事業譲渡のスケジュール・手続き・流れを徹底解説

事業譲渡には、譲渡対象を個々に選んで譲渡できるというメリットがあります。

反面、やるべき手続きが多く、ほかのM&Aの手法と比べて手続き完了までに時間を要します。

この記事では、事業譲渡の手続きの進め方や、手続き上の注意点などについてご説明します。

 

■事業譲渡スケジュール

事業譲渡を行う場合に、どのように手続きに入り、進行し、完了するのか。

ここでは、事業譲渡のスケジュールについて詳しくご説明します。

 

◆事業譲渡手続きの流れ

事業譲渡手続き全体の流れは、以下の表のとおりです。

◆事業譲渡の準備

・事業譲渡手続きの準備

事業を譲渡する会社は、事業譲渡を行う計画を立てるために、まず、自社分析を行います。

自社の経営状況、経営資源(技術・人材・ブランドなど)、抱えている課題、市場調査に

よる市場価値など様々な点から自社の強み・弱みを明確にして、現状を把握します。

事業を買収する会社もまた、事業買収の目的や買収すべき事業などを明確にするために自社分析を行い、自社の現状を把握します。

 

・事業譲渡計画作成

自社の現状が把握できたら、どういう目的で事業譲渡するか、目的達成のためにどの事業を譲渡するか、どのくらいの価額で譲渡するか、いつまでに譲渡するかなど、事業譲渡を進めるための計画を立てます。

このように自社分析を経て事業譲渡計画を立案することは、事業譲渡の目的を達成するためにはどのような会社に譲渡すればいいのかという具体的なイメージにもつながります。

 

◆選定と交渉

・M&A仲介者を通して譲渡先を選定

次いで譲渡先の選定です。

通常、取引先や従業員などへの影響を考慮して事業譲渡契約が締結するまでは事業譲渡することを明かせないため、譲渡会社の経営者が個人で探すことは難しく、M&A仲介会社に依頼して譲渡先を探します。

 

・譲渡先との条件交渉

譲渡先候補が決まれば、秘密保持契約を締結したうえで条件交渉に入ります。

交渉内容は、譲渡対象となる事業とその価格、譲渡までのスケジュール、従業員の処遇・引継ぎの期限など多岐にわたります。譲渡会社・譲受会社双方は自社が優先したい条件を検討し、それを叶える交渉をしましょう。

 

・経営者同士の面談

譲渡会社・譲受会社双方の情報のやり取りがある程度進み、譲渡の可能性が高まった段階で経営者同士の面談を行います。双方の経営者が顔を合わせ、経営者同士の相性や、人間関係・協力関係が築けるかなど資料上では得難い情報を話し合いによって確認します。

 

・譲受会社から譲渡会社へ意向表明書交付

譲受会社から譲渡会社へ『意向表明書』を交付します。

『意向表明書』は、譲受会社が買い取りの意向を表明し、譲受条件や手続進行などの希望を伝える書面です。会社法で作成が定められてはいませんが、多くの場合、譲渡後のトラブルを防ぐ目的で作成され、経営者面談を終えたタイミングで譲受会社から譲渡会社に交付されます。

交付された譲渡会社側は、意向表明書の記載内容に問題がないか確認します。

 

◆基本合意契約の締結

譲渡会社と譲受会社とで『基本合意書』を締結します。

『基本合意書』は、両社の合意事項をまとめた書面で、最終的に譲渡契約書を交わす前の中間合意の位置づけです。

具体的には、M&Aの手法、譲渡条件、デューデリジェンス、手続の日程などが記載されますが、基本合意書も会社法で作成が定められていないため、記載事項に決まりはありません。

 

◆譲受会社によるデューデリジェンス

・デューデリジェンスとは

基本合意書締結後は、譲受会社が譲渡会社のデューデリジェンスを行います。

デューデリジェンス(Due Diligence、略して「DD」と呼ばれています)とは、「相当な調査」「当然の努力」といわれる企業調査です。

  • Due=義務・当然の・正当な
  • Diligence=努力・精励

M&Aや組織再編などの際に、対象となる企業の価値や実態を把握するため、経営状況・財務状況・法務状況・市場でのポジションなど総合的に調査します。

事業譲渡では、基本合意書締結から最終交渉までのこのタイミングで譲受会社が譲渡会社についてデューデリジェンスを実施します。これより早ければ譲渡会社の従業員に知られる可能性が高くなり、遅ければ別の会社に先を越される可能性があります。

 

・デューデリジェンスの種類

デューデリジェンスは事業・財務・税務・法務などを調査対象とし、多くの種類があります。以下、簡単に主なデューデリジェンスについてご紹介します。

  • 事業デューデリジェンス

対象企業の事業に関する調査です。この調査は、対象企業の市場での位置づけの確認、ビジネスモデルの把握、事業の将来性の判断などが目的です。

  • 財務デューデリジェンス

対象企業の財政状況・経営成績など財務状況に関する調査です。この調査は、対象企業の財務状況の把握、今後の収益の予測、不正な取引・経理処理の有無の確認などが目的です。

  • 税務デューデリジェンス

対象企業の税務処理状況に関する調査です。この調査は、法人税や事業税などの税金が適正に申告・納税されてきたか、繰越欠損金の処理は適正かなどの調査が目的です。

  • 法務デューデリジェンス

対象企業に関する法務上の調査です。この調査では、企業の定款、締結した契約や取引等の事業に関係する権利・債権債務・許認可など広範囲にわたって法務上の問題がないかを確認することが目的です。

  • 人事デューデリジェンス

対象企業の人事に関する調査です。就業規程や給与体系などの人事制度、採用や評価制度などマネジメントについて確認し、人事上のリスクに備えることなどが目的です。

  • ITデューデリジェンス

対象企業の管理システムの調査です。この調査は、対象企業の会計・人事労務・顧客および販売管理など管理システムを確認し、M&A後のシステム統合の検討などが目的です。

  • 環境デューデリジェンス

対象企業の環境上のリスクを明らかにする調査です。この調査は、土壌汚染・大気汚染・騒音・振動・産業廃棄物・石綿などの発がん物質など対象企業の環境規制や環境リスクを把握することなどが目的です。

このようにデューデリジェンスには様々な種類がありますが、すべてを実施すると時間も費用も労力もかかりますので必要なデューデリジェンスのみを実施すれば良いとされています。

・デューデリジェンスの流れ

デューデリジェンスを実施するために、譲受会社はまずどのデューデリジェンスを実施するか決める必要があります。そのためには、譲渡会社の経営状態・人事・ITシステムなどを把握しておくだけでなく、自社のそれも把握していなければ決定ができません。

どのデューデリジェンスを実施するかが決まったら、必要に応じて専門家に依頼をします。財務・税務デューデリジェンスは税理士や公認会計士、法務デューデリジェンスは弁護士、ITデューデリジェンスはITコンサルティング会社などが調査を担います。

次いで、実施するデューデリジェンスに関する資料の開示を譲渡会社に求めます。開示された資料は専門家が分析・精査し、必要があれば追加で資料の開示を求めたり、譲渡会社を訪れ、経営陣等のインタビューや社内にある資料を確認したりします。

調査が終わると、専門家から報告書が提出されますので、それをもとに譲受会社は最終的に譲受条件を検討し、譲渡会社と交渉をします。交渉後、事業譲渡契約書の最終案を作成します。

◆取締役会の決議

事業譲渡は、会社法が取締役会の決議を必要とする「重要な財産の処分及び譲受け」に該当するため、譲渡会社・譲受会社が取締役会設置会社である場合、事業譲渡契約書の内容についてそれぞれ取締役会の承認決議を得ます(会社法362条4項)。また、例外を除き、事業譲渡は株主総会の特別決議で承認されなければ効力が発生しないことから、株主総会の招集についての決議も必要となります。

 

◆事業譲渡契約の締結

事業譲渡契約書は会社法で作成が定められていませんが、この契約書を取り交わすことは譲渡会社・譲受会社双方の最終合意の証となり、また必要に応じて法的拘束力のある事項を盛り込むことで事後のトラブルを防止する効果もあります。

・事業譲渡契約書の一般的な記載事項

事業譲渡契約書の一般的な記載事項は、譲渡する事業の内容・譲渡価額・譲渡日(効力発生日)・従業員の取り扱い・競業避止義務などです。記載事項に決まりはありませんが、事業譲渡の事案ごとに記載すべき事項は変わってきますので、ネット上に出回る雛形を安易に用いず、専門家の意見を聞きつつ、よく検討したうえで作成する必要があります。

 

◆各所への対応

・公正取引委員会への届出

譲受会社が独占禁止法の定める一定の条件を超えている場合、公正取引委員会へ事業を譲り受けたことを届け出る必要があります。届出の要件は以下のとおりです。

国内売上高合計額が200億円を超える会社(譲受会社)が、

  • 国内売上高が30億円を超える会社のすべての事業を譲り受ける場合
  • 譲り受ける事業が他社の重要部分であって、この対象部分の国内売上高が30億円を超える場合
  • 譲り受けする事業が他社の固定資産の全部または重要部分であって、この対象部分の国内売上高が30億円を超える場合

 

・内閣総理大臣への臨時報告書の提出

譲渡会社・譲受会社いずれも有価証券報告書の提出のある企業で、事業譲渡により以下の要件に該当する場合には、内閣総理大臣に臨時報告書を提出する義務があります。

  • 事業譲渡または譲受により、純資産額が30%以上増減する場合
  • 事業譲渡または譲受により、売上高が最近事業年度比で10%以上増減することが予想される場合

 

◆株主への通知および公告

譲渡会社および譲受会社は、事業譲渡の効力発生日の20日前までに、事業譲渡を実施すること、株主総会を開催することを株主に対して個別通知や官報・電子公告で周知します。

また、事業譲渡に反対の場合は、株式の買取請求権があることも周知します。

 

◆株主総会の特別決議

・効力発生日前日までに株主総会の特別決議で承認

株主総会の特別決議とは、議決権の過半数を持つ株主が出席し、その3分の2以上から賛成を得ることを要件とする重要議題で求められる決議です。

事業譲渡では、譲渡会社および譲受会社は、一定の場合を除き、事業譲渡の効力発生日の前日までにそれぞれの株主総会で特別決議による承認を得る必要があります(会社法467条)。

 

【譲渡会社で特別決議が必要な場合】
  1. 全事業を譲渡する場合
  2. 事業の重要な一部(総資産の20%を超える事業)を譲渡する場合

 「事業の重要な一部」か否かは、事業譲渡で譲渡する資産が会社の総資産に占める割合(量的側面)と、事業譲渡による会社イメージへの影響(質的側面)の両側面から総合的に判断します。

3. 事業の全賃貸、全経営を委任する場合等

 

【譲受会社で特別決議が必要な場合】
  1. 全事業を譲受する場合

 

・株主総会の特別決議が不要な場合

【譲渡会社で特別決議が不要な場合】
  1. 簡易事業譲渡の場合(事業譲渡により譲渡する資産の帳簿価額が自社の総資産の20%を超えない)
  2. 自社の総資産の20%超の資産を譲渡する場合でも事業の重要な一部の譲渡に該当しない場合
  3. 略式事業譲渡の場合(事業譲渡(事業の重要な一部の譲渡の場合を含む)の相手方が、自社の議決権がある株式を9/10以上保有している特別支配会社である)
【譲受会社で特別決議が不要な場合】
  1. 簡易事業譲受の場合(他社の全事業を譲り受ける場合であっても譲り受ける資産の帳簿価額が自社の総資産の20%を超えない)

 

・反対株主の株式買取請求

事業譲渡は株主の利益に多大な影響を及ぼします。そのため、事業譲渡に反対の株主には、所有する株式を公正な価格で買い取るよう会社に請求できます。

株主総会決議が不要な場合はすべての株主に認められ、株主総会決議が必要な場合は株主であれば議決権の有無にかかわらず認められますが、議決権を行使できる株主は株主総会の前に会社に対して「事業譲渡には反対である」旨を内容証明郵便で通知し、株主総会で反対の議決権を行使しなければ買取請求が認められません。

株式買取請求は、事業譲渡等の効力発生日の20日前から効力発生日の前日までに、買取請求に係る株式の種類と数を明らかにして行う必要があります。事業譲渡することを効力発生の20日前までに株主に通知するのは、株式買取請求権を行使できるようにするためです。

 

◆財産などの名義変更および許認可手続き

・譲渡された財産の名義変更

譲受会社に移転した事業資産のうち、譲渡会社の名義になっているものは譲受会社へ名義変更手続きをします。名義変更手続きは譲受会社が行いますので、譲渡会社は必要な情報を提供します。

・許認可手続き

事業譲渡では許認可は承継されませんので、譲受会社にて許認可の再取得が必要です。

◆事業譲渡の効力発生

事業譲渡契約書に定める「譲渡日」を迎えて、事業譲渡は効力を発生し、権利義務関係は移転します。法的な手続きは完了しますが、この後も従業員の引継ぎなど事業の引き継ぎ作業があります。

 

■事業譲渡の注意点

ここでは,事業譲渡の注意点について,譲渡会社・譲受会社に分けて解説します。

◆譲渡会社の注意点

・競業避止義務

譲受会社の利益保護のため、譲渡会社は、同一市区町村および隣接市区町村内にて、事業譲渡したものと同種の事業を事業譲渡日から20年間行うことができません(会社法21条)。

譲渡会社が負うこの「競業避止義務」の期間は、原則20年間ですが、譲渡会社・譲受会社双方の合意があれば、事業譲渡契約書で特約を設けて最長30年に期間延長することも、5年~10年に期間短縮することも可能です。

さらに、特約により競業避止義務自体の排除も可能ですが、多くの場合、譲受会社からの要請で競業避止義務が設定されます。

 

◆譲受会社の注意点

・許認可の申請時期

事業譲渡では許認可が承継されないことはすでに述べたとおりですが、許認可の再取得には時間を要する場合や、取得条件がある場合もあります。事業の譲渡を受けたが許認可が得られず営業できない事態にならないよう、事前に調査・検討しておくことが必要です。

 

・従業員との雇用契約

事業譲渡により従業員を承継するためには、譲渡会社・譲受会社間の譲渡の同意だけでなく従業員の個別同意が必要です。譲受会社は、同意を得られた従業員との間で雇用契約を締結しなければなりません。

譲渡会社と譲受会社の労働条件に隔たりがあれば、従業員が一度に離職してしまう可能性もあり、人材を流失させることになりますので、給与・労働時間・残業・退職金など雇用契約について十分検討する必要があります。

 

■まとめ

事業譲渡は、譲渡対象を個別に選択できるという利点の半面、手続きが煩雑で、手続完了までに早くて3ヶ月、長いと12ヶ月ほどかかる場合もあります。

特に重要な譲渡先の選定や条件交渉をスムーズに行うためには、専門家に相談・依頼して手続きを進めるべきでしょう。

この記事を書いた人

ネクスパート法律事務所