肖像権侵害にあたる行為とは?判断基準・判例や慰謝料の相場を解説

近年、スマートフォンやデジタルカメラの普及により、一般の方が町中で写真や動画を撮影する機会や、撮影した写真や動画をSNSやブログ等で公開する機会が増えています。

それに伴い、自分の映った写真が無断でSNS等に投稿されるトラブルも多数発生しています。

このようなトラブルで問題となるのが肖像権です。どのような行為が肖像権侵害にあたるのでしょうか?

この記事では、肖像権侵害の判断基準や事例、判例や慰謝料の相場を解説します。

目次

肖像権侵害とは

ここでは、肖像権の定義や肖像権侵害の判断基準について解説します。

肖像権を侵害する行為

肖像権侵害とは、本人の許可なく顔や容姿等を撮影したり、撮影した写真を使用・公表したりする行為です。

肖像権は、法律上明文化された権利ではなく、裁判例で認められた権利です。

肖像権には、次の3つの権利が含まれていると考えられています。

  • 自分の顔や容姿(肖像)をみだりに撮影されない権利(撮影拒否権)
  • 撮影された自分の肖像を他人に勝手に使用・公表されない権利(使用・公表の拒絶権)
  • 肖像の利用に対する本人の財産的利益を保護する権利(パブリシティ権)

上記①および②は、一般人か有名人を問わず、プライバシー権と同様に法的に保護されるべき人格的利益の一つと考えられています。

③のパブリシティ権は、財産権としての肖像権です。芸能人や著名人は、その顔や容姿が経済的利益を持っているとしてパブリシティ権が認められています。

肖像権侵害の判断基準

肖像権侵害を判断する際に重視すべきなのは、次の2点です。

  • 本人の許可を得て撮影したかどうか
  • 本人の許可を得て撮影した写真を使用・公表したかどうか

本人の許可なく撮影・使用・公表した行為が、肖像権を侵害する不法行為であるかどうかは、以下の6つの要素を総合的に考慮します。

  • 被撮影者の社会的地位
  • 被撮影者の活動内容
  • 撮影の場所
  • 撮影の目的
  • 撮影・公表の態様
  • 撮影・公表の必要性

上記6つの考慮要素は、最高裁判所が平成17年11月10日判決で示した基準であり、その後の多くの下級審裁判例でも用いられている肖像権侵害の判断基準です。

同最高裁判例は、肖像権の侵害となるのは、撮影によってその人の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超える場合と示しました。そして、人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるかどうかを判断するにあたり、これらの要素を総合的に考慮しています。

被撮影者の社会的地位

写真に写っている人(被撮影者)が一般私人であれば侵害性が上がり、公人や公共の利害にかかる人物であれば侵害性が下がります。

侵害性が下がる例は、以下のとおりです。

  • 刑事事件の被疑者・被告人
  • 複数のテレビ番組に出演して時事問題等にコメントする弁護士

被撮影者の活動内容

被撮影者がどのような状況にあるときに撮影されたものかによって侵害性が判断されます。

基本的には、私生活や他人に知られたくない状況を撮影した場合は侵害性が上がり、公務・公的行事であれば侵害性が下がります。

侵害性が上がる例侵害性が下がる例
・水着や全裸など肌の露出が大きい状態
・泥酔している姿
・新幹線の座席で居眠りする姿
・手錠・腰縄などの身柄拘束を受けている状態
・公務、公的行事への参加中
・公開イベントや記者会見でのスピーチ中
・オリンピックや万博への参加中
・街頭デモへの参加中

撮影の場所

撮影した場所が、自宅内、ホテル個室内、避難所内などの私的な空間であれば侵害性が上がります。公園や公道などの公共の場所であれば侵害性が下がります。

撮影の目的

報道番組での放送を目的として撮影された映像やファッション雑誌への掲載を目的として撮影された写真などは、当初の撮影目的と剥離している場合を除き、侵害性が下がると考えられています。

公開を前提としないプライベート写真等を公表した場合は、侵害性が上がります。

撮影・公表の態様

被撮影者の写り方や撮影状況も侵害性を判断する要素の一つです。

明確に撮影の許可を得ていなくても、カメラに向かって笑顔でポーズをとるなど、被撮影者が撮影を許容していると認められる場合は侵害性が下がります。多人数が写っている場合や特定の人に焦点が当たっていない場合も同様です。

侵害性が上がる例は、以下のとおりです。

  • 手でカメラを遮るなど、撮影を拒絶する意思表示をしている場合
  • 公共の場で特定の人物に焦点が当たっている場合
  • 隠し撮りなど、被撮影者が撮影された認識がない場合

撮影・公表の必要性

撮影・公表の必要性が高ければ侵害性が下がり、必要性が低ければ侵害性が上がります。

例えば、報道目的で写真・動画を撮影して放送する行為も、被撮影者に不利益を与えてまで報道する必要性がないと判断されれば、肖像権を侵害する行為とみなされることがあります。

肖像権侵害になりやすい事例

ここでは、肖像権侵害になりやすい具体的な事例を紹介します。

公開を前提としないプライベート撮影の写真がSNS上に公開された

FacebookやInstagramなどに友人や恋人と一緒に撮影した写真をアップしている人がいますが、一緒に映った本人から公開の許可を得ていないケースも多いでしょう。

SNSに公開されると不特定多数の人の目に触れるので、相手が無断で公開した場合は、拡散性が高いと判断されて肖像権侵害が認められる可能性があります。

自宅内や病院内での姿を撮影された

自宅・宿泊施設・病院など、他人の目にさらされない私的空間での姿を撮影・公開された場合も、肖像権侵害が認められる可能性があります。

自由な私生活を営む私的空間での姿を撮影・公表する行為は、被撮影者により著しい精神的苦痛を与える可能性があるからです。

撮影拒絶の意思表示をしたのに撮影された

撮影を口頭で明確に拒んだ場合のほか、カメラを手で遮ったり顔を隠したりして撮影拒絶の意思表示をしたのに撮影された場合も、肖像権侵害が認められる可能性があります。

肖像権侵害になりにくい事例

ここでは、肖像権侵害になりにくい事例を紹介します。

多人数で特定の人物に焦点を当てずに撮影された

複数の人が映り込んだ写真などで、一人一人の顔も小さく誰であるかを判別できない場合は、肖像権侵害が認められにくいでしょう。

ただし、画像の解像度を上げれば誰であるかを判別できる場合は、肖像権侵害が認められる可能性もあります。

公共の場で撮影された写真に自分が映り込んでいた

公園や道路などの公共の場で撮影された写真に自分が映り込んでいた場合も、肖像権侵害が認められにくいケースの一つです。

公共の場では、一般的に自分の肖像を他人に見られることを予期または許容していることが多いと考えらえるからです。

スタッフとして参加していたイベントの写真に自分が写っていた

出演者やコンパニオン等のイベントスタッフのように、業務・当事者として写真に写って

いた場合は、肖像権侵害が認められにくい傾向があります。

撮影や公表を一定程度受忍すべき場合もあると考えられるからです。

ただし、そのイベントが社会的偏見に繋がり得る内容(宗教行事やLGBTQのイベント等)などの場合には、一般的に公表を望まないものとして肖像権侵害が認められる可能性があります。

SNSに掲載した写真を無断転載された場合も肖像権侵害が認められる?

ここでは、自らがSNSに掲載した写真を他人に無断転載された場合も肖像権侵害が認められるかどうかについて解説します。

SNS上にすでに公開した写真でも、本人(被撮影者)の許可なくその写真を無断転載する行為は、肖像権を侵害すると判断される可能性があります。

ご自身がSNSにアップした顔写真が無断転載されたり、リツイート等で拡散されたりした場合は、被害が拡大する前になるべく早く弁護士に相談しましょう。

肖像権侵害に対して取り得る法的措置とは?

ここでは、肖像権侵害に対して取り得る法的措置について解説します。

削除依頼・削除請求

肖像権を侵害された場合、誰もが最初に望むのは写真や映像の公開停止でしょう。

無断で写真や映像を投稿した本人またはそれらが公開されているサイト管理者に削除依頼を行う方法があります。

あわせて読みたい
Twitterへ投稿された誹謗中傷を削除する方法について解説 Twitterへの投稿により誹謗中傷を受けたときには、できるだけ早く、多くの人が見る前に削除したいと考える方が多いのではないでしょうか。 この記事ではTwitterへ投稿さ...

投稿者本人やサイト管理者が任意の削除に応じない場合には、裁判所の仮処分手続きを利用する方法があります。

あわせて読みたい
仮処分とは?申立方法・必要書類・費用を解説|インターネットの誹謗中傷 インターネット上で誹謗中傷などの名誉棄損の被害を受けた場合、サイト管理者に削除を依頼したり、プロバイダに発信者情報の開示を請求したりすることが可能です。 サイ...

差し止め請求

写真や映像は、いったん公表されると回復が不可能または著しく困難です。

許可なく撮影された写真や映像が公表・放送予定の段階であれば、事前に差し止め請求を行う方法があります。

ただし、個人の肖像権を侵害する場合でも、表現の自由や報道の自由として相当と認められる範囲内においては違法性が阻却されることがあります。

そのため、事前差し止めを検討する場合は、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

損害賠償(慰謝料)請求

肖像権を侵害された場合は、その相手方に対し、肖像権侵害により生じた精神的苦痛に対する損害賠償(慰謝料)を請求できる可能性があります。

SNSやインターネット上のブログ等に、自分が映った写真を無断で掲載され、その投稿者を特定できない場合には、発信者情報開示請求等の手続きが必要になることもあります。

肖像権侵害のみを不法行為とする損害賠償金(慰謝料)は低額になる傾向もあるため、弁護士への相談を経て検討することをおすすめします。

肖像権侵害による損害賠償(慰謝料)の相場はいくらくらい?

ここでは、肖像権侵害による損害賠償(慰謝料)の相場を紹介します。

肖像権侵害のみを不法行為とする損害賠償(慰謝料)の金額は、被害状況によって異なりますが、一般的には10万円~50万円程度です。

虚偽の内容のコメントや記事と共に写真を公表された場合は、名誉権の侵害を含め、相場以上の慰謝料が認められる可能性があります。

肖像権侵害が認められた判例

ここでは、肖像権侵害が認められた判例を紹介します。

病院内撮影事件(東京地判平成2年5月22日)

大手消費者金融業の会長Aが、写真週刊誌に入院の事実を報じられるとともに、病院内の廊下で車椅子に乗って移動中の姿を掲載されたことを、肖像権およびプライバシー侵害として損害賠償請求した事案です。

裁判所は、「病院内は、完全な私生活が保障されてしかるべき私宅と同様に考えるべきである。」「報道する側からいえば…事実を丹念に摘示していけばAの健康状態について真実がどうであるかを報道することは可能であり、本件であえてAの写真を撮影し掲載しなければならない必要性までは認めがたいというべきである。」として、写真撮影・掲載が違法な肖像権およびプライバシー侵害に当たると判断しました。

30年前の水着写真事件(東京地判平成6年1月31日)

夫を殺害した容疑で逮捕された女性Bが、約 30 年前にコンテスト出場した際に雑誌に掲載された水着姿の写真が、夫の殺害容疑での逮捕報道において週刊誌に掲載されたことを、肖像権侵害として損害賠償請求した事案です。

裁判所は、「たとえ原告が夫の殺害の容疑で逮捕されたことが公共の利害に関する事実であり、その報道にあたって原告の写真を掲載することが許されるとしても、Bの 30 年前の水着姿の写真まで掲載する必要性ないしは相当性は認められない。」と述べ、肖像権侵害に当たると判断しました。

ストリートファッション事件(東京地判平成17年9月27日)

胸部に大きく赤い文字で[SEX]というデザインが施された衣服を着て銀座の横断歩道上を歩く女性の全身像を撮影し、ファッション協会が運営するウェブサイトに掲載したところ、2ちゃんねる掲示板に同サイトのリンクと共に誹謗中傷コメントが書き込まれたことについて、肖像権侵害として損害賠償請求した事案です。

裁判所は、「本件写真は原告の全身像に焦点を絞り、その容貌もはっきり分かる形で大写しに撮影されたものであり、しかも、原告の着用していた服の胸部には上記のような『SEX』の文字がデザインされていたのであるから、一般人であれば、自己がかかる写真を撮影されることを知れば心理的な負担を覚え、このような写真を撮影されたり、これをウェブサイトに掲載されることを望まないものと認められる。」として肖像権侵害を認めました。

Instagramストーリー動画事件(東京地判令和2年9月24 日)

夫Aが蕎麦屋で撮影した妻Bの動画を、Instagramのストーリー機能で投稿したところ、氏名不詳の第三者が当該動画の一部を画像として保存し、夫妻に無断でインターネット上のウェブサイト[ホストラブ]に投稿したことについて、肖像権侵害を理由にプロバイダに発信者情報開示請求をした事案です。

「本件動画は24時間に限定して保存する態様により投稿されたもので、その後も継続して公開されることは想定されていなかったと認められる上、原告Bが、氏名不詳者に対し、自身の肖像の利用を許諾したことはない。」「原告Bは私人であり、本件画像は原告Bの夫である原告Aが原告らの私生活の一部を撮影した本件動画の一部である。」「そして,本件画像は、原告Aの著作権を侵害して複製され公衆送信されたものであって、本件投稿の態様は相当なものとはいえず、‥本件画像の利用について正当な目的や必要性も認め難い。」として、氏名不詳者による画像の利用行為が社会生活上受忍すべき限度を超えるものであり、原告Bの権利を侵害するもと認めました。

まとめ|肖像権侵害の相談は弁護士がおすすめ

肖像権侵害とは、本人の許可なく顔や容姿等を撮影したり、撮影した写真を使用・公表したりする行為です。

ご自身の顔や容姿を無断で撮影されたり、写真を無断で公開されたりした場合は、なるべく早く弁護士に相談しましょう。放置すると、拡散・悪用されて被害が拡大するおそれがあります。

肖像権を侵害された場合は、加害者やサイト管理者に削除を依頼できるほか、加害者に対して損害賠償(慰謝料)を請求できる可能性があります。

肖像権侵害の問題にお悩みの方は、ぜひ一度ネクスパート法律事務所にご相談ください。

目次
閉じる