プライバシーの侵害とは|成立要件・事例(判例)や慰謝料の相場を解説

SNS等で、第三者に自分の氏名や住所等の個人情報や他人に知られたくない情報を暴露されるケースがあります。

このような行為は、プライバシーの侵害にあたる可能性があります。

プライバシーが侵害された場合は、どのような対応をとれば良いのでしょうか。

この記事では、プライバシー侵害の成立要件や対処法と慰謝料の相場を解説します。

目次

プライバシーの侵害とは

ここでは、プライバシーの侵害とはどのようなものなのかについて解説します。

プライバシーの侵害とは、個人情報や私生活について知られたくないことを他者に知られたり、公開されたりすることです。

プライバシー権は、憲法や法律で明確に保障されているものではありません。

判例・通説によれば、憲法上の個人の尊重および幸福追求権を主な根拠として、民法上は人格権の一内容としてプライバシーが保護されています。

プライバシーの侵害が成立する要件

ここでは、プライバシー侵害の成立要件を解説します。

プライバシーという言葉が民事事件で最初に用いられた判決は、宴のあと事件(東京地判昭和39年9月28日)です。

同判決は、プライバシー権を「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」と定義し、公開された内容が以下の3点を満たす場合に権利侵害が認められると示しました。

  • 私生活上の事実または事実らしく受け取られるおそれがある事柄であること
  • 一般的な感受性を基準にして公開して欲しくない内容であること
  • 一般の人々にまだ知られていない事柄であること

これらを満たす内容が公開されたことにより、不快・不安の念が生じているときに、プライバシー侵害として法的保護が及びます。

私生活上の事実または事実らしく受け取られるおそれがある事柄であること

プライバシーの侵害が認められるためには、私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であることが必要です。これを私事性といいます。

一般的な感受性を基準にして公開して欲しくない内容であること

プライバシーの侵害が認められるためには、一般的な感受性を基準にして公開して欲しくない内容であることが必要です。これを秘匿性といいます。

つまり、一般人の感覚を基準として、他人には秘密にしておきたいことや知られることに心理的な負担や不安を覚える内容であることを意味します。

一般の人々にまだ知られていない事柄であること

プライバシーの侵害が認められるためには、公開された内容が一般の人々にまだ知られていない事柄であることが必要です。これを非公知性といいます。

ただし、一旦どこかに公開されれば、プライバシー権として保護されなくなるわけではなりません。すでに新聞やインターネット上のブログで公開された内容でも、読者層の違い等を理由に非公知性の要件を認める判例も多くあります。

SNS上でプライバシーの侵害になりやすい事例

ここでは、SNS上でプライバシーの侵害になりやすい事例を紹介します。

個人を識別できる住所や氏名、車のナンバーなどを公開された

プライバシーとして保護される情報には、氏名・住所等の典型的な個人情報も含まれます。

SNSで以下のような被害に遭った場合には、プライバシーの侵害があったと認められやすいでしょう。

  • 他人に運転免許証の画像を無断で掲載された
  • 他人に車の写真やナンバーと共に所有者の顔・氏名等の情報を公開された
  • 裁判の相手方が判決文を掲載し自分の住所や氏名が晒された

恥ずかしい思い出や知られたくない過去を公開された  

以下のようなプライベー卜な事柄をSNSで他人に公開された場合は、プライバシーの侵害が認められる可能性があります。

  • 身体的特徴
  • 前科・犯罪歴・犯罪嫌疑等
  • 持病・病歴
  • 離婚の経緯・原因等

手紙やDM・LINEのやり取りが公開された

「LINEのやり取りの内容がおもしろいから公開しよう」「嫌いな人からラブレターを貰ったから晒してみよう」などとして、手紙やLINE・ダイレクトメッセージ(DM)をSNSに掲載するケースも少なくありません。

手紙やLINE・DMは、私人間のやり取りであり、公開を前提にしたものではありません。

これらに記載された内容が、私事性・秘密性・非公知性を満たすものであれば、プライバシーの侵害があったと認められます。

ネット上でプライバシーの侵害に遭った場合の対策

ここでは、ネット上でプライバシーの侵害に遭った場合の対策について解説します。

投稿者に削除を依頼する

ネット上でプライバシーの侵害に遭った場合、そのまま放置していると拡散性の高さから更なる被害拡大が予想されます。

ご自身のプライバシーを侵害する情報が公開された場合は、速やかにサイト管理者等に削除依頼をすることが重要です。

各種SNSのコミュニティガイドラインでは、他者のプライバシー情報の投稿を禁止していることも多いので、規約違反が認められれば比較的スムーズに削除される可能性があります。

サイト運営者に削除を依頼する場合は、削除基準や権利侵害をどのように主張すべきか事前に調べる必要があります。自力で手続きをすることに少しでも不安がある方は、弁護士への相談をおすすめします。

損害賠償(慰謝料)を請求する

投稿者に対して民事上の損害賠償請求をすることは、再発防止の観点から有効であると言えます。

投稿者に損害賠償を請求する場合は、削除依頼と並行して発信者情報開示請求や発信者情報開示命令申立を行い、投稿者を特定する必要があります。話し合いによる解決が見込まれる場合には、二度と同じことを繰り返さないよう誓約する旨の文言や違約金条項を設けると良いでしょう。

話し合いによる解決が困難な場合には、訴訟により解決を図ります。

なお、プライバシーの侵害が認められたとしても、直ちに不法行為の成立が認められるわけではありません。以下の要件を満たす場合に不法行為が成立します。

  • 加害行為すなわち私生活上の事実の公開があること
  • 公開された事実が私生活上の事実等のプライバシーに関する事実であること
  • 公開行為が違法であること
  • 行為者に故意または過失があること

判例は、「その事実を公表されない法的利益とこれを公表する利益とを比較考量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立する。」とも示しています(東京高判平成17年5月18日)。

プライバシーの侵害による慰謝料の相場はいくらくらい?

ここでは、プライバシー侵害の慰謝料の相場を紹介します。

プライバシー侵害の慰謝料は、10~50万円程度となるのが一般的です。

侵害の態様が悪質な場合には、100万円以上の慰謝料が認められることもあります。

プライバシーの侵害が認められた判例

ここでは、プライバシー侵害が認められた判例を紹介します。

宴のあと事件

日本で最初にプライバシーの権利が認められた事件は、宴のあと事件(東京地判昭和39年9月28日)です。

この事件は、外務大臣を務めた後に東京都知事選挙に立候補した政治家Aをモデルとし、仮名を使いながらも明らかに本人と特定されうる表現により、再婚相手との私生活をモチーフとした三島由紀夫の小説[宴のあと]の出版に際し、Aがプライバシー侵害を理由として、民事上の不法行為に基づく損害賠償と謝罪広告の掲載を求めて提訴した事案です。

裁判所は、日本の裁判で初めてプライバシーの権利を定義づけ、慰謝料を認めました(謝罪広告の請求は棄却)。

裁判所は、「個人の尊厳は近代法の根本理念の一つであり、また日本国憲法の立脚点であるが、この理念は相互の人格が尊重され、不当な干渉から自我が保護されることによってはじめて確実なものとなる。」「そのためには正当な理由がなく他人の私事を公開することが許されてはならないという意味のプライバシーが法的に尊重されるべきなのは言うまでもない。」として、憲法13条(個人の尊重、幸福追求権)を根拠に、人格権としてのプライバシーの権利侵害を認めました。

京都市前科照会事件

最高裁判所がプライバシーに対して判示したのは、京都市前科照会事件(最判小昭和56年4月14日)です。

この事件は、解雇を巡る事件において、会社側の代理人弁護士が相手方当事者である被雇用者の前科・前歴を京都市長に照会したところ、京都市長が当該被雇用者の前科を公開し、その事実に基づき会社側から解雇された被雇用者が、京都市長による前科の公開がプライバシー権の侵害にあたるとして損害賠償を請求した事案です。

最高裁裁判所は、前科等は「みだりに公開されないという法律上の保護に値する利益」であると判示し、プライバシー侵害を理由とする原告の損害賠償請求を認めました。

伊東正己裁判官は、補足意見として「他人に知られたくない個人の情報は、それがたとえ真実に合致するものであっても、その者のプライバシーとして法律上の保護を受け、これをみだりに公開することは許されず違法に他人のプライバシーを侵害することは不法行為を構成するものといわなければならない。このことは、私人による公開であっても、国や地方公共団体による公開であっても変わるところはない。」と述べています。

まとめ|プライバシーの侵害に関する相談は弁護士がおすすめ

インターネット上でプライバシー侵害の被害を受けた場合は、拡散により被害が拡大する前に、サイト管理者に削除を依頼することが重要です。

投稿者等に損害賠償請求を行う場合には、プライバシー侵害や不法行為が成立するかどうかの判断が必要であるため、弁護士への相談をおすすめします。

プライバシーを侵害された方は、ネクスパート法律事務所にご相談ください。早期に被害を回復できるよう適切な対応をご提案します。

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