会社・法人破産の費用相場|費用を払ってでも破産を検討したい3つのケース

法人破産をするには、裁判所に納める費用や、弁護士に依頼するための弁護士費用などがかかります。
法人破産にかかる費用は、合計で80万円〜100万円程度です。
破産手続きを円滑に進めるためには、法人破産にかかる費用を残した状態で、引き際を判断するのが重要です。
そのためには、法人破産に必要な費用をあらかじめ知っておくことが必要です。
この記事では、法人の破産申立てに必要な費用について、次のとおり解説します。
- 法人破産で裁判所に納める費用
- 法人破産の弁護士費用相場・内訳
- 費用を払ってでも法人破産を検討したい3つのケース
会社の資金繰りが苦しくなった経営者の方や、法人破産をご検討中の方は、ぜひご参考になさってください。
法人破産で裁判所に納める費用
ここでは、法人破産で裁判所に納める費用について解説します。
- 申立手数料
- 予納郵券
- 官報公告費
- 引継予納金(管財人報酬)
申立手数料
法人の破産申立てに際し、申立手数料として、1,000円分の収入印紙を購入して裁判所に納める必要があります。
予納郵券
予納郵券とは、裁判所の事務手続きに必要な郵便切手です。予納郵券の金額や内訳は、裁判所によって異なります。申立先の裁判所が指定する金額・内訳で準備し、申立時に納めます。
東京地方裁判所に法人破産を申立てる場合の予納郵券の額は、4,200円です(大型合議事件の場合は6,000円)。
官報公告費
法人破産をすると、官報にその旨が掲載されます。官報公告費用は、申立人が負担しなければなりません。予納する金額は裁判所により異なりますが、東京地方裁判所の場合は、1万4,786円です。
引継予納金(管財人報酬)
法人の破産手続きは、管財事件となるのが原則です。管財事件では、破産管財人が選任され、財産の換価業務等さまざまな手続きが行われるため、その処理にかかる費用や破産管財人の報酬等が発生します。
これらの費用・報酬は、申立人(法人)が負担しなければなりません。
引継予納金の額は裁判所によって異なりますが、通常は、法人の規模や負債額等に応じて裁判所が決定します。
東京地方裁判所の運用は、以下のとおりです。
- 通常管財(特定管財)事件の場合:70万円以上
- 少額管財事件の場合:20万円以上
詳しく説明します。
通常管財(特定管財)事件の場合
通常管財(特定管財)事件の引継予納金の目安は、以下のとおりです。
負債総額 |
引継予納金 |
5000万円未満 |
700,000円 |
5000万以上1億円未満 |
1,000,000円 |
1億以上5億円未満 |
2,000,000円 |
5億以上10億円未満 |
3,000,000円 |
10億以上50億円未満 |
4,000,000円 |
50億以上100億円未満 |
5,000,000円 |
100億以上250億円未満 |
7,000,000円 |
250億以上500億円未満 |
8,000,000円 |
500億以上1000億円未満 |
10,000,000円 |
1000億円以上 |
10,000,000円以上 |
大規模な法人の破産や債権者の人数が多い場合や、弁護士による代理人申立てではないケースなどは、通常管財(特定管財)事件として手続きが進められます。
少額管財事件の場合
東京地方裁判所における少額管財事件の引継予納金は原則20万円です。事案により増額される場合もありますが、通常管財事件の引継予納金に比べると、費用負担が軽くなります。
少額管財事件とは、通常の破産手続に比べ、手続きを簡素化したものです。
東京地方裁判所をはじめ一部の裁判所で導入されています。
破産手続きが代理人(弁護士)によって申立てられて、同代理人によって事前調査が尽くされた場合に、一定の条件を満たせば少額管財事件として取り扱われます。
裁判所によっては、簡易管財事件と呼ばれることもあります。
法人破産の弁護士費用の内訳・相場
ここでは、法人破産を弁護士に依頼した場合の費用の内訳や相場を解説します。
相談料|30分5,500円~1万1,000円
相談料とは、法人破産について弁護士に相談した際に発生する費用です。
相談料の相場は、30分5,500円(税込)~1万1,000円(税込)です。初回相談料を無料とする弁護士事務所もあります。
着手金|50万円〜100万円
着手金とは、法人破産の依頼を受けた弁護士が手続きに着手するために必要な費用です。結果の成功・不成功にかかわらず、原則として返金されません。
法人破産の着手金は、法人の規模や債権者数によって異なりますが、最低でも50万円程度かかります。事案によっては、100万円を超えることも珍しくありません。
成功報酬|0円~30万円
報酬金とは、事案処理が終了した際に、その結果に応じて発生する弁護士費用です。
破産事件の場合は、債務者の経済的な困窮度合いが非常に高いケースが多いため、報酬金を設定していない事務所がほとんどです。
ただし、報酬金を無料とする事務所においても、申立に至る過程で過払金を回収できた場合は、別途成功報酬が発生することがあります。
その他にかかる費用|3万円〜5万円
裁判所に納める申立費用の他に、実費として以下の費用がかかることがあります。
実費の相場は、事案の複雑さや債権者数によって異なりますが、3~5万円程度が目安です。
郵便代金 |
数千円~1万円程度(債権者の数などによって変動します。) |
資格証明書・不動産登記事項証明書等の取得費 |
1通につき600円(オンライン請求の場合500円)。 ※各種証明書が複数枚にわたる場合で1通の枚数が50枚を超えるときは、50枚ごとに100円が加算されます。 |
破産管財人宛引継予納金の振込手数料 |
数百円~千円程度 |
従業員解雇による離職票や源泉徴収票等の作成費用(外部委託する場合) |
従業員の数や外部委託先によって異なります。 ※ネクスパート法律事務所では従業員の方に関するこれらの手続きは原則ご依頼いただく法人様にお任せしています。 |
リース物件の返却等にかかる配送料など |
1件につき千円~数千円程度 |
法人破産にかかる費用を手元に残しつつ事業の引き際を見極めるポイント
経営者の方の中には、従業員や取引先に迷惑をかけたくない気持ちから、経営が悪化していてもギリギリまで事業を続ける方もいらっしゃいます。
破産を検討するタイミングを誤ると、状況がさらに悪化し、結果的に従業員や取引先に迷惑をかける事態にもなりかねません。資金が完全にショートした後では、費用を工面できず、破産できない可能性もあります。
破産すべきか、破産以外の選択肢をとれるかを判断するためには、資金的にある程度の余裕がある段階で弁護士に相談することをおすすめします。
ここでは、法人破産に必要な費用を手元に残しつつ、事業のデッドラインを見極めるポイントについて解説します。
次のいずれかまたは複数に該当する場合は、なるべく早く弁護士へ相談することをおすすめします。
- 税金や社会保険料を滞納している
- 従業員の給与が支払えない・支払いが遅れている
- 金融機関に融資を断られ資金繰りの目処が立たない
- 慢性的な赤字により手持ちの現預金が減少している
- 数ヶ月先に資金ショートに陥る可能性がある
- 不採算部門ばかりで黒字をあげられる事業がない
税金や社会保険料を滞納している
税金の支払いが経営を圧迫した結果、法人を破産させなければならないケースは少なくありません。税金や社会保険料等の公租公課を滞納すると、会社の財産を差し押えられることがあるからです。
銀行口座が差し押さえられた場合、当該銀行から融資を受けていれば、口座の残金が銀行の債権と相殺されたり、残債務を一括請求されたりするおそれもあります。
滞納税金・社会保険料の督促状が届いている場合は、なるべく早く税務署や年金事務所と相談して、分割払いなどの差し押さえを回避するための対策をとりましょう。
会社の財産が差し押さえられると、法人破産に必要な費用が不足し、破産申立てができなくなる可能性もあります。
従業員の給与の支払いが遅れている
従業員への給与の支払いに遅滞が生じ始めたら、なるべく早く弁護士に相談しましょう。
法人破産の場合、最終的には従業員を全員解雇することになりますが、資金が残っているうちに破産を決断できれば、従業員に対して解雇予告手当や退職金を支払える可能性があります。
決断を先延ばしにして、資金ショートに陥ったあとに破産を決意した場合は、当月分の給与すら支払えず、これまで会社のために尽くしてくれた従業員やその家族の生活を脅かすことになりかねません。
金融機関に融資を断られ資金繰りの目処が立たない
弁済期が到来した債務や税金等を滞納している場合は、基本的に地方銀行や日本政策金融公庫で融資を受けられなくなります。
金融機関から追加融資を断られ、資金繰りの目途が立たなかったり、それにより取引先への支払いが止まったりしている状況であれば、なるべく早く弁護士に相談しましょう。
資金繰りの目処が立たない状況や取引先への未払いが一時的なものであれば、再建の可能性がありますが、慢性的なものであれば、破産を検討せざるを得ない可能性があります。
慢性的な赤字により手持ちの現預金が減少している
赤字がすぐに破産につながるものではありませんが、慢性的に赤字が続くと、資金が流出し続け、いずれは現預金が不足します。
資金が完全にショートした後に、破産を決意しても、法人破産に必要な費用が工面できず、破産できなくなる可能性もあります。
慢性的な赤字体質から脱却できる見込みがない場合は、なるべく早く弁護士に相談しましょう。
数ヶ月先に資金ショートに陥る可能性がある
当座の運転資金がなく調達の目処も立たないケースでは、手形や小切手の不渡りを出す可能性があります。1度目の不渡りから半年以内に2度目の不渡りを出してしまうと、銀行の取引が停止されるおそれがあります。
銀行取引停止処分を受けると、当座取引ができなくなります。
数ヶ月先に不渡りを出す可能性がある場合は、なるべく早く弁護士に相談しましょう。
不採算部門ばかりで黒字をあげられる事業がない
収益を上げられる事業がない場合や、不採算部門の切り離しを検討しても事業を継続できる目途が立たない場合は、再建が困難な可能性が高いです。
経営黒字化の目処が立たない場合は、なるべく早く弁護士に相談しましょう。事態が悪化する前に弁護士に相談することで、選択肢の幅が広がり、最適な解決策を選択できるかもしれません。
法人破産の費用がない場合はどうする?
法人破産を決断した時点で、会社に現金がほとんどないケースも珍しくありません。そのような状況下では、破産費用を工面できない可能性も考えられます。
法人破産に必要な費用が払えない場合はどうしたらよいのでしょうか?
ここでは、法人破産をするための費用がない場合の対処法を解説します。
売掛金回収や資産の売却により資金を確保する
手元にお金がない場合でも、会社に現金化できる資産が残っているケースがあります。そのような場合は、会社の財産を現金化して予納金や弁護士費用にあてられる可能性があります。
例えば、次のような方法で現金を準備できることがあります。
- 会社が所有する自動車や不動産を売却する
- 解約返戻金のある保険契約を解約する
- 未回収の売掛金を回収する
ただし、財産処分については、その時期や使途、売却価格等によって、後の破産手続きで問題になることがあります。会社の財産を処分換価して費用を捻出する際は、事前に弁護士に相談してアドバイスを受けましょう。
弁護士費用の分割払いを相談する
弁護士事務所によっては、費用の分割払いに対応している事務所もあります。まとまったお金がすぐに準備できない場合は、弁護士に費用の分割払いを相談してみましょう。
なお、裁判所によって異なりますが、裁判所に納付する引継予納金(管財人報酬)についても、分納が認められることもあります。
親族に援助してもらう
法人破産の申立てに必要な費用は、親族の援助等を受けて支払うことも可能です。
ただし、親族に費用を賄ってもらう場合は、借入ではなく援助(贈与)であることを、裁判所に証明できるようにしましょう。
法テラスを利用する(法人代表者のみ)
法人破産に際して、代表者個人も自己破産を申立てる場合は、代表者個人の破産申立てにかかる弁護士費用を援助してもらえる可能性があります。
ただし、あくまでも代表者個人に限られるため、法人破産にかかる費用は立て替えてもらえません。
詳しくは下記をご確認ください。
※なお、当事務所では法テラスの民事法律扶助制度の利用を希望される方からのご相談は現在受け付けておりません。
法人破産の費用を工面する際の注意点
ここでは、法人破産の費用を工面する際の注意点を解説します。
会社の資産の売却はタイミングや方法に注意する
会社の資産を売却して現金化する場合は、売却のタイミングや方法に注意しましょう。
申立直前に財産を売却した場合で、次のようなケースに該当する場合、後の破産手続きで問題になることがあります。
例えば、会社の資産を法外に安く売却したり、売却して得たお金を特定の債権者の返済にあてたりした場合は、破産管財人の否認権行使の対象となる可能性があります。
会社の資産を処分換価して費用を捻出する場合は、あらかじめ弁護士に相談してアドバイスを受けましょう。
破産手続費用の借入はNG
破産手続費用を借入れで賄うことは、絶対にしてはいけません。
返済できる見込みがないのに借入れる行為は、詐欺破産罪として刑事罰の対象となるおそれがあります。
法人破産の費用を節約する方法は?
ここでは、法人破産の費用を節約する方法を解説します。
できるだけ早く弁護士に依頼する
会社の経営が行き詰った場合は、なるべく早く弁護士に相談しましょう。弁護士に法人破産の申立てを依頼することで、裁判所に納める予納金の額を減らせる可能性があります。
弁護士が申立人代理人として申立てた場合に限り、一定の条件を満たせば、少額管財事件と手続きを進められる可能性があるからです。
申立前に弁護士が十分な調査を行い、法人が保有する財産がほとんどないことが明らかな場合は、少額管財事件して取り扱われる可能性があるため、裁判所に納める予納金の額を大幅に減額できます。
法人と代表者個人の破産手続きを同時に申立てる
法人と経営者の破産を同時に申し立てることで、法人の破産と経営者の破産を一つの破産事件として取り扱ってもらえることがあります。
破産事件を一つとして取り扱う場合は、予納金も1件分としてもらえるのが一般的です。少額管財で進められるのであれば、予納金は併せて最低20万円となるので、費用を大幅に減らせます。
ネクスパート法律事務所で受任した法人破産の引継予納金の例
ここでは、ネクスパート法律事務所で受任した法人破産の引継予納金の例を紹介します。
事例1
廃業から長期間経過しており、資産もほとんどない法人の破産手続きでは、裁判所の判断により少額管財事件として取り扱われ、引継予納金の額が20万円と定められました。
事例2
債権者80社ほどで、従業員もおり、事業もまだ動いていた法人の破産手続きでは、裁判所の判断により引継予納金の額が100万円と定められました。
まとめ
経営者の方にとって、会社の破産を選択することは重大な決断です。しかし、問題解決を先延ばしにすると、さらに状況が悪化し、取引先や従業員に多大な迷惑をかけるおそれもあります。
破産手続きを円滑に進めるためには、法人破産に必要な費用を残した状態で、引き際を判断するのが重要ですが、経営者ご自身で判断するのは難しいでしょう。
早い段階で弁護士に相談すれば、私的整理や再建型の倒産手続きを含めた複数の選択肢の中から解決手段を選択できる可能性があります。