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弁護士法人ネクスパート法律事務所

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独断かつ放漫な経営を続けた代表取締役の職務に対する非常勤取締役の監視義務違反が否定されたケース

目次

事実関係

A社は、各種洗車機械の製造販売等を営む会社でした。Bは、A社の代表取締役の地位にあり、Yは非常勤の取締役でしたが取締役会長の地位にありました。Yは、C社のある静岡県清水市(当時)に居住していました。

A社の業務執行のすべてはBが独断で専行し、取締役会は開催されたことはありませんでした。A社発足後1ヶ月後くらいから、BはYに同社への資金支援を申し入れるようになり、C社は以後毎月500万円以上の融資を続けました。

Yは、A社の過大な支出を知るたびに、Bに対して、経費の削減、業務の適切な管理をするよう忠告していました。BがA社設立以前に設立準備していた会社の債務の支払いをするため、A社に手形を振り出させた際には、YはBのかかる行為が背任行為であるなどの忠告を与えました。

A社発足後3、4ヶ月の頃には、Bの乱脈な手形振出しを防止するため、YはBからA社代表印を取り上げ、これをC社の経理係に保管させ、毎月振り出す手形を持参させてその内容を説明させました。

Yは、Bに対し常に忠告を怠りませんでしたが、遠隔地に居住するA社非常勤取締役であり、Bの経営をチェックするには限界があると考え、A社の経営を安定させるために、経営管理能力のあるC社の社員をA社常勤取締役として出向させました。

Yは、昭和49年10月31日付でA社の取締役を辞任しました。昭和49年12月25日頃、A社の第一期決算報告が作成され、これを見て驚いたYは、昭和50年1月13日、Bを呼び、A社の代表取締役を辞任しないならば、C社は以後取引を打ち切ると告げました。

Bは同日付で辞任し、YがBの後任として推薦した経営コンサルタントであるDがA社代表取締役に就任しました。

しかし、Dの株主総会での選任決議が無効であったとして、DはA社代表取締役を辞任し、Bが復帰しましたが、その後もBがA社に出勤しないため、やむなくDが代表取締役の業務を執行しました。

昭和50年7月、A社は倒産しました。Xらは、自動車のリース契約に伴う損害金債権をAに対して有する者です。

A社の倒産により同債権の回収ができなくなったことに関し、Yが故意または重大な過失によってBの業務執行に対する監視義務に違反したとして、商法旧266条ノ3第1項に基づき、損害賠償を請求しました。

判旨

裁判所は、Yがその職務を行うについて重大な過失があったとは認められないとして、商法旧266条ノ3第1項の規定に基づく損害賠償責任を否定しました。

Yの責任が否定されたポイント

まず、A社はBが独断専行して経営する会社であり、Yは名目的、形式的に取締役として就任していました。

また、YはA社から遠いところに居住し、自己が代表取締役を務めるC社の経営に従事していたため、A社の取締役会に出席して意思決定に参加することは事実上不可能でした。

これらの点について、裁判所は、「……YはA社に洗車機械を納入し、Bに次ぐ出資をしているC社の代表取締役として、名目的、形式的にA社の取締役に就任したものであって、清水市に居住してC社の業務執行に従事している者であり、取締役会を通じてA社の業務執行に関する意思決定に参加することはそもそも事実上不可能であるし、代表取締役の業務執行を監視するについてもおのずから制約がある。そして、いやしくも取締役に就任した以上、このような事実上の制約はその責任を免れる理由にはならないとするのは実情に副わないものである。」としています。

こうした状況の中で、Yは、過大な支出や架空の売り上げによる融資の依頼があれば、Bに対し、経費の削減、業務の適切な管理を行うように忠告しています。

BがA社設立以前に設立準備していた会社の債務を支払うためにA社振出しの手形を交付したことにも、Bに対し、かかる振出しは背任行為であり、重大な問題であるとして、杜撰な経営態度に忠告しています。

また、Bの乱脈な手形振出し等を防止するために、BからA社の代表印を取り上げ、これをC社の経理係に保管させ、毎月振り出す手形を持参させてその内容を説明させ、これに代表印を捺印するという措置を取りました。

さらに、Yは、A社の経営を安定させるために経営管理能力のある者を常勤取締役に就任させるのが良いと考え、C社の社員をYの代わりにA社取締役として出向させました。

Yは取締役辞任後も、A社の決算報告書を見て、Bを呼び、会社経営が杜撰であり、経営能力のないことを指摘しています。

さらに、BがA社の代表取締役辞任を承諾しないならばC社は以後取引を打ち切ると申し渡し、これを受けて、BはA社代表取締役を辞任しました。Yは、Bの後任として他の取締役および監査役らと相談した上で、経営コンサルタントのDを推薦しました。

以上のことから、裁判所は、「Yは名目的、形式的な取締役であったにもかかわらず、なお可能な限り代表取締役Bの放漫経営の防止、是正に努めたというべきであって、その職務を行うについて重大な過失があったとは到底認められない。」として、Yの責任を否定しました。

コメント

本件は、いわゆるワンマン経営を行う代表取締役の職務に対する非常勤取締役の監視義務違反が問われた事案です。

本判決は、Yが名目的にA社の取締役に就任したことや、遠方に居住して自らが代表取締役を務めるC社の経営に従事していることから、A社の取締役会を通じて意思決定することは事実上不可能であり、かかる制約が面積理由とならないのは実情にそぐわないと述べている点が特徴的です。

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