会社を設立したら社会保険に加入を!加入が必要な保険を全て解説

会社を設立したら、社会保険への加入が義務付けられます。
社会保険とは、会社に雇われている社員やパートタイム労働者が加入する「健康保険」「厚生年金保険」「労災保険」の総称です。
会社を設立したら、社長1人だけの会社でも、一定以上の報酬があれば社会保険に加入しなければなりません。
この記事では、会社設立後に加入が必要な社会保険について解説します。
社会保険に加入しなければならない事業所とは?
まず、会社の設立に関連のある、強制適用事業所と任意適用事業所について説明します。
株式会社や合同会社を設立すると、法人事業主は従業員の人数に関わりなく、必ず社会保険に加入しなければなりません。個人事業所でも強制的に社会保険に加入しなければならない事業所があります。また、強制適用事業所に当たらなくても、適用の申請をすることによって強制適用事業所と同じ扱いになる事業所があります。
強制適用事業所とは
製造業・鉱業・土木建築業・電気ガス事業・清掃業・運送業・物品販売業などの個人事業主が、従業員を常時5人以上使用している場合、強制的に社会保険に加入しなければなりません。このような事業所を強制適用事業所といいます。
国、地方公共団体または法人の事業所で、常時従業員を使用している事業所も強制適用事業所となります。
任意適用事業所とは
常時雇用する従業員が5人未満である個人事業所は、社会保険の加入義務がありません。
もっとも、社会保険の加入義務がない事業所でも、厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受けて、健康保険・厚生年金保険の適用事業所となることができます。この事業所のことを任意適用事業所いいます。
任意適用事業所となるためには、事業所で働く半数以上の人が適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受ける必要があります。
適用事業所になると、そこで働いている社員全員が保険に加入することになります。そのため、保険給付や保険料などは、強制適用事業所と同じ扱いになります。
なお、従業員数に関わらず、農林水産業・飲食業等の一部のサービス業の個人事業所は任意適用事業所となります。
会社設立後に加入しなければならない社会保険とは?(全5種類)
会社を設立したら加入しなければならない社会保険は5種類ありますが、まずはどのようなものか簡単に説明します。
健康保険
健康保険は国の医療保険の1つで、会社で働く人と、その家族が適用されます。病院での診察費・治療費や薬局での薬代の自己負担額の一部をカバーしてくれる制度です。
健康保険の保険料は事業主と被保険者が各2分の1ずつ負担しますが、事業主は、事業主負担分と、被保険者である自分の負担分を合わせた保険料を支払う必要があります。
厚生年金保険
基礎年金である国民年金に上乗せする形でもらえる年金制度です。会社勤めの方や公務員などが加入します。
雇用保険
雇用されている従業員が失業した場合や、育児・介護を理由に余儀なく休業した場合に、一定期間給付金が支給される、従業員のための保険です。
したがって、経営者は原則として加入できません。
週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上雇用の継続が見込まれる従業員を1人も雇用していない会社は加入する必要がありません。
労働者災害補償保険(労災保険)
勤務中や通勤時のケガ、病気、または死亡に対して保険給付を行う制度で、雇用保険同様、「事業に使用される者」が対象なので、経営者は原則として加入できません。
労災保険はパートタイム労働者も含めて、従業員を1名でも雇用した場合には加入する義務があります。
介護保険
介護が必要な方への介護費用を社会全体で支え合うための制度で、満40歳以上の人が加入しなければならない保険です。
65歳以上で要介護・要支援認定を受けた場合や、40歳以上65歳未満の人のうち、特定の疾患で要介護認定を受けた場合に、かかった介護費用を最大で9割を負担して貰える制度です。
加入対象者とは?
社会保険の適用事業所で勤務する人は社会保険に加入することになっているので、会社は加入対象者を社会保険に加入させなければなりません。
どのような人が加入対象者となるのか、会社の負担割合はどれくらいか、等を表にしましたので、確認してみてください。
種類 | 加入対象者 | 負担割合 |
健康保険 | 法人企業に勤める会社員 常用的に雇用しているパートタイム労働者 勤務時間および日数が正社員の3/4以上のパートタイム労働者 その他条件を満たす者 |
会社:各5割 |
厚生年金保険 | ||
介護保険 | 40歳以上の人 | |
雇用保険 | 31日以上の雇用見込みがあり、週20時間以上勤務している人 ※社長などの会社の代表者は加入できない |
会社:6~7割 |
労災保険 | 全ての労働者 | 全額会社負担 |
加入義務の例外
社会保険に加入義務があるとは言っても、これには例外があります。
給与が0円、あるいは保険料を下回る場合
健康保険・厚生年金保険・介護保険は、会社と従業員の負担割合が、各5割です。毎月の保険料を給与から控除するためには、保険料以上の給与報酬がなければなりません。
つまり、毎月の保険料以上の報酬がない場合には社会保険に加入しなくても問題はありません。その場合には、国民健康保険と国民年金に加入することになります。
会社設立後の社会保険の加入手続について
それぞれの社会保険の加入手続について、届出先、必要書類、その他添付書類等を表に記載しましたので、確認してみてください。
種類 | 届出先および 提出期限 |
必要書類 | その他添付書類 |
健康保険 | 年金事務所 設立後 5日以内 |
新規適用届 新規適用事業所現況書 被保険者資格取得届 健康保険被扶養者(異動)届 国民年金第3号被保険者の届出 |
会社登記事項全部証明書 保険料の口座振替依頼書 事務所の賃貸借契約書写し 出勤簿(タイムカード) 労働者名簿 賃金台帳 源泉所得税の領収書 |
厚生年金保険 | |||
介護保険 | 年金事務所 健康保険の加入手続をすることで完了 |
||
雇用保険 (労働者を雇用するとき) |
公共職業安定所 (ハローワーク) 従業員を雇用する事業を始めた日の翌日から10日以内 |
雇用保険適用事業所設置届 | 会社の登記事項全部証明書 労働者名簿 賃金台帳 出勤簿 労働関係成立届の控え |
労災保険 (労働者を雇用するとき) |
労働基準監督署 従業員を雇用した日の翌日から10日以内 |
保険関係成立届 | 会社の登記事項全部証明書 労働者名簿 賃金台帳 出勤簿 労働条件通知書(パートタイム労働者) 就業規則届(従業員10人以上) |
その他補足事項
・健康保険、厚生年金保険、介護保険は、給与から天引きし、加入先に納付しなければなりません。
・雇用保険に関しては、雇用保険適用事業所設置届を提出したあと、従業員を雇用した日の属する月の翌月10日までに雇用保険被保険者資格取得届を提出しなければなりません。
・労災保険に関しては、保険関係成立後50日以内に労働保険概算保険料申告書を各都道府県の労働局に提出しなければなりません。
健康保険についての補足
国民は全員、健康保険に加入することになっています。健康保険には複数の種類がありますが、それは職業によって加入先が違うためです。
民間の会社に属する人が加入出来る健康保険、公務員やその家族などが加入出来る共済組合、自営業者・無職者などが加入出来る国民健康保険などがあります。
例えば、中小企業の従業員とその家族は「全国健康保険協会(協会けんぽ)」に、大企業の従業員とその家族は「組合管掌健康保険(組合健保)」に、船員は「船員保険」に加入します。
社会保険料の計算方法や徴収に関して
社会保険料は毎月の給与から天引きするかたちで徴収します。
社会保険には5種類ありますが、健康保険・厚生年金保険・介護保険については、会社が2分の1を負担します。
給与計算の際の健康保険・厚生年金保険・介護保険料の、従業員負担分を算出するためには、以下の計算式で計算します。
保険料 = 標準報酬月額 × 保険料率 ÷ 2 |
「標準報酬月額」とは、実際に支払った毎月の給与など(月額報酬)の平均額を区切りのよい数字に区分した等級表に当てはめた、おおよその額です。
この月額報酬には、基本給のほかに通勤手当や住宅手当、早出残業手当等、労務の対象として受ける全ての諸手当や現物支給等が含まれますが、年3回以下の賞与はこれに含みません。
標準報酬月額の決定および改定のタイミングは以下4つがあります。
1.資格取得時の決定
2.年1回(7月1日時点)の定時決定
3.随時改定(標準月額に大幅な増減が生じたとき)
4.育児休業等終了時改定(従業員からの申出により)
標準報酬月額の等級一覧は、会社が加入している健康保険組合のHPで閲覧できます。
「保険料率」は、加入している各健康保険組合や各都道府県で確認できます。
パートタイム労働者について
契約社員やパートタイム労働者も、以下の一定の条件を満たした場合には加入させなければなりません。
1.以下のいずれかに該当すること
(1)従業員数が501人以上の会社で働いている
(2)従業員数が500人以下の会社で働いていて、社会保険に加入することについて労使間で合意がなされている
2.1週間の所定労働時間が、20時間以上であること
3.1ヶ月の所定賃金が8万8000円以上であること
4.雇用期間の見込みが1年以上であること
5.学生でないこと
設立後すぐに加入できないときは
会社を設立したらすぐに社会保険に加入しなければなりませんが、例えば従業員が社長1人の会社の場合で、報酬が著しく少ない場合等、すぐに加入できないこともあります。
加入できない事情がある場合には、国民健康保険・国民年金を継続することもあります。
社会保険未加入のままでいると-流れおよび罰則等-
社会保険に加入しなければならない会社および強制適用事業所が、社会保険に未加入のままでいると、年金事務所から指導をうけ、場合によっては罰則が適用されることもあります。
年金事務所からの加入要請
まず、管轄の年金事務所から電話や文書で加入要請が来ます。
この段階では、あくまでも自主的な加入を促すものなので、すぐに加入すれば、加入日以降に発生する保険料を納めることで済みます。
立ち入り検査の警告文書
加入要請に応じなかった場合には、年金事務所に呼び出されます。そして、加入義務や保険料額、支払い方法などの説明を受け、加入するよう指導を受けます。
立ち入り検査
それでも加入しなかった事務所には、厚生年金保険法に基づき、立ち入り検査に踏みきり、帳簿や書類の提出を求めたり、検査したりしたうえで、強制的に加入手続きをおこなうことがあります。
罰則の適用
立ち入り検査にまで至った場合には、最大、過去2年間の保険料が請求されてしまいます。
最大過去2年分の保険料の徴収
年金事務所から追徴の連絡が来た場合、加入を怠ったのは会社の責任なので、会社が保険料の請求を受けることになります。
会社は半額負担なので、未加入だった従業員も会社と同額の個人負担部分を支払うことになりますが、未加入であったのは会社の責任であることが多いので、従業員に負担を求めることは難しいと思われます。
また、遡って2年分を支払えと言われた従業員が支払えず(支払わず)に退職してしまった場合にも、会社が代わりに支払わざるを得ないでしょう。
いずれにしても、過去2年分の保険料を支払うことは会社にとって大きな負担となります。立ち入り検査前に加入すれば遡及適用の対象にならないので、加入要請が届いたらすぐに加入しましょう。
助成金を受給できない
厚生労働省が所管する助成金を受給するためには、社会保険に加入する必要があります。
助成金は、労働者の待遇改善や雇用の創出等のために厚生労働省が企業を援助してくれる趣旨のお金で、その財源は企業が払う雇用保険料です。
そのため、労働者のための保険である社会保険に加入していない企業は、国や地方自治体の助成金を受給することができません。
まとめ
会社を設立したことで健康保険や厚生年金に加入できるようになることは、老後の安心にもつながります。人件費が増加するデメリットもありますが、会社としての信用度にも関わるので、きちんと加入手続をしましょう。