IPOにおける法務の役割・必要性を徹底解説

IPOを成功させるには、法務の充実が欠かせません。
例えば東京証券取引所(一部・二部)の場合、以下の実質審査基準をパスできなければ、上場できません。
- 企業の継続性及び収益性
- 企業経営の健全性
- 企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性
- 企業内容等の開示の適正性
- その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項
引用元:日本取引所グループ|上場審査基準
この記事では、上記審査基準に対して、どのように対策をしていくのか、法務がどう関係するのか、といったポイントをご説明します。IPOを考えられている方は参考にしてみてください。
IPOの審査基準と法務の役割
ここでは、東京証券取引所(一部・二部)の上場審査基準を例に、具体的にどのような点が審査され、どのように法務がかかわってくるかを説明します。
企業の継続性及び収益性
企業の経営活動の継続のため、安定した利益計上と支払能力の維持が求められます。
・継続性とは
仕入れ・生産・販売などすべての事業活動について、これまでの実績や各取引先との関係性を精査され、製品やサービスの需要動向と照らし、事業が安定的に継続できるかを確認されます。
各取引先との契約状況の把握や想定される法的問題点を早期に洗い出すことが法務の役割となります。
・収益性とは
ビジネスモデルの特徴、これまでの業界の収益動向や今後の動向、ライバル企業の状況など事業環境をふまえた適切な事業計画が作成されているか、上場後も今以上に利益水準を高めていけるかを確認されます。
例えば、ビジネスの根幹となる知的財産権が適切に管理されているか、他社の知的財産権を侵害していないかといった精査が必要となります。
また、新規性の高いビジネスは、既存の法規制の範囲内であるがグレーな場合も多く、ビジネスモデルの法的リスクを洗い出し、どの法律の何条のどの文言が論点になるかを把握し、対応することが必要となります。
このように企業の規模やビジネスモデルに合った問題点への対処が法務の役割となります。
企業経営の健全性
公正かつ忠実に事業を行うことが求められます。
具体的には、以下のような点を確認されます。
- 役員や大株主などの特定の者にだけ特別に有利な条件で取引が行われていないか
- 役員構成が親族関係に偏っていないか
- 役員の兼務が多く経営に支障が生じる状況にないか
ワンマン経営や属人的経営となっていないかを客観的に精査したり、事業承継対策などについてアドバイスしたりすることも法務の役割となります。
企業のコーポレートガバナンス及び内部管理体制の有効性
事業活動を適切かつ継続的に運営するために必要となる仕組みや内部管理体制が社内で適切に整備され、有効に機能しているか確認されます。
・コーポレートガバナンス
企業経営において公正な判断・運営がなされるよう、監視・統制する仕組みを指します。
法令違反やトラブルは必ずしも故意的なものとはかぎらず、法律を知らないことにより発生してしまうケースが多くあります。
潜在的なリスクを洗い出し、未然に回避することが法務の役割となります。
・内部管理体制の有効性
経営者および従業員全員が遵守しなくてはならない規則を定め、公正かつ透明性のある事業活動を行うための仕組みを指します。具体的には、社内ルールが整備され、守られているかということです。
これに対する法務の役割は、主に以下4点です。
- 社員の情報や社内規程の適切な管理
- 職場環境や多様化する社員の働き方に合わせた就業規則や雇用契約書の作成
- 社員のトラブルや不正を防止するためのコンプライアンス研修の実施
- 訴訟等のトラブルに備えた契約書作成など
企業内容等の開示の適正性
投資家の投資判断に役立つ企業情報を、迅速かつ適切に開示できる体制の維持が求められます。具体的には以下の各開示制度に則って行う必要があります。
・金融商品取引法の規定による開示制度
投資者のために企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する会計情報を提供する必要があります。
・会社法の規定による開示制度
株主と債権者の利益のため、両者の利害調整のために、財産及び損益の状況に関する会計情報を提供する必要があります。
・証券取引所の適時開示制度
有価証券の投資判断に重要な影響を与える企業の業務、運営又は業績等に関する情報を適時開示情報伝達システム(TDnet)により開示する必要があります。
平成27年5月15日に、平成26年金融商品取引法等改正(1年以内施行)等に係る政令・内閣府令等が公布されました。
法令改正があった場合に、企業にどのような影響が及ぶのかを調査・検討することも法務の役割となります。
また、企業の決定事実や発生事実等を踏まえて、開示する必要性や時期等を見極め、助言することも法務の役割です。
その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項
投資家保護という観点から、企業が法令違反をしていないか、係争事件が生じていないか等を確認されます。また、反社会的勢力による経営活動への関与を防止するための社内体制を整備し、関与の防止に努めていること及びその実態が確認されます。
法令違反をしていないかの確認に加え、仮に、従業員や顧客から訴えられる等の法的トラブルに巻き込まれた際に、早急に紛争解決し、上場に大きな影響を与えないことが法務の役割となります。
上記以外でIPOに必要な法務
上記に挙げた以外にも具体的な法的業務があります。
株主総会、取締役会、監査役会の準備や運営支援
株主総会では、会社法で定められた決議事項について採決し、報告する必要があります。
株主総会の決議に瑕疵があるなど、適法に株主総会の運営ができなければ、決議が取り消される可能性があります。また、近年株主総会における株主の発言は増加傾向にあり、株主からの質疑への対応を余儀なくされます。
事前に予想される質疑応答の精査から、適法な株主総会の運営までサポートすることが法務の役割となります。
売掛金等の債権回収のサポート
売掛金をはじめとする未回収の売上債権について、リスク管理を行う与信管理も重要となります。回収不能となるリスクを避け、取引先や金額、その他の事情にあった方法により、債権回収することが法務の役割です。
IPOで法務に関する問題が起きた例
法務に関する問題に直面した具体例を紹介します。
内部統制、開示制度の不備による問題
企業の成長を売上高や利益の成長と考える経営者は多く、顕在化していない問題への管理や法務に対して膨大なコストをかけることに尻込みする傾向があります。内部統制や開示制度が不備となり、株式公開が延期となった企業は少なくありません。
労務問題
残業代を適正に支払っていない企業は意外と多く、例えばみなし残業代を支払っていても、きちんと計算をして超えていれば支払わなくてはなりません。
民法改正の影響を受けて、未払残業代の時効は、2020年3月31日までに発生したものについては「2年」、2020年4月1日以降に発生したものは、「3年」となりました(労働基準法第115条、115条の2)。
よって、少なくとも退職従業員も含む過去2年分(上場前期、前々期分)の残業代の精算が必要となります。
上場承認が下りた後に、労務紛争が発生して上場ができなくなってしまった企業もあります。
IPOの準備に法令遵守は最低限と言ってよいほど当たり前です。見直さなくてよいものはないと思った方がいいかもしれません。
IPO法務で弁護士に依頼できる3つのこと
IPOするにあたって、弁護士は、治療・予防・戦略の3つの側面で役立つことでしょう。
治療(紛争解決)
紛争解決のためには、その当事者や経緯、そのほか個々の事情に合った解決方法があります。早期解決のために最良の方法で解決に導くことができるのは、法律事務全般について取り扱える弁護士だけと言えるでしょう。
予防(法令遵守やリスク管理)
企業が遵守しなければならない法律は、会社法や労働基準法のほか、独占禁止法、不正競争防止法、消費者契約法、著作権法、金融商品取引法、労働基準法などが挙げられます。多種多様な法律を網羅し、サポートできるのは法律のプロである弁護士でないと難しいでしょう。
戦略(企業価値向上へのサポート)
企業にとっての利益を考慮し、法的リスクの分析や法令解釈を行ったり、効果的な知的財産権の活用方法の提案をしたりするなど豊富な法的知識から企業価値を高めるサポートができます。
まとめ
IPOのためには、法務の存在が欠かせないことがわかりました。
企業の事業拡大を見据え、IPOへ向けて踏み出すためにもまずは弁護士に相談してみると良いかもしれません。