侮辱罪の厳罰化で何が変わる?厳罰化のポイントを解説

インターネット上での誹謗中傷は社会問題になっていて、国民の意識が高くなっています。人の名誉を傷つける行為を処罰する罪のうち、侮辱罪が改正刑法により厳罰化されます。

この記事では、侮辱罪の厳罰化のポイントを解説します。

目次

侮辱罪の厳罰化のポイントは?

人の名誉を傷つける行為を処罰する罪には名誉毀損罪もあり、行為の中に事実の摘示があることが要件で、侮辱罪と違う点です。この違いにより法定刑に差がありました。

侮辱による深刻な被害も出ており、被害者が自ら命を絶ってしまう事件もあります。

近年の侮辱罪の実情を考慮すると、侮辱罪についても厳しく対処し、抑止するために、改正前の法定刑では不十分と考えられ、名誉毀損罪に準じた法定刑に引き上げることとされました。

法定刑の厳罰化|今後は懲役刑・罰金刑に問われることも

改正前改正後
拘留又は科料1年以下の懲役若しくは禁固若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料

改正前の法定刑は、拘留又は科料でした。

改正後の法定刑は、1年以下の懲役若しくは禁固若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料です。

改正前の法定刑は刑法の中で最も軽い刑でした。名誉毀損罪の法定刑は、3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金ですので、法定刑に差がありました。

悪質な侮辱行為に対応するために厳罰化されましたが、悪質性の低いものもありますので、事案に応じた処罰ができるように、改正前の拘留・科料も残されています。

構成要件は変化なし

改正刑法では、法定刑が厳罰化されましたが、侮辱罪の構成要件は変更がありませんので、処罰できる行為の範囲が広がったわけではありません。

施行はいつから?

改正刑法は2022年6月13日に成立し、2022年7月7日から施行されます。

施行後に行われた行為について適用されますので、施行前に行われた行為については改正前の刑法が適用されます。

侮辱罪の厳罰化で今後どうなるか

侮辱罪の法定刑が厳罰化されたことで、今後予想される変化を解説します。

逮捕が増える

改正前改正後
旧侮辱罪の場合
(三十万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪)
逮捕できるケース・被疑者が定まった住居を有しない場合
・正当な理由がなく出頭の求めに応じない場合
右の制限がなくなり 逮捕しやすくなる
現行犯逮捕できるケース・犯人の住居や氏名が明らかでない場合
・犯人が逃亡するおそれがある場合
右の制限がなくなり 逮捕しやすくなる

改正前の法定刑では、被疑者が定まった住居を有しない場合や正当な理由がなく出頭の求めに応じない場合のみ逮捕でき、犯人の住居や氏名が明らかでない場合や犯人が逃亡するおそれがある場合のみ現行犯逮捕できましたが、改正後は法定刑が引き上げられましたので、この制限がなくなります。

刑事訴訟法第199条に以下の定めがあります。

検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る

引用元:刑事訴訟法第199条

刑事訴訟法第217条に以下の定めがあります。

三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪の現行犯については、犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、第二百十三条から前条までの規定を適用する。

引用元:刑事訴訟法第217条

加害者特定・損害賠償請求が増えるかもしれない

侮辱罪が厳罰化されたことで、警察・検察がより積極的に捜査し、加害者の特定が増える可能性があります。それをもとに民事上の損害賠償請求をすることもできます。

厳罰化された刑事責任を避けるため(被害者が告訴することを防ぐため)、加害者が損害賠償請求に応じることも増えるかもしれません。

インターネット上の侮辱(名誉感情侵害)に対して、加害者特定・損害賠償請求ができることの認識は広がっており、侮辱罪の厳罰化によってより増える可能性があると思われます。

教唆犯・幇助犯も処罰される

刑法第64条に以下の定めがあります。

拘留又は科料のみに処すべき罪の教唆者及び従犯は、特別の規定がなければ、罰しない。

引用元:刑法第64条

改正前の法定刑は、拘留又は科料のみでしたので、教唆犯・幇助犯を処罰することができませんでしたが、改正後は法定刑が引き上げられましたので、この制限がなくなります。

公訴時効期間が長くなる

刑事訴訟法第250条第2項第6号・7号に以下の定めがあります。

時効は、人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによって完成する。

6 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年

7 拘留又は科料に当たる罪については一年 

引用元:刑事訴訟法第250条第2項第6号・7号

改正前の法定刑では第7号が適用され1年でしたが、改正後は第6号が適用され3年になります。

メリット|ネット上の誹謗中傷が減る可能性

近年では侮辱罪で処罰される事例が増えており、その約3分の2程度がSNSやネット掲示板での誹謗中傷によるものであり、今回の改正はネット上の侮辱行為への対応を念頭に議論されていました。

軽い気持ちで侮辱罪にあたる投稿をしていた人も、民事責任のみでなく厳罰化された刑事責任を負う可能性があることを知れば、投稿前に侮辱罪にあたらないか慎重に確認することになり、ネット上の侮辱行為が減るかもしれません。

デメリット|言論封じに悪用される可能性

厳罰化によって、言論抑制や表現の自由が制限されるのではないかと心配する声もありますので、施行3年後における施行状況の検証が附則に追加されました。

プロバイダ責任制限法の改正

発信者情報開示請求について定めている、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法と略されます。)も2022年10月1日に改正法が施行されます。

改正前に比べて手続きが少なくなりますので手続きの多さで諦める人が減り、厳罰化された処罰を与えたいとの考えと合わさって、発信者情報開示請求を行う人が増える可能性があります。

どこからが侮辱(名誉感情侵害)になる?判断基準とは

ネット上の誹謗中傷が、民事の侮辱(名誉感情侵害)にあたるかの判断基準を解説します。

社会通念上許される限度を超えているか

判例の判断基準は、誰でも名誉感情を害される、明確で程度の著しい侵害かです。

表現に対立する主観的評価があるか

主観的評価が侵害されたといえるためには、主観的評価に対立する表現がされていることが必要です。

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ネット上で侮辱(名誉感情侵害)されたらどうする?弁護士が対応できること

ネット上で侮辱(名誉感情侵害)を受けたとき、弁護士ができる対応を解説します。

削除請求

侮辱(名誉感情侵害)にあたる投稿を、多くの人が見る前に削除したいと思ったら、削除請求をします。

投稿されているサイトに削除請求しても応じてもらえなければ、裁判所に削除仮処分命令を申立てます。

投稿者の特定

投稿者に損害賠償請求をしたいけど誰かわからないと思ったら、発信者情報開示請求をします。

投稿されているサイトと投稿者が接続したプロバイダに対して、順番に発信者情報開示請求をします。それぞれ応じてもらえなければ、裁判所に発信者情報開示仮処分の申立てや発信者情報開示請求訴訟を提起します。

損害賠償請求

特定した投稿者に損害賠償請求や再発防止策を求めたいと思ったら、損害賠償請求をします。

投稿者に請求し、示談交渉で合意が成立しなければ、裁判所に損害賠償請求訴訟を提起します。

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まとめ

侮辱罪の厳罰化のポイントは、以下のとおりです。

  • 法定刑に1年以下の懲役若しくは禁固若しくは30万円以下の罰金が追加
  • 構成要件は変化なし
  • 2022年7月7日から施行

厳罰化により、ネット上の侮辱行為が減る可能性はありますが、残念ながら無くなることはないでしょう。

自分が被害者になった時、知人にも相談できず1人で悩んでしまうかもしれませんが、解決には早期の対応が必要です。お力になれるかもしれませんので、ぜひ弁護士に相談することを検討してみてください。

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