状に記載された答弁書提出期限までに答弁書を作成して提出します。
労働審判手続きでは、第1回期日における当事者の主張が、審判の結果に大きく影響します。第1回期日までに情報や証拠を収集して、充実した答弁書を作成・提出して期日に臨む必要があります。
弁護士に依頼した場合は、弁護士が代表者や申立人の直属の上司等から事実関係を聴き取り、答弁書の作成や証拠書類の準備を対応します。
第1回労働審判期日に出席する
第1回労働審判期日には、弁護士とともに、本人または代表者が出頭する必要があります。
第1回労働審判期日では、裁判官が当事者双方の主張及び証拠書類を確認し、争点を把握したうえで、当事者双方に質問する形で進められます。
裁判官が疑問に思うことや、関心のある事項について一通り質問した後、労働審判員が補充的な質問をして、裁判官が当該事件に対する心証を示します。
第1回労働審判期日にかかる時間は2時間程度です。
第2回労働審判期日以降の流れ
第2回労働審判期日では、補充主張や証拠の提出などを行い、引き続き調停が試みられます。第1回労働審判期日での裁判官の心証を見極めて、ある程度の解決案を事前に検討して期日に臨む必要があります。
第3回労働審判期日では、調停による解決を図るのか、審判(裁判官の判断)を求めるのかを決める必要があります。
調停の成立
話し合いによる解決の見込みがあれば、調停を試みます。調停が成立すれば、その時点で手続きは終了します。
労働審判
話し合いがまとまらない場合は、労働審判委員会が、トラブルの実情に即した判断(労働審判)を示します。多くのケースでは、第2回労働審判期日で審判手続きが終了します。
第2回・第3回労働審判期日にかかる時間は30分~2時間程度です。
労働審判手続きは第1回目の期日までの約1か月が勝負
労働審判手続きは第1回目の期日までの約1か月が勝負です。
労働審判規則では、次のように定められています。
当事者は、やむを得ない事由がある場合を除き、労働審判手続の第二回の期日が終了するまでに、主張及び証拠書類の提出を終えなければならない。(労働審判規則27条)
第二回の期日が終了するまでとありますが、2回目の期日で主張及び証拠書類の提出を行うのは、第1回で労働審判委員から指示された場合などに限られることがほとんどです。事実関係の確認も原則として第1回期日に行われ、2回目以降は行いません。そのため、第1回期日までの準備が重要になります。
ここでは、第1回労働審判期日までに必要な準備について解説します。
【前提】申立書受領後すぐに弁護士に依頼する
労働審判申立書を受領したら、すぐに弁護士に依頼しましょう。
申立書受領後すぐに弁護士に依頼すれば、答弁書提出期限まで3週間程度の余裕があります。弁護士への依頼が遅れると、答弁書提出期限までの日数が短くなり、準備不足のまま第1回労働審判期日に臨むことになりかねません。

主張したいことを全て盛り込んだ答弁書を作成する
裁判所は、第1回目労働審判期日までに提出される答弁書や証拠書類、双方の主張を踏まえて当該事件に対する心証を形成します。第2回、第3回と期日が続いても、一度形成された心証を覆すのは難しくなります。
そのため、答弁書には主張したいことを全て盛り込み、主張を裏付ける証拠書類を不足なく準備しなければなりません。
想定問答集を作成して審尋のリハーサルをする
審判手続きにおける審尋(尋問手続き)では、通常の裁判と異なり、裁判官が主導的に質問を行います。
裁判官からの質問に対し、曖昧な答えや答弁書の記載と異なる主張を行うと、裁判官の心証形成に不利に働く可能性があります。
そのため、第1回労働審判期日までに、想定される裁判所からの質問への受け答えを準備することが重要です。想定問答集を作成して審尋のリハーサルをするなど、裁判官からの質問にスムーズに回答できるよう準備しましょう。
労働審判手続きは弁護士への依頼が不可欠
ここでは、労働審判手続きを弁護士に依頼すべき理由について解説します。
迅速な対応が必要
労働審判申立書を受け取った後は、約3週間以内に反論事項をまとめ、証拠書類を確保し、主張したいことを全て盛り込んだ答弁書を提出する必要があります。
答弁書の作成に並行して、第1回労働審判期日における審尋に備え、想定問答をして、裁判官からの質問にスムーズに回答できるよう準備しなければなりません。
タイトなスケジュールの中、通常業務を行いながら手続きの準備を進めることに負担を感じることもあるでしょう。事実関係の整理や関係者からの聴取に十分な時間を確保できず、十分な準備ができないまま第1回労働審判期日に臨むことになりかねません。
弁護士に依頼すれば、答弁書の作成や証拠書類の選定等、専門性を要する煩雑な手続きを全て任せられます。
労働法に関する知識と労働審判の実績が必要
労働審判期日において、状況に応じた的確な主張・立証を行うためには、労働法に関する知識と労働審判の実務経験が不可欠です。
弁護士に依頼すれば、法律と客観的な証拠に基づいた適切な主張が行えます。
労働審判手続きでは、第1回労働審判期日における審尋において裁判官が形成した心証で、結果がほぼ決まります。
弁護士が就いていれば、審尋の場面でも、自社に有利な事情をアピールしたり、質問のやり取りで自社に不利な誤解が生じたときは、その場で指摘して誤解を解いたりしてもらえます。
まとめ
労働審判申立書が届いたら、受領後約1か月間で準備を整えなければなりません。
第1回労働審判期日で裁判官が抱いた心証を、その後の審判期日で覆すことは困難です。
限られた時間で十分な準備をし、期日において的確な主張・立証を行い、自社に有利な結果に導くためには、弁護士に依頼することが望ましいでしょう。
労働審判申立書が届いたら、1日も早く弁護士に相談・依頼することをおすすめします。