インターネットの普及により、個人のパソコンやスマートフォン等から膨大な情報が発信され、多くの人がそれらを閲覧できるようになりました。
情報をいち早く入手できる利便性がある反面、誹謗中傷に関する問題も増加しています。
誹謗中傷の被害に遭った場合、相手方には法律上どのような責任が問えるのでしょうか?
この記事では、誹謗中傷に対して問いうる法的責任と講じうる法的措置について解説します。
誹謗中傷を受けたら法律上どのような責任が問える?
ここでは、誹謗中傷に対して問いうる法的責任を解説します。
刑事上の責任
誹謗中傷に適用されうる犯罪には、主に以下のものがあります。
- 名誉毀損罪
- 侮辱罪
- 信用毀損罪
- 業務妨害罪
- 脅迫罪
- 強要罪
各犯罪の成立要件や法定刑は、下表のとおりです。
成立要件 | 法定刑 | |
---|---|---|
名誉毀損罪 | 不特定多数の人が知ることになる状況(公然)で、真実または虚偽の事実を指摘して、人の名誉を毀損することによって成立する。 | 3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金 |
侮辱罪 | 不特定多数の人が知ることになる状況で、事実を指摘しないで人を侮辱することによって成立する。 | 1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料 |
信用毀損罪 | 嘘の情報を流したり人を騙したりして他者の経済的信用を損なわせた場合に成立する。 | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
業務妨害罪 | 嘘の情報を流したり人を騙したりして他者の営業を妨害した場合に成立する。 | 3年以下の懲役または50万円以下 |
脅迫罪 | 相手の生命・身体・自由・名誉・財産に対し害を加えることを告知したときに成立する。 | 2年以下の懲役または30円以下の罰金 |
強要罪 | 暴行・脅迫を用いて、相手の権利行使を妨害したり、義務のないことを行わせたりした場合に成立する。 | 3年以下の懲役 |
民事上の責任
誹謗中傷をした加害者に問いうる民事上の責任は、主に以下のとおりです。
- 不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)請求
- 謝罪広告の掲載等を求める名誉回復措置請求
不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)請求
誹謗中傷により他人の権利や利益を侵害した発信者に対しては、その不法行為により生じた損害の賠償を請求できます。
民法は、不法行為に基づく損害賠償について、以下のとおり定めています。
(不法行為による損害賠償) 第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
不法行為責任の発生要件については、被害者が立証責任を負いますが、誹謗中傷により侵害されうる権利や法律上保護される利益には、どのようなものがあるのでしょうか。
インターネット上の誹謗中傷により発生する権利侵害の代表的なものは、以下のとおりです。
- 名誉権侵害
- 名誉感情の侵害
- プライバシー侵害
- 営業権侵害
名誉権侵害
名誉権とは、人の品性・徳行・名声・信用等の人格的価値について社会から受ける社会的評価をみだりに低下されない権利です。
誹謗中傷により、社会的評価が下がった場合には名誉権侵害を理由とする損害賠償請求が認められる可能性があります。
民法上の不法行為として名誉権侵害(名誉毀損)は、刑事上の名誉毀損罪と異なり、公然と事実を指摘した場合に限らず、公然と意見や論評を表明した場合も成立すると考えられています。
その上で、刑法上の名誉毀損罪の場合と同様に、一定の場合に違法性が阻却されるというのが裁判実務の考え方です。
違法性阻却の要件は、以下のとおりです。
事実摘示型 | 意見・評論型 |
---|---|
以下のいずれも満たす場合は違法性ないし故意・過失が阻却される。 ①公共の利害に関する事実に関わること ②もっぱら公益を図る目的であること ③摘示された事実が真実であること(または摘示された事実が真実であると信じるについて相当な理由があること) | 以下のいずれも満たす場合は違法性が阻却される。 ①公共の利害に関する事実に関わること ②もっぱら公益を図る目的であること ③意見・評論の前提としている事実が重要な部分について真実であること ④人身攻撃に及ぶなど意見・評論としての域を逸脱したものでないこと |
名誉感情の侵害
名誉感情とは、人が自分自身の人格的価値について有する意識や評価のことです。
「バカ」「あほ」など事実の摘示を含まずに、あるいは社会的評価を低下させずに、侮辱された場合には、名誉感情の侵害として人格権侵害が認められる可能性があります。
プライバシー侵害
プライバシー権は、私生活をみだりに公開されない権利です。
誹謗中傷等の発言・投稿が次のいずれも満たす場合には、プライバシー権の侵害が認められます。
- 私生活上の事実または事実らしく受け取られるおそれがある事柄であること
- 一般的な感受性を基準にして公開して欲しくない内容であること
- 一般の人々にまだ知られていない事柄であること

営業権侵害
営業権とは、営業行為を営む事由であり憲法22条により保障されている経済的自由権の一つです。
インターネット上に営業妨害となる書き込みや営業秘密の漏洩がなされた場合には、営業権侵害を理由に不法行為の成立が認められる可能性があります。
謝罪広告の掲載等を求める名誉回復措置請求
誹謗中傷により被害者が被った名誉権侵害の程度が著しく、金銭賠償だけではその救済が不十分な場合には、併せて原状回復の手段をとる必要がある場合もあります。
民法は、被害者の名誉回復措置として以下の規定を設けています。
(名誉毀損における原状回復) 第七百二十三条 他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。
名誉回復措置の方法は様々ですが、謝罪広告やホームページへの謝罪文の掲載を求めるケースが多いです。
誹謗中傷の被害遭遇時に法律に則って相手方を追及する方法
ここでは、誹謗中傷の被害に遭った際、法律に則って相手方を追及する具体的な方法を解説します。
誹謗中傷の証拠を残す
インターネット上で誹謗中傷の被害に遭った場合は、対象の投稿や記事が掲載された画面を印刷またはスクリーンショットするなどして証拠を保管しましょう。
ウェブページの内容は日々刻々と変化し、一定の時間が経過すると自動的に消去されるものもあります。対象の投稿や記事がすでに削除されてしまった場合は、ウェブアーカイブを利用することで削除済みのページの内容を証拠化できることがあります。
ウェブアーカイブとは、インターネット上のウェブサイトの情報を収集し後世のために保存したものです。アメリカの非営利団体であるインターネットアーカイブがウェブサイト上で提供しているWayback Machine (archive.org)が最大規模のものとして有名です。
誹謗中傷した相手を特定する
SNSで誹謗中傷の被害を受けた場合、書き込みや投稿をした相手を特定できなければ、損害賠償請求など被害回復のための措置をとれません。
サイト管理者等への削除依頼・削除請求により権利を侵害する投稿を削除しても、発信者が新たに投稿をする可能性もあります。
発信者情報開示請求や発信者情報開示命令申立を行い、誹謗中傷した相手を特定しましょう。
発信者情報開示請求や発信者情報開示命令申立の詳細は、下記関連記事をご参照ください。


被害弁済を求める場合は損害賠償を請求する
発信者に対して民事上の損害賠償を求めることは、再発防止の観点から有効です。
発信者の特定や投稿・記事の削除に要した弁護士費用の一部または全額が、不法行為と因果関係のある損害として認められることもあります。
処罰を求める場合は警察に告訴状や被害届を提出する
誹謗中傷が刑罰法規に触れるものであれば、刑事告訴や被害届の提出も可能です。
刑事事件として発信者を処罰することは、強力な再発防止手段です。悪質性が高いケースや誹謗中傷が継続しているケースなどは、刑事事件として対処することも検討しましょう。

誹謗中傷に関わる法律改正はいつから?|どんな問題点が改善された?
ここでは、誹謗中傷に関わる法律の改正について解説します。
プロバイダ責任法の改正
改正前のプロバイダ責任制限法に基づいて発信者情報の開示を受けるには、二段階の訴訟手続を経る必要があり、当事者に多大な時間・コストがかかっていました。
IDやパスワードを入力することで自らアカウントにログインした状態で投稿を行えるログイン型サービスを提供するSNS事業者の中には、ログイン時のIPアドレス等は記録しているものの、問題の投稿をした際のIPアドレス等を記録していない事業者もいます。
改正前のプロバイダ責任制限法では、ログイン時の情報が発信者情報開示請求の対象と認められるかどうかが明確にされておらず、裁判例によっては否定されるケースもありました。
これらの課題に対応するため、プロバイダ責任制限法が改正され、2022年10月1日から施行されました(2021年4月28日公布)。
改正法では、発信者情報の開示請求に係る新たな裁判手続(非訟手続)を創設されるとともに、開示請求対象の範囲も見直されました。
主な改正点とその内容は、以下のとおりです。
改正点 | 内容 | |
---|---|---|
新たな裁判手続の創設 | 開示命令 | 発信者情報開示請求にかかる審理を簡易・迅速に進めるため、裁判所の決定によりコンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダに対して、保有する発信者情報の開示を命じられるようになりました。 |
提供命令 | 二段階の裁判手続にかかる課題に対応するため、コンテンツプロバイダに対して、保有するIPアドレス、タイムスタンプ等により特定される他のアクセスプロバイダの会社名等の情報を、申立人に提供することを命じられるようになりました。 | |
消去禁止命令 | 開示命令事件の審理中に発信者情報が消去されることを防ぐため、開示命令の申立てにかかる事件が終了するまでの間、保有する発信者情報の消去を禁止することを命じられるようになりました。 | |
発信者情報の開示範囲の拡大 | 以下の要件を充たす場合に、当該コンテンツプロバイダ等が有するログイン時情報が開示対象になることを規定しました。 ・コンテンツプロバイダ等がログイン情報以外に発信者情報を有していない ・投稿時の情報のみでは発信者を特定できない | |
発信者に対する意見照会 | コンテンツプロバイダ等に対し、被害者から発信者情報の開示請求を受けた場合に、権利侵害情報の発信者に当該情報の可否について意見を求める義務を課しているところ、発信者が開示に応じない旨の意見を述べた場合、その理由も併せて確認する義務を課しました。 コンテンツプロバイダが開示命令を受けたときは、原則として開示請求に応じない旨の意見を述べた発信者に対し、開示命令を受けた旨を通知しなければならないとの義務を課しました。 |

侮辱罪の厳罰化
2022年6月13日、侮辱罪を厳罰化する改正刑法が参議院本会議で可決・成立され、2022年7月7日より施行されました。
この改正に伴い、主に以下の点が変更されました。
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
法定刑 | 拘留(30日未満)または科料(1万円未満) | 1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料 |
公訴時効期間 | 1年 | 3年 |
参考:法務省:侮辱罪の法定刑の引上げ Q&A (moj.go.jp)
誹謗中傷の法律相談はどこにすればいい?
ここでは、誹謗中傷の法律相談ができる専門家や公的機関を紹介します。
弁護士
誹謗中傷やインターネットトラブルに詳しい弁護士に相談すれば、法的観点に基づくアドバイスを受けられます。削除依頼や発信者情報開示請求なども代行してもらえるため、トラブルの一義的解決が期待できます。
発信者の責任を追及したい場合にも、損害賠償請求や刑事告訴等の手続きをサポートしてもらえます。
警察
警視庁や各都道府県警察本部には、サイバー犯罪相談窓口が設置されています。
サイバー犯罪相談窓口は、犯罪被害の未然防止や生活の安全に関する不安・悩みなどの相談に応じてくれる窓口です。全国共通ダイアル#9110で発信すれば、全国どこからかけても、その地域を管轄する警察本部の相談窓口に繋がります。
なお、サイバー犯罪相談窓口では、適宜アドバイスは受けられますが、書き込みの削除など具体的な手続きは自分で行わなければなりません。
法務省
法務省の人権擁護機関では、インターネットによる人権侵害のほか、様々な人権問題についても相談を受け付けています。
電話または相談フォームから相談すると、後日、最寄りの法務局からメール・電話または面談により回答してもらえます。
一般社団法人セーファーインターネット協会
一般社団法人セーファーインターネット協会には、インターネット上の誹謗中傷に特化した相談窓口として、誹謗中傷ホットラインが用意されています。
誹謗中傷ホットラインでは、相談はもちろん、国内外のプロバイダ等に利用規約に沿った削除等の対応を促す通知を行ってもらえます。
下記ホームページの誹謗中傷ホットラインに連絡するボタンからウェブホームを用いて相談できます(相談料無料)。
参考:誹謗中傷ホットライン| 一般社団法人セーファーインターネット協会
違法・有害情報相談センター(総務省支援事業)
違法・有害情報相談センターは、一般のインターネット利用者のほかプロバイダやサイト管理者、学校関係者等からの相談を受け付け、対応に関するアドバイスや関連情報を提供してくれる相談窓口です。
専門知識を有する相談員が、誹謗中傷や名誉毀損等のネットトラブルに関する対応方法等の助言を行っています。
相談センターのホームページから利用登録を行うと、相談フォームを用いて相談できます(相談料無料)。
まとめ|誹謗中傷トラブルはネクスパート法律事務所にご相談ください
インターネット上で誹謗中傷を受けた場合は、迅速に対処することが大切です。
初動対応が遅れた場合には、情報が拡散され不特定多数の人に見られる可能性があるため、なるべく早く弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談すれば、発信者特定後の責任追及なども安心して任せられます。
誹謗中傷にお悩みの方は、ぜひ一度ネクスパート法律事務所にご相談ください。
実績豊富な弁護士がトラブル解決まで全力でサポートします。