IPOのメリットとデメリットとは?|上場を目指す際の判断基準を解説!

IPOとは、未上場企業が、新規に証券取引所を介して株式を公開させることを意味します。「Initial(最初)Public(公開)Offering(売り物)」の略称であり、日本語では「新規上場」や「新規株式公開」といいます。
日本の企業は約400万社 あり、そのうち上場企業は約3800社 です。2020年1年間の新規上場企業数は103社となり、前年同期(2019年)と比較すると8社増となりました。
上場を目指す経営者の方も少なくないと思いますが、IPOにはどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか?
この記事では、IPOのメリットとデメリットを整理した上で、上場を目指す際の判断基準をご説明します。上場を検討する上でのご参考になれば幸いです。
IPOのメリット
IPOによって企業・従業員(社員)・株主(投資家)のそれぞれが得るものとはどんなものでしょうか。
企業としてのメリット
・資金調達の多様化と向上
証券市場から様々な形での資金調達が可能となり、それまで金融機関がメインだった資金調達方法が多様化します。さらに大手金融機関からの融資も受けやすくなります。
企業がIPOを選択する一番の理由といえるでしょう。
・知名度・信用力の向上
IPOにより、株式市況欄をはじめ新聞、雑誌などさまざまなメディアへの露出が増え、企業の知名度がぐんっと上がります。上場できるということは、すなわち会社の財務状況や業績、将来性について社会的な保証が得られているということで、会社の社会的信用も上がります。
・集客力向上・優秀な人材の確保
知名度が高くなると、今よりも多くの人に認知されるため、集客力が上がる場合があります。
有名企業になれば、求人に対する応募が増えるため、より優秀な人材を採用しやすくなります。
・管理体制の健全化
IPO準備の過程では、上場会社としてふさわしい内部管理体制の構築が求められます。社内・社外の人間による厳しい監視のもと、法令遵守や内部統制を実現します。
上場すると、管理体制が健全であることを世間に伝えられます。株主や取引先、消費者からの信頼を得やすくなるでしょう。
従業員(社員)としてのメリット
・社会的信用の増大
上場企業の従業員として社会的信用が増大し、満足感が向上します。
・インセンティブの付与
従業員の持ち株制度やストックオプションの付与の場合には、株式をある一定額で購入できます。上場して業績が上がった際に売ることで、大きな利益を生むことができます。また、自身が結果を出すと株価が上がる場合があるので、目の前の仕事を頑張る動機にもなり得ます。
・働きやすさの向上
IPOを行うにあたって、企業は内部管理体制を整えることとなり従来以上の働きやすさを感じ、働き方が多様化されます。
・転職で有利に
そもそも、IPOを目指して上場できる企業は一握りです。上場の過程で得た知識と経験は希少性が高く、IPOを目指している企業からは評価されやすくなるでしょう。
株主としてのメリット
・株式の流通拡大
株式市場で取引されることにより流通性が拡大します。上場前よりも広く株主を募れるため、資金調達の幅が広がります。
・資産価値の向上
株式の流通拡大によって株式の資産価値が高まります。また、上場に成功すると業績向上や事業拡大による株価上昇も見込めるため、株主が受ける経済的利益も増えることになります。
・保有する株式の換金性の増大
保有する株式が売買しやすくなり、現金にしやすくなります。
・創業者利潤の確保
IPOによって創業者が所有している株式を市場で売却することが可能となり、創業者が利潤を獲得できるようになります。
IPOのデメリット
メリットが多く感じますが、IPOを選択しない企業があるのはなぜでしょうか。デメリットも確認してみましょう。
経営面でのデメリット
・会社情報の開示義務とその体制の確立
上場会社になることで、有価証券報告書や四半期報告書の発行義務を負うとともに、決算短信を発表するなど、投資家に対して情報を適時かつ適切に公表する必要があります。 また、適時開示を行うためには、その体制を確立する必要があります。
継続的に良い条件で資金調達を行うためには、業績等の適切かつ十分な情報開示を行わなければなりません。
・敵対的買収等、株式買占めへの対応
株式市場では、市場で不特定多数の株主が自由に売買できることから、常に買収のリスクにさらされます。 敵対的買収(M&A)への対策が必要となります。
また、反社会的勢力の排除の対策も必要となります。
・株主対策
IPOによって、不特定多数の株主が存在するようになります。 一般株主の多くは配当、株式売却などの経済的利益を重視しており、株主からの業績向上・企業価値向上へのプレッシャーを受けることになります。
また、創業者の意向のみで経営方針を選択することができず、株主の意見に配慮した経営方針を選択する必要があります。必ずしも友好的な株主ばかりとは限らない中で、円滑な株主総会運営などの対策が必要となります。
・創業者は全株を同時売却できない
創業者は、IPOした途端に全株を売却することはできず、経営上の支配権を維持しながら、株式を順次段階的に売却していくことになります。
費用面でのデメリット
IPO準備からIPO後まで、一貫して管理・審査・監査・体制構築・維持費用がかかり、小規模な会社でも、上場までに最短で3年、その費用は数千万円かかるともいわれています。上場により株式の流通性が高まり、株式の異動が頻繁になれば株式事務の負担も増えます。
上場を目指す際の判断基準
どんな企業ならIPOを選択すべきなのでしょうか。どんなIPOなら成功するのでしょうか。
IPO投資の仕組み
投資家の立場からすると、新規に株を公開する企業は、将来性が高かったり伸び盛りだったりすることが多く、購入価格よりも初値のほうが高くなることが多いので、IPO投資は、比較的利益を得やすい投資とされています。その中でも業績の見通しが良好で、人気のある企業は初値で値上がりしやすいIPO株とされ注目されます。
2020年はコロナ禍で、日本をはじめ各国の中央銀行による大規模な金融緩和と巨額の財政出動で、巨額のマネーが株式市場に流れ込み、株価の相場が上昇基調となっています。株価の上がったタイミングで上場し、初値が公開価格の数倍になった企業もありました。
IPOまでの流れ
しかし、株価が上昇傾向にあるからといってそのタイミングで上場できるわけではありません。IPOは3年から5年かかる長期プロジェクトなのです。
IPOとなるための審査対象期間は2期間と定まっており、最低限この分の審査期間が必要となります。この2期の間に財務諸表監査制度や内部統制報告制度の対応、開示制度対応などを行います。上場申請のための監査や報告はかなりボリュームがあり、それ以前に社内体制の整備を行ったり、監査法人により短期審査を受けたりと少なくとも3年以上の時間を考慮して臨む必要があります。
・IPOしたほうが良いケース
継続的に拡大、成長できる事業であることが重要です。
2020年は「情報・通信業」が37社(前年28社)上場し業種別トップとなり、コロナ禍でも事業の拡大が期待される、クラウドやアプリなどのIT技術、AIを活用したビジネスを展開する企業が目立っています。
・IPOしなくても良いケース
営業活動により十分な利益があり、経営者が満足している場合は資金調達を考える必要はなく、IPOを目指す意味はないと言えます。非上場のままであれば、株主からプレッシャーを受けることもなく、自由度の高い経営が維持できます。
また、他社に経営を委譲することによって、経営権の換金をすることで儲かるケースがあります。社会情勢や企業の立ち位置、方向性が変化する可能性が高い場合も、IPOの計画が中止となり、手間とコストだけがかかって実現しないでしょう。
IPOに向けて顧問弁護士をつけるメリット
IPOには、法的サポートが不可欠です。最後に顧問弁護士をつけるメリットを2つご紹介します。
メリット1:IPOで損をするリスクを避けやすくなる
IPOのメリットは魅力的ですが、確実に上場できるわけではない点は悩ましいところです。自社が上場を目指すべきなのか、具体的にどのようなリスクがあるのか、事前に把握しておきたいと思いませんか?
顧問弁護士をつけることで、上場を目指す際のリスクを整理し、具体的な対策を講じやすくなります。上場にかかる時間と費用に対して、十分な利益を期待できるかどうか、顧問弁護士と共に確認していきましょう。
メリット2:法令遵守や内部統制の仕組み作りを任せられる
IPOを行うには、法令遵守や内部統制を実現する必要があり、複雑な会社法の知識だけでなく、独占禁止法や金融商品取引法、労働基準法などの知識が必要となります。様々な問題に対し、法的なアプローチにより適切な対応ができます。
まとめ
IPOには、多大なる時間と費用がかかりますが、資金や人材の確保などの面で得られるものは大きく、企業の拡大に有効と言えます。
IPOしたほうがよいか、IPOをするにはどうしたらよいか、まずは弁護士にご相談してみてください。