住居侵入事件の示談を成立させるポイントと示談金相場を解説
住居侵入罪は住居侵入単独であることは少なく、他の犯罪の手段として行われることが多い犯罪です。そのため住居侵入事件の示談成立のためには他の犯罪の示談を主とし、それに付随する形で示談することになります。
住居侵入罪の法定刑は3年以下の懲役または10万円以下の罰金となっているため、住居侵入罪で示談ができなかった場合には懲役刑になる可能性もあります。
示談を成立させるべき理由については以下記事でご紹介いたします。
目次
住居侵入事件の示談の傾向
住居侵入事件の検挙率は令和2年犯罪白書によると約49%で、起訴率は約40%です。刑法犯全体の起訴率が約38%なので、住居侵入事件の起訴率は若干高くなっています。
もっとも、住居侵入事件の場合、示談が成立すれば不起訴で終わる可能性が高くなります。住居侵入事件で逮捕されそうな場合、逮捕されてしまった場合には早期に弁護士と相談し、事件の対応についてアドバイスを受けるとよいでしょう。

住居侵入事件で和解を得るために重要なポイント
住居侵入事件では被害者の方と和解できるかどうかが示談成立のカギです。被害者の方と和解を得るために重要なポイントをお伝えします。
他の犯罪の目的を軸に対応
住居侵入事件単独の場合、例えば酔っぱらって他人の敷地内で寝てしまった場合や,用を足したくなり無断で敷地内に入った場合等では、実際の被害がそれほど大きくないため、示談交渉もそれほど難航しない可能性が高いです。他の犯罪の手段として行われた場合にはその目的を軸に和解成立のための交渉を進める必要があり、場合によっては和解成立が難しくなります。
被害者の引越し希望に対応
住居侵入の目的が盗撮やわいせつ等の性犯罪目的、DV等が伴う事案であった場合には、被害者は強い恐怖心を抱くことが多く、今後同じような被害に遭わないために引越しを希望されることも多いです。この場合には、住居侵入により引越しを余儀なくされたという理由で、引越し費用全額を請求されることもあり,引越し費用を負担しない限り和解に応じない方もいます。
被害者の心情に可能な限り寄り添いながらも請求の詳細を確認し、請求に応じられない部分は拒否する等、デリケートに対応する必要があるので、弁護士に相談することをお勧めします。
示談交渉を弁護士に依頼する
住居侵入事件の場合には、事件発覚までに時間がある場合もあり、警察がいつ来るかわかりません。場合によっては来ない可能性もあります。
明らかに犯罪性のある行為をした場合には、事件発覚前に自首や示談交渉をする選択肢もあります。
示談交渉をすることにより警察に事件が発覚し逮捕されるリスクもありますが、被害者との間で被害届を提出しないという示談が成立すると被害届を出されずに当事者間で事件が終わる可能性もあります。
逮捕される前の示談交渉や自首を検討している場合には弁護士に相談することをお勧めします。
示談が難しければ同意書の作成をする
他の犯罪の手段としての住居侵入事件の場合には、被害者の被害感情や処罰感情が大きく示談が難しい場合が多々あります。その場合には無理に示談書にこだわらず、被害者と合意できた部分のみで同意書を作成することもあります。
例えば今後被害者に近づかないための方策や同様の事件を起こさないための方策等についてお伝えし、被害弁償を受領してもらうことの同意書の作成を目指します。許してはもらえなかったけれど、加害者の一定の努力を認めて被害弁償を受領してもらったことの証明になります。
住居侵入事件の示談が難しくなるケース
住居侵入事件の被害者には、今後また侵入されるのではないか?という恐怖心があり、その恐怖心をできる限りなくすように具体的な方針を示さない限り示談が難しくなります。
加害者が顔見知りである場合
加害者が被害者の顔見知りである場合には、加害者が自分の居場所や連絡先を知っているため今後も同様の被害に遭う可能性が高く、被害者の恐怖心はより強くなります。この場合には加害者が今後一切被害者と接触しない、あるいは被害者が引越しをする等、状況が変わらない限り被害者が示談に応じてくれる可能性は低いです。
被害者が引越しを強く希望し、引越し費用等も請求する場合
被害者はまた同じような被害に遭いたくないと思っています。加害者に知られている場所にそのまま住み続けると同様の被害に遭う可能性が高くなります。再び被害に遭わないために引越しを希望する方が多くいます。
被害に遭わなければ引越しをする必要もなかったとして、引越し費用全額を請求されることが多いですが、引越しに伴い家具や電化製品の買い替えをした等、引越し費用は高額になることもあり、加害者が支払えなかったり、請求に納得できない部分がでてきたりします。この場合には示談成立が難しくなります。
他の犯罪行為もしていた場合
住居に侵入し他の犯罪、例えば窃盗や盗撮等もしていた場合には、他の犯罪行為についての示談が成立するか否かがカギとなります。他の犯罪行為の被害額が高額な場合や被害感情が大きい場合には、示談が困難になります。
示談成立までにかかる期間
住居侵入罪の場合、住居侵入単独犯罪の場合には比較的示談が成立しやすいため、早期に弁護士に依頼すると勾留前に示談が成立し、身柄解放される可能性もあります。
住居侵入以外の犯罪行為もしていた場合には他の犯罪行為の態様や被害の状況によって示談成立までにかかる期間が変わってきます。
住居侵入罪の示談金について
住居侵入罪の示談金の相場や、示談金が高額になるケースについて解説します。
住居侵入罪の示談金相場
そもそも刑事事件の示談金は、個々の事件の重大性や被害者感情等によって全く違うので、相場はありません。しかし、様々な事案の積み重ねでこの事件の場合の示談金はおおよそこれくらいになるという目安になる金額はあり、それが相場と言えます。住協侵入罪の示談金の目安となる金額について解説します。
住居侵入罪のみの場合
住居侵入罪だけの場合には、10万円~20万円が相場ですが、住居侵入時に窓ガラスや鍵を壊す等した場合には、壊したものの修理費用の支払いも求められます。修理費用を加算した金額を提示することで被害者の同意が得られやすくなり、示談が成立しやすくなります。
他の目的で住居侵入した場合
他の犯罪を主たる目的として住居侵入した場合には、主たる目的の犯罪の示談金相場を軸に示談交渉をする傾向にあります。
住居侵入罪の示談金が高額になるケース
住居侵入罪の示談金が高額になるケースを解説します。
侵入時に被害者宅の物を壊した場合
住居に侵入する際に、以下のように物を壊した場合には壊したものの価値の弁償も求められます。弁償額が示談金に上乗せされるため、示談金は高額になります。
- 窓ガラスを割った
- ドアのカギを壊した
- その他敷地・建物内の物を壊した など
被害者の精神的苦痛が大きい場合
住居侵入罪の示談金は実際の損害+侵入されたことによる慰謝料の合計です。慰謝料とは精神的苦痛に関して支払われるお金のことで、精神的苦痛の程度が大きいほど慰謝料が高くなります。
例えば宅配業者を装って被害者宅に侵入し、性犯罪を行った場合等では、侵入の手口の悪質度が高く、被害者の精神的苦痛も大きくなるため、示談金が高額になります。
被害者が引越しせざるを得なくなった場合
女性の1人暮らしの住居に侵入した場合等では、被害者は一刻も早くその住居から引越ししたいと思うことがあります。その場合には、慰謝料に引越し費用も加算した金額が示談金となるため、100万円を超すこともあります。
加害者の社会的地位が高い場合
加害者の状況も示談金の金額に影響を及ぼします。住居侵入罪の加害者の社会的地位が高く、経済的にゆとりがある場合には支払える金額が大きいと考えられ示談金の額が高額になる傾向があります。
警察官や自衛官、教師などの社会に与える影響が大きい職業に就いている場合にも、示談金の金額が高額になる傾向にあります。
加害者に前科がある場合
加害者に前科がある場合、示談をしないと刑罰が重くなることがありますが、そのような場合にも示談金の金額が高くなる傾向にあります。
住居侵入罪の示談書に記入するべきポイント
住居侵入罪の示談書に何を記入すべきか、そのポイントについて解説します。
謝罪条項
加害者が被害者に対して真摯に謝罪する旨を記載します。
今後一切被害者に接近しないという誓約
住居侵入罪の場合には、今後同様の被害に遭わないため、加害者が被害者に接近しないことが重要です。被害者宅の周り半径何キロ以内には近づかない等の接近禁止条項を記載することもあります。
誓約違反の場合の違約金について
示談内容に違反した場合の違約金について定めることもあります。犯罪の抑止効果を狙って違約金を高めに定めることもあります。
示談金の支払いに関する条項
示談金の金額、支払い方法、支払い期限等を記載します。
清算条項
示談書に記載されたもの以外に請求をしないこと、他に債務がないことを記載します。この条項があれば、後で民事上の損害賠償請求をされる心配がありません。
宥恕条項
宥恕とは被害者が加害者を許すという意味です。宥恕文言を記載することができれば被害者の処罰感情が無くなったことを捜査機関に証明でき、その結果不起訴で終わる可能性が高くなります。
被害届の取下げの意思
宥恕文言を記載し、かつ被害届等を取り下げると示談書に記載できると、不起訴処分で終わる可能性が高くなります。
秘密保持条項
示談書に記載されている事件および示談の内容等について、第三者に一切口外しないこと、SNS等に載せないこと等を記載します。
具体的な示談書の書き方については以下記事をご参照ください。
住居侵入の示談の流れ
住居侵入罪の示談の流れについて解説します。
被害者の連絡先を捜査機関から取得
加害者に依頼された弁護士は、捜査機関に被害者の連絡先を教えてもらえるか確認します。捜査機関は被害者に対して、加害者の弁護士に連絡先を教えてよいか確認を取ります。
被害者が、弁護士になら連絡先を教えても良いと回答してくれた場合には被害者の連絡先を教えてもらえます。
被害者へ謝罪
被害者の連絡先が判明したら、加害者の謝罪を伝えます。加害者が真摯に反省し、心から謝罪をしている旨を伝え、謝罪を受け入れてくれるか確認します。
示談交渉
被害者が加害者からの謝罪を受け入れてくれたら、示談交渉に応じてくれるか確認します。加害者からの謝罪を受け入れて、示談交渉に応じても良いと回答してくれた場合に初めて示談交渉を開始できます。
示談書作成
示談交渉により双方が金額および内容に合意ができたら合意内容に従って示談書を作成します。
被害者が示談書を確認し、同意を得られたら示談書を2通作成します。2通に被害者および加害者の代理人が署名・押印し、それぞれが1通ずつ保管します。
示談金支払い
示談書に署名・押印し示談が成立したら、示談書に記載されている内容に従って示談金を振り込みます。
通常加害者が弁護士の口座に入金し、入金された示談金を被害者の指定口座に振り込みます。振り込み完了後に、被害者から示談金領収証をもらいます。
示談書を捜査機関あるいは裁判所に提出
成立した示談書と示談金領収証、被害者から被害届取下げ書に署名・押印をもらえた場合には被害届取下げ書を捜査機関あるいは裁判所に提出します。
住居侵入の示談を弁護士に依頼した場合のサポート内容
住居侵入の示談を加害者本人がすることは困難です。住居侵入の示談を弁護士に依頼した場合のサポート内容について解説します。
被害者の連絡先を取得
住居侵入罪の被害者は、恐怖心を持っていることが多く、加害者本人からの連絡を拒否する傾向にあります。被害者は自分の連絡先が加害者に知られることを恐れます。被害者の連絡先が不明の場合には示談交渉はできません。
示談目的であっても加害者本人が被害者に無理に接触しようとすると罪証隠滅の恐れがあると捜査機関にみなされ逮捕される可能性があるので、安易な接触の試みは避けるべきです。
住居侵入罪で示談をしたい場合には、弁護士に依頼し、被害者の連絡先を弁護士から捜査機関に確認してもらう必要があります。依頼を受けた弁護士が捜査機関を通じて示談の申し入れをし、被害者の連絡先を取得します。
被害者との示談交渉
被害者の連絡先が判明し、加害者からの謝罪を受け入れてもらえたら、示談交渉を開始します。
被害者は壊された物などの修理費用に加えて、慰謝料、場合によっては引越し費用も請求してきます。
被害者の不安や怒りの気持ちに寄り添い、今後同様の被害に遭わないために加害者ができる行動制限等の条件を提示しつつ、なるべく加害者の支払い能力の範囲内で示談が成立するよう示談金の交渉をします。
示談書作成
示談金の金額、その他の条件に双方合意ができたら示談書を作成します。
前科を回避する
示談書に宥恕文言を記載することができ、被害届の取下げ書に被害者の署名・押印をもらうことができると、不起訴になる可能性が高くなります。不起訴になれば、起訴されずに刑事手続きは終了するため前科は付きません。
刑事処分を軽くする
前科があるなどの様々な要因があり起訴されてしまった場合でも、示談が成立したことにより言い渡される刑罰が軽くなる可能性が高くなります。
住居侵入示談の成功事例
共犯者がいる事案において、勾留・起訴後に保釈許可決定を獲得
共犯者とともに被害者宅に侵入し、被害者を自動車に乗せて金銭の支払い約束をさせ、数日後被害者宅を訪問し、金銭を喝取し逮捕され、逮捕後に共犯者の方からご依頼をいただきました。
身柄拘束が長期に及ぶと仕事に重大な支障を及ぼすため早期の身柄釈放に向けた取り組みが緊急の課題でした。勾留請求の却下を求めましたが共犯者がいるため、勾留許可決定が出されてしまいました。
被害者の方との示談成立を目指し、勾留満期前に示談に合意をいただきました。示談書作成前に示談金をお支払いし、示談金の振込明細書・不起訴処分を求める意見書を提出しましたが、起訴されてしまいました。保釈請求を行うため裁判官と面談し、示談の成立の証拠となる録音、作成中の示談書、示談金の振込明細書を提示し保釈を求め、無事釈放されました。
まとめ
住居侵入罪の示談交渉は、住居侵入罪単独だった場合には、警察に事件が発覚する前の示談交渉や自首の問題があります。
他の犯罪目的で住居侵入をした場合には他の犯罪を軸とした示談交渉をする必要があり、住居侵入罪で多く問題となる引越し費用の検討も必要になります。
住居侵入・その他の犯罪ともに、早期に弁護士に相談し、被害者との間で示談が成立すれば不起訴や刑の軽減の可能性がある犯罪です。事件を起こしてしまい、被害者と示談したいと思われる場合には、早急にご相談ください。