選任決議を欠く取締役の監視義務違反行為について、商法旧266条ノ3等により損害賠償責任が認められたケース

事実関係
Xは、A社に対して約137万円の債権を有していましたが、A社が倒産していたためその回収ができなくなり同額の損害を被りました。
A社の代表取締役としてYが登記されていましたが、YはA社設立の際に、Bから名目上の代表取締役就任を依頼されて承諾しました。
しかし、その就任は創立総会、株主総会、取締役会の決議に基づいたものではなく、まったくの名目上のものでした。Yは代表取締役就任後もA社の業務執行には一切関与せず、その指揮監督をしたこともありませんでした。
Xは、A社倒産の原因は、Yが会社の業務をA社の営業部長Bに任せきりにし、Bにより放漫杜撰な業務執行が行われたことに起因するものである主張し、Yに対して、商法旧266条ノ3により損害の賠償を求めました。
判旨
控訴審は、「放漫杜撰な会社の経理状態が放置されていたことは、控訴人が取締役ことに代表取締役としての職務の執行を怠り、しかもなんらなすところなく、これを拱手傍観していた点に重大な過失があった」として、Yの監視義務違反を肯定しました。
最高裁も、Yの監視義務違反を肯定し、商法14条を類推適用した上で、Yに商法旧266条ノ3に基づく損害賠償責任を認めました。
Yの監視義務違反が肯定されたポイント
本件で、YはBに依頼され、名目上の代表取締役就任を承諾していました。YはA社の業務執行には一切関与せず、その指揮監督も全く行っていませんでした。
Yによる監視がなされていない中、Bの放漫杜撰な業務執行によりA社は倒産してしまいました。
以上のことから、裁判所は、Yの監視義務違反を肯定しました。
コメント
本件でもっとも争われたのは、取締役ではないのに取締役就任登記を承諾した者に当時の商法14条を適用ないし類推適用できるのか、という点でした。
商法14条にいう「不実ノ事項ヲ登記シタル者」とは文理上は当該登記を申請する者を意味するため、本件でいえばYではなくA社がこれに該当するはずです。
しかし、外観法理や禁反言の原則から、登記申請人である会社と不実の登記の作出に加功した取締役で取扱いを異にすべきではないというべきでしょう。
こうした価値判断から、控訴審は本件に商法14条を直接適用し、最高裁は類推適用しました。
Yの責任を認めるという点でいずれも同じ結論ですが、文理上登記申請者に不実登記作出に加功した者を含めるのは困難ですから、最高裁の採った類推適用が妥当といえるでしょう。