暴行罪の示談金の相場|慰謝料や傷害罪の示談金との違い
ちょっとした暴力でも、暴行罪として警察に通報され、逮捕や前科のリスクが生じる可能性があります。
どんな理由があるにせよ、暴力をふるった人が暴行罪に問われ、加害者になります。
相手にケガをさせていない場合でも、刑事事件として処理されることがあるため、軽視は禁物です。
こうしたケースで重要になるのが示談です。示談によって被害者との関係を修復できれば、不起訴となる可能性も高まり、前科を回避できることがあります。
加害者になったら、まずは被害者に謝罪し示談を試みるのが重要です。この記事では、暴行罪の示談金の相場や示談をしないとどうなるのかについて解説します。


目次
暴行罪で示談金を支払うことの重要性とは?
ここでは、暴行罪で示談金を支払うことの重要性について解説します。
そもそも示談金とは何か?
刑事事件における示談金とは、犯罪行為により被害者が負った精神的苦痛や財産上の損害に対して、加害者が支払う損害賠償のことです。
示談によって解消されるのは、あくまで民事上の損害賠償責任ですが、刑事事件の示談金には被害者に許しを得るための謝罪金としての性質があります。
示談金の支払によって被害弁償をして示談した事実は、刑事手続きにおいて検察官や裁判官の心証に影響が与えることがあります。
被害者に謝罪して示談金を支払うメリット
被害者に謝罪して示談金を支払うメリットは、下記の3つです。
前科がつかない可能性がある
被害者との示談が成立すれば、前科がつかない可能性があります。
警察に事件が発覚する前に示談が成立し、被害者が被害届を出さなければ、警察が介入する可能性も低くなります。
捜査機関(警察・検察官)が事件を認知していなければ、そのまま事件発覚に至らず処罰されずに済むかもしれません。
早期釈放される可能性がある
逮捕された場合も、被害者との示談が成立すれば、早期釈放される可能性があります。
示談は、前提として加害者が罪を認めた上で、被害者に対し謝罪の意を示すものです。
加害者が罪を認め、被害者の許しを得ているということは、刑事処分から逃れるために逃亡したり、証拠を隠滅したりするおそれがないことを意味し、身柄を拘束する必要はないと判断されやすくなるためです。
不起訴になる可能性がある
逮捕されて、起訴・不起訴が判断される前に被害者との示談が成立すれば、不起訴になる可能性があります。
起訴・不起訴を決めるのは検察官ですが、その際に集められた証拠や情状(刑事訴追を行うかどうかの判断や刑の量定にあたって考慮される事情)を総合的に判断します。
示談が成立したということは、被害者の処罰感情が和らいでいると判断されやすいため、不起訴になるための有利な情状といえます。
暴行事件の示談金
暴行事件の示談金の相場は10万円~30万円
暴行事件の示談金の相場は、10万円から30万円程度です。他の刑事事件に比べると、比較的低い金額だといえます。
示談金が決まる基準
示談金は、主に下記の項目を考慮して決定されます。
- 犯行の状況(暴行の回数や武器の使用の有無など)
- 加害者と被害者の関係性(加害者への処罰感情など)
暴行罪は、被害者と加害者の間でトラブルが起こることによって起きるのがほとんどです。つまり暴行された被害者は、加害者への怒りの感情が大きいと考えたほうがよいです。
それに加えて、暴行の回数が多く武器を使用して攻撃していたとなれば、被害者が加害者に対して抱く処罰感情はさらに大きくなる可能性があり、示談金は高い金額になります。
示談金と慰謝料の違い
示談金と慰謝料はしばしば混同されがちですが、以下のような違いがあります。
示談金 | 加害者と被害者の間で事件を解決するための金銭。 被害者が受けた金銭的な損害、精神的苦痛に対する慰謝料などが含まれる。 刑事事件では、被害者が受けた被害を賠償するために支払う。結果的に不起訴や減軽につながることがある。 |
慰謝料 | 被害者が被った精神的苦痛に対して支払う損害賠償金。 |
ただし、実際の示談金の中には、通院費や治療費などの物的損害のほか、精神的苦痛に対する慰謝料も含まれます。
被害者に生じた損害をまとめて解決するための金額であり、その内訳には慰謝料や実費が含まれるという形になります。
被害者にケガさせると傷害罪となり示談金も高額に
暴行罪と傷害罪は似た犯罪に思えますが、重要な違いはケガの有無にあります。暴行罪は、相手に対する物理的な攻撃があったものの、ケガなどの傷害結果が発生しなかった場合に成立します。
一方で、相手に打撲・出血・骨折などのケガを負わせた場合には、より重い傷害罪が適用されます。
項目 | 暴行罪 | 傷害罪 |
成立条件 | 暴力行為を行い、相手にケガを負わせていない場合 | 暴行により相手にケガを負わせた場合 |
示談金の相場 | 約10万~30万円 | 約10万~150万円以上(ケガの程度や治療費などによる) |
損害内容 | 精神的苦痛への慰謝料など | 治療費、通院・入院費、慰謝料、逸失利益など |
傷害罪に該当する場合、被害者に対する示談金の金額も大きく跳ね上がる傾向があります。
加えて、骨折など後遺症が残るような重大な傷害があった場合、示談金はさらに高額となり、100万円を超えることもあります。
被害者にケガを負わせた場合は、示談金の交渉も慎重に進める必要があります。
特に治療の長期化や後遺症の可能性がある場合は、弁護士を通じて示談交渉を行うことが望ましいでしょう。
酔っ払いに殴られた場合はケガの程度による
酔っ払った相手に殴られた場合でも、暴行罪や傷害罪として加害者の責任が問われます。このときの示談金は、次のように被害の程度によって変動します。
軽微なケガ(打撲・かすり傷など) | 暴行罪に該当し、示談金の相場は 10万~30万円程度 |
重いケガ(骨折・入院・長期の通院など) | 傷害罪に該当
示談金の相場は 10万~150万円程度 治療費・通院費・慰謝料などによっても金額は異なる |
酒に酔っていたから仕方ないといった言い訳は通用しません。被害者にケガを負わせた時点で、加害者としての責任は免れません。
暴行事件の示談交渉を弁護士に依頼した後、示談金を支払うまでの流れ
ここでは、暴行事件の示談交渉を弁護士に依頼した後、示談金を支払うまでの流れについて解説します。
被害者に示談交渉を申し出る
まずは被害者に対して、示談交渉をしたい旨を申し出ます。その際は、反省と謝罪の弁を述べることを忘れずにしましょう。相手の意向を真摯に受け止め、しかるべき金額で示談成立を目指します。
示談書を取り交わす
被害者との間で示談交渉が成立したら、示談書を取り交わします。示談書は示談金の額などを確定する重要な合意書なので、被害者との合意内容に応じて以下の条項を盛り込みましょう。
謝罪条項
被害者に反省している気持ちを分かってもらうために、示談書の最初に記載するとよいです。
示談金の支払いに関する条項
示談金の金額と支払い方法を明記します。
宥恕条項
宥恕(ゆうじょ)とは許すという意味ですので、宥恕条項が示談書に盛り込まれることで、被害者が加害者をこれ以上罰する考えはないととらえてもらえます。宥恕条項があることで、不起訴処分になったり、減刑されたりする可能性が高いです。
接触禁止条項
加害者は二度と被害者に接触しないと約束する条項です。被害者感情に寄り添い、不安を払拭するための条項です。
誓約条項
加害者側は二度と暴力を振るわない、被害者側は被害届を出さないと約束する条項です。
清算条項
示談書で決定したこと以外に請求や債務がないことを記載する条項です。示談成立後に被害者から弁償が終わっていないと言われないための条項です。
秘密保持条項
暴行事件に関して、第三者に口外しないことを約束する条項です。
示談金を支払う
示談が成立し、示談書が交わされたら、加害者は被害者に対して示談金を支払います。
暴行罪で示談しないとどうなる?
暴行罪は軽い罪だから大丈夫と示談をせずに手続きを進めてしまうと、前科がつくなど人生に大きな影響を及ぼす可能性があります。
たとえ相手に大きなケガをさせていないとしても、被害者の処罰感情が強ければ起訴されることは十分にあり得ます。
以下では、示談をしなかった場合にどのようなリスクがあるのか、具体的に解説します。
起訴され有罪・前科となることがある
暴行罪は比較的軽微な犯罪とされることもありますが、示談が成立していない場合は起訴され、有罪・前科となるリスクが高まります。
起訴された後に略式命令(罰金)で処理されるケースでも前科には変わりません。前科は、以下のように今後の人生にさまざまな影響を与える可能性があります。
- 渡航制限
- 再犯時の不利な扱い
- 家族・周囲への影響 など
特定の業種(公務員・士業・警備業など)では前科歴が大きなハードルになることもあります。
ケガの程度によっては傷害罪で重い処分となることも
被害者のケガの程度や前科の有無などによって処分は変わりますが、重傷を負わせた場合や悪質性が高い場合には、拘禁刑となる可能性も十分にあります。
拘禁刑とは、懲役刑と禁錮刑を一本化した刑罰で、2025年6月1日から施行されています。
傷害罪の罰則は15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です(刑法第204条 )。
軽傷であっても示談が成立していなければ、罰金刑や執行猶予付きの判決、場合によっては実刑となることもあります。
傷害罪に問われるようなケースでは、被害者との示談が処分を軽くするための重要な手段になります。
被害者に訴えられる可能性がある
暴行で示談ができなかった場合、被害者から民事裁判で訴えられるおそれもあります。
民法ではわざと(故意)やミス(過失)で相手に損害を与えたら、損害賠償しなければならないと決められています。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用:民法第709条 – e-Gov
治療費や通院にかかった費用、精神的な苦痛に対する慰謝料などを後から請求される可能性もあるため、できるだけ早めに被害者に謝罪をし、損害を賠償することが重要です。
暴行罪で示談金の交渉を弁護士に依頼すべき理由は?
ここでは、暴行罪で示談金の交渉を弁護士に依頼すべき理由について解説します。
弁護士に依頼することで、示談に応じてもらえる
暴行された被害者は、加害者と直接やり取りをするのを拒む場合が多いです。
自分に暴力を振るってきた相手と関わりたくないという感情は自然ですし、何よりも恐怖心が大きな壁になります。
そのため、原則として警察や検察は、加害者本人に被害者の連絡先を教えることはありません。
しかし、被害者が対話をしてくれないことには、示談交渉は進められません。
弁護士に依頼すれば、被害者の警戒心は少し和らぐ可能性があります。被害者の同意を得て、連絡先を得られる可能性が高くなります。
まずは示談交渉の場を作ることが大切なので、弁護士にきっかけを作ってもらいましょう。
示談交渉がスムーズに進む可能性がある
暴行事件は、被害者の加害者に対する感情が良くないため、第三者である弁護士が間に入ったほうが事はスムーズに進みます。
被害者の加害者に対する悪印象を増幅させないように、弁護士は上手く立ち回れます。示談を成立させるには、被害者と冷静に話し合う場を整えなければいけません。
示談金の減額交渉ができる場合がある
被害者は、暴行を受けたという怒りにまかせて相場よりも高い示談金の金額を要求してくる可能性があります。その場合、暴行事件を多く手がけてきた弁護士であれば、減額交渉ができる場合があります。
減額交渉はテクニックが必要です。減額交渉をしたことで、相手に反省していないのではと不信感を抱かれたら元も子もありません。
被害者に相場以上の金額を提示されていると感じたら、迷わずに弁護士に依頼したほうがよいでしょう。
まとめ
日常生活のイライラやストレスを発端にして、暴行事件を起こす人は珍しくありません。お酒に酔ってトラブルに巻き込まれることもあるでしょう。
運が悪ければ、見知らぬ人からけんかを売られてしまうこともあります。しかし、どんな状況でも先に手を出してしまったら負けです。
カッとなっても、その瞬間に大切な人を思い浮かべて、こぶしを引っ込めるようにしましょう。
それでも我慢できずに暴力をふるってしまったら、迷わず弁護士に相談することをおすすめします。事件を起こしてしまったら、被害者への謝罪を迅速に行わなければいけません。
暴行事件を多数手がけている弁護士であれば、どのような方法を取ればいいか、的確なアドバイスができます。
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