企業法務とは?役割・機能・業務内容を詳しく解説!

企業法務(きぎょうほうむ)とは、企業活動を行う際に付随する法律事務全般を指します。
企業法務として扱われる業務は多岐にわたるため、企業法務の内容や役割がよく分からない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、企業法務ついて、次のとおり解説します。
- 企業法務の概要
- 法務部の具体的な業務
- 企業法務を強化しようと思った場合の選択肢
経営者の方や管理職の方が企業法務についての理解を深める参考になれば幸いです。
企業法務とは?
企業法務とは、企業活動を行うにあたって処理すべき公法・私法のすべての分野にわたる法律事務の総称です。企業活動(企業の設立、取引・契約、人事、労務、解散)に伴い発生する法律問題の予防・対応・指導等の取り組みを意味します。
ここでは、企業法務の役割と機能について解説します。
企業法務の役割
企業法務の役割は、企業をとりまく法的枠組み(法規制、行政規制)の現状を正しく理解し、その枠組みの中で企業活動が適法性と社会的妥当性を保つように行われ、企業がその存立の目的である利益を確保しつつ健全な発展を遂げうるように、組織内の各部門の活動をサポートすることです。
企業法務の機能
企業法務には、以下のとおり、大きく分けて守りの法務と攻めの法務があります。
守りの法務
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守りの法務とは、企業価値を守る観点から、法的な紛争の発生を未然に防ぎ(予防法務)、または発生した紛争を解決するために適切な対応をとること(臨床法務)で、企業活動のリスクヘッジを図る機能 |
攻めの法務
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企業価値の最大化を図る観点から、企業活動の目的(効率化や利益向上)を実現するために、法律知識やスキルを用いて有用な戦略・戦術を立てて、企業活動を後押しする機能(戦略法務) |
その機能は、細かく分けると次の3つに分類されます。
- 臨床法務
- 予防法務
- 戦略法務
臨床法務
臨床法務とは、法的紛争が起こった際に企業が被る損害を最小限に抑えることを目的とする法務です。実際に起きた問題への対応がメインとなるため、迅速かつ慎重な対応が求められます。
臨床法務の具体的な業務内容は、主に以下のとおりです。
- 訴訟対応・和解
- 損害賠償請求
- 債権回収
- 財産の保全
- クレーム・トラブル対応
- 社員・役員の不祥事への対応
予防法務
予防法務とは、将来生じうる法的紛争を想定し、トラブルを未然に防ぐことを目的とする法務です。
法的紛争を完全に避けることは困難ですが、事前に法的な対策を講じておくことで、トラブルに発展した場合の損害を最小限に抑えられます。
予防法務の具体的な業務内容は、主に以下のとおりです。
- 契約書の作成・リーガルチェック
- コンプライアンス体制の構築・強化
- 雇用契約書や就業規則の整備
- セクハラ、パワハラなどのハラスメント防止
- 知的財産権の取得や侵害の確認
- 情報漏えい対策
戦略法務
戦略法務とは、法的知識や見解を活かして会社の経営戦略をサポートして、企業価値や利益の向上を図る法務です。
新規ビジネス展開で起こり得るリスクを先回りして調査したり、法務部門以外の部署でもリスク対応ができるよう整備したりします。
具体的には、次のような事業活動を円滑に進めるための法的サポートを行います。
- 新規事業の立ち上げ
- 新規取引の締結
- M&A
- 海外展開
- 知的財産の活用
- 行政への働きかけ
企業における法務部の具体的な業務とは?
ここでは、企業における法務部の具体的な業務内容を解説します。
法務部の代表的な業務内容は、以下のとおりです。
- 他部署からの法律相談への対応
- 契約書作成・監査等の契約法務
- 機関法務(ガバナンス)
- 紛争(訴訟)対応
- コンプライアンス法務
- 法令調査
- 労務・労働問題への対応
- 知的財産権の保護・戦略的な活用
- 債権回収・債権管理
- 新規事業・M&A・海外展開のサポート
他部署からの法律相談への対応
法務部の業務の一つとして、他部署からの法律相談への対応があります。
事業や取引が法令に違反しないかどうかや、企業活動に生じうる法的リスクを調査・周知します。相談相手の社員が所属する部署によって必要な法律が異なるため、幅広い法律知識が求められます。
パワハラやセクハラなどの問題に関する相談を受けたり、労働法等に関する社内研修を行ったりするのも法務部の仕事です。
契約書作成・監査等の契約法務
取引先との契約や取引に関する業務は、法務部の中心となる仕事です。
企業は取引先との間で、売買契約や秘密保持契約、業務委託契約等さまざまな契約を結びます。法務部では、これらの契約・取引が法的に問題ないか調査したり、契約書を作成・チェックしたりする役割を担います。
契約書の内容が、自社にとって不利益をもたらすものになっていないかだけでなく、相手方にとって不当なものになっていないかも確認します。
海外と取引がある企業では、英文契約書の作成や監査等も行います。
機関法務(ガバナンス)
機関法務は、株主総会や取締役会など会社の内部機関の活動が適法に行われるようサポートする業務です。企業の運営方針を決定し、実行する際に必要な法的手続きを行います。
具体的には、次のような業務を担います。
- 株式の発行
- 子会社の設立
- 企業の組織再編や上場対応などの業務
- 株主総会の対応(株主の招集、決議事項・議事録の作成等)
- 取締役会の運営(決議事項や議事録のチェック等)
紛争(訴訟)対応
顧客からクレームを受けた場合や、取引先や行政機関との間で紛争が起こった場合は、法務部が紛争・訴訟対応などを行います。
実際に訴訟が起きる頻度は少ないですが、起きたときの起動的に対応できる体制を整えるのも法務部の役割です。
訴訟に発展した場合には、主に次のような作業を担当します。
- 訴訟準備(証拠書類の収集・書証の作成、裁判書類の作成等)
- 代理人弁護士の選任
- 外部弁護士との協議・相談
- 紛争解決に向けた社内の情報収集
紛争解決後は、紛争の原因や自社の対応を分析し、再発防止策(契約書のフォーマットの改善、業務フローの見直し等)を講じます。
コンプライアンス法務
企業がコンプライアンスの取り組みを強化することで、社会や顧客からの信用度の向上につながります。企業によってはコンプライアンス部を法務部と別に設けるケースもありますが、一般的にコンプライアンス(法令や規定の遵守)への取り組みは法務部が担当します。
法務部は、相談窓口の設置や社内研修、マニュアル作成などを通じて社内に法令や規範の内容を周知し、社内秩序の維持と企業の信頼性確保に努める役割を担います。
法令調査
企業や業界にとって影響の大きい環境変化の一つに、法令改正があります。
法令改正が自社や業界、部門にとってどんな影響があるのかを調査・検討し、社内周知するのも法務部の役割です。
海外展開をしている企業の法務部では、日本だけでなく海外(進出国)の法令改正も調査します。
労務・労働問題への対応
労働問題は企業内部の紛争であることから、事業に支障を及ぼす可能性があります。
法務部は、紛争を予防する環境を整備し、対策を検討したり、問題が発生したときに迅速に解決したりする役目を担います。
具体的には、次のような業務を担当します。
- 就業規則や雇用契約書の作成
- 労働環境が労働基準法に準拠しているかどうかのチェック
- 訴訟・労働審判対応(地位確認・未払残業代の請求、ハラスメント等に基づく損害賠償請求等)
- 問題社員対応
- 人事異動、昇格、解雇などに関する紛争対応
- 労働組合からの団体交渉の対応
知的財産権の保護・戦略的な活用
企業における知財の業務内容は、知的財産の権利化をはじめ、知的財産戦略の立案、活用や技術提携、技術情報の管理、係争・訴訟対応など多岐にわたります。
知的財産戦略の立案
知的財産戦略の立案においては、法務部は、権利の出願、保護や活用などについて研究開発部や営業部など他部門とも緊密に協力しながら基本的な方針を定めます。
知的財産権の出願・登録
自社が何らかの商品やネーミング等を発案した場合は、特許権、実用新案権、意匠権、商標権等について特許庁に出願手続を行い、登録を受ける際に必要な手続きをサポートします。
知的財産権の活用
知的財産権は、自社で使用するだけでなく、ライセンス契約を用いて活用する方法があります。法務部は、ライセンス契約を締結するにあたり、知的財産法や独占禁止法の規定を調査し、使用を許諾する権利の範囲や製品の管理について、具体的な方針を定めます。
知的財産権の侵害に対する係争・訴訟対応
知的財産権の侵害に対しては、迅速に侵害の事実を発見した上で、警告書の送付や訴訟の提起など適切な対応をとる必要があります。
一般的には、法務部が外部弁護士と連携しながら対応します。
債権回収・債権管理
企業には、売掛金、売買代金、請負代金など様々な債権が日々発生します。債権を確実に回収するためには、平常時から予防的な債権の保全・債権管理が重要です。
法務部では、直接的な債権の回収(催告、民事保全手続、支払督促、訴訟等)のほか、以下のような予防的な業務も担当します。
- 取引先の信用調査
- 証拠書類の確保
- 債権保全のために有効な契約条項を設けた契約書の作成
- 時効の管理
新規事業・M&A・海外展開のサポート
新規取引・新規事業のサポート
企業が新規の取引や事業を開始する際には、新規の取引先や新規事業の対象となる業界の法的リスクを洗い出して、その対策を検討します。法規制の衝突により実現困難と思われる事業については、実現可能な手段を検討・考案します。
M&Aのサポート
企業の合併・吸収に際して、法務部は通常の買収や売却のほか、企業再編や事業承継なども対象に、以下のような幅広い領域でサポートする役割を担います。
- 秘密保持義務や独占交渉権等の取り決めの検討
- 買収監査(株式の帰属、潜在債務、過去の違法行為や訴訟事案、許認可の有無等の確認)
- 秘密保持契約書・基本合意書・株式譲渡契約書等の作成
- 買収後に生じうる自社への法的リスクの洗い出し・対策の検討
海外展開のサポート
企業の海外展開にあたり、展開先の法令や競合を調査したり、法的リスク(紛争・訴訟リスク等)を検討したりして、企業の海外進出が円滑に進むようサポートします。
企業法務を強化しようと思った場合の選択肢
自社の企業力を法務面から強化したい場合には、どのような方法があるのでしょうか。
ここでは、企業法務を強化しようと思った場合の選択肢を紹介します。
企業の法務力を強化する主な方法には、次の3つがあります。
- 顧問弁護士をつける
- 法務部を設置する
- 企業内弁護士を雇用する
顧問弁護士をつける
企業の法務力を強化するには、日頃から弁護士と接点を持ち、法的観点からビジネスを考える習慣をつけることが大切です。顧問弁護士をつければ、次のようなサポートを得られます。
- 日常的な法律相談や経営相談
- 契約書の作成・リーガルチェック
- 法改正等の法律の最新情報の提供
- トラブルに対する優先的・迅速的な対応
- トラブル予防のための事前アドバイス
- 人事・労務トラブルへの対応
- 債権回収トラブルへの対応
法務部を設置する
社内に法務部がない場合は、企業法務を専門とする部署を設置する方法があります。
ただし、法務部を新たに作るのには、それなりのお金が必要です。法律的知識を持った人材が必要であるため、採用費・人件費・研修費・部署新設費等として、年間数百万円のコストがかかることもあるからです。
顧問弁護士への顧問料の相場は、月額約5万円(年間約60万円)であるため、自社に法務部を設置するより、顧問弁護士を雇う方がコストを抑えられます。
企業内弁護士を雇用する
法務部門の強化の一環として、企業内弁護士(インハウスローヤー)を雇う方法があります。
企業内弁護士とは、企業や組織の社員・職員となって働く弁護士です。
社内に弁護士がいれば気軽に相談ができ、問題が生じた場合も迅速な対応が期待できます。社員として会社全体の状況を把握できるため、トラブルが発生した場合も、問題の背景を把握しているので、スムーズに業務が進められます。
大規模な企業等で、契約書のチェックや訴訟の弁護等を、一年を通して何度も弁護士に依頼しなければならない場合、弁護士を社員として雇った方がコストを削減できることもあります。
企業法務で使う主な法律は?
ここでは、企業法務において必要となる法律の知識について解説します。
企業法務では、多くの法的問題を取り扱うため、法律に関する知識・理解が不可欠です。
少なくとも、企業活動との関連性が強いと考えられる以下の法律は、知識として身に着け、理解を深めることが求められます。
- 会社法
- 民法
- 独占禁止法
- 個人情報保護法
- 労働法
- 知的財産法
会社法
企業法務は、企業活動をサポートする重要な役割を担うため、会社組織の運営等についてルールを定めた会社法の理解が欠かせません。
機関法務(ガバナンス)を担当する場合は、以下の項目について重点的に勉強すると良いでしょう。
- 株式会社の設立
- 株式と株主
- 株式会社の機関(株主総会、取締役・取締役会、監査役・監査役会)とその運営
- 株式会社の資金調達
- 株式会社の計算
- 株式会社の組織変更・合併
- 計算書類、事業報告、株主総会参考書類等
民法
企業間の取引や契約において、民法は基本的かつ重要な法律です。
民法が定める範囲は広く、全てを網羅的に学ぶのは時間を要するため、企業活動に関わりの深い以下の項目を習得しましょう。
- 総則
- 債権
- 物権
独占禁止法
独占禁止法は、自由経済社会における企業の公正かつ自由な競争を促進することを目的とした法律です。
独占禁止法違反の疑いがあった場合には、公正取引委員会による立入検査や事情聴取が行われます。違反が認められると、排除措置や課徴金、刑事罰などが科されることもあります。
企業活動が独占禁止法に抵触しないよう、法務担当者はその内容を十分に把握しておく必要があります。
個人情報保護法
個人情報保護法は、個人情報を取扱う企業が遵守すべき義務などを定めた法律です。
企業が顧客や従業員の個人情報を管理する際は、個人情報保護法の内容を理解し、同法に準拠した運用をしなければなりません。
労働法
従業員を雇用するすべての企業は、労働基準法に従わなければなりません。
使用者のみならず法務部担当者等は、労働基準法を正しく理解して労働環境の構築や労働紛争の解決にあたらなければなりません。
関連するその他の法律として、以下の法律の知識も必要です。
- 労働安全衛生法
- 労働組合法
- 労働契約法
知的財産法
法務部における知的財産に関する業務においては、他社の知的財産権を侵害することにより生じるリスクを排除するだけでなく、知的財産権により自社の製品に付加価値を付す等して、知的財産権を戦略的に活用することが求められます。
そのため、知的財産権に関する次の法律を習得しておく必要があります。
- 特許法
- 実用新案法
- 意匠法
- 商標法
- 著作権法
- 不正競争防止法
企業法務担当者に求められるスキルは?
ここでは、企業法務担当者に求められるスキルについて解説します。
企業法務担当者には、次のようなスキルが求められます。
- コミュニケーション能力
- リサーチ力
- 文書作成能力
コミュニケーション能力
法務部は、社内における法律相談の窓口としての役割や、取引先との折衝や調整等の役割を担います。そのため、法務担当者にはコミュニケーション能力やバランス感覚が求められます。
リサーチ力
法務の仕事には法律知識が不可欠です。大学の法学部卒業や法律関係の資格を取得している等、基本的な法律知識を有していることに加え、最新の法令を常にリサーチし続ける力が必要です。
法律知識のみならず、自社の企業活動を実現するために必要な情報を収集・分析するスキルも求められます。
文書作成能力
法務部は、各種契約書の作成等を行うため、文書作成能力は必須です。
近年では、国際取引が増加していることから、英文契約書を読み解く英語力等を求められることもあります。
企業法務担当者が取得しておくと良い資格は?
ここでは、企業法務担当者が取得しておくと良い資格について解説します。
企業法務に活かせる資格には、主に以下のものがあります。
- ビジネス実務法務検定
- 個人情報保護士
- 知的財産管理技能検定
ビジネス実務法務検定
ビジネス実務法務検定は、東京商工会議所が運営している民間の検定試験です。
法務部門に限らず営業、販売、総務、人事などあらゆる職種で必要とされる法律知識を習得することを目的としています。
ビジネス実務法務検定試験は3級から1級まであり、1級の試験では法律の知識だけでなく、実務能力までが問われているため、実務に活かせるスキルを習得できる可能性があります。
個人情報保護士
個人情報保護士は、一般財団法人全日本情報学習振興協会が主催する個人情報保護士認定試験に合格することで取得できる民間資格です。
個人情報保護に関する高度な知識を持ち、実務において個人情報の運用・管理を適切におこなえる専門家として、企業におけるニーズが高まっています。
知的財産管理技能検定
知的財産管理技能士とは、知的財産を管理し、適切に運営できることを公的に証明できる国家資格です。企業が知的財産を管理する上で必要となるスキルを習得できます。
まとめ
コンプライアンスの徹底が企業に強く求められる今日において、時代の変化に対応しながら健全な企業活動を続けるためには、企業法務への取り組みが不可欠です。
顧問弁護士をつければ、企業内の負担や不安を減らせます。特に法務部を設けるだけの金銭的・人的余裕のない企業は、法務機能のアウトソースとして顧問弁護士と契約するのは有益な手段の一つです。
企業法務で困ったことがあれば、弁護士に相談するとよいでしょう。