倒産会社の代表取締役の業務執行に関して平取締役の監視義務違反が否定されたケース

事実関係
A株式会社は、昭和38年6月5日に設立され、ガソリンスタンド事業を行う、資本金額200万円の会社です。A社はいわゆる「同族会社」であり、Bが代表取締役、その妻C、およびCの弟Yが取締役を務めていました。
A社の経営は当初は順調でしたが、昭和47年頃から、多額の借金をして店舗増設をしたにもかかわらず売上が低迷しました。
さらには金融引締め、オイルショック等の影響もあって、やむをえず高利貸しから金融を受けたことから次第に営業成績は低下し、資金繰りが苦しくなっていきました。
そして、昭和47年7月末頃、A社はついに不渡手形を出して、倒産しました。
A社が振り出した約束手形2通を手形割引のため所持していたXは、手形金の支払いを受けることができなくなったため手形金と同額の損害を被ったと主張して、A社の平取締役であったYに対し、損害賠償を請求しました。
判旨
裁判所は、Yの監視義務違反、Xの損害との相当因果関係の存在は認められないとして、その責任を否定しました。
Yの監視義務違反が否定されたポイント
まず、裁判所は、一般論として、「株式会社の取締役会は会社の業務執行につき監査する地位にあるから、取締役会を構成する取締役は会社に対し取締役会に上程された事項についてだけ監視するに止まらず代表取締役が行う業務執行一般につきこれを監視し、必要があれば取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求め、取締役会を通じてその業務執行が適正に行われるようにする義務があると解すべく(最判昭和48年5月22日、民集27巻5号655頁参照)、右職務を怠り、これを行うにつき悪意又は重過失のあるときは第三者に対して損害賠償責任をおわなければならない」としています。
本件のA会社では、必要の都度取締役会が開催され、Yは会社業務遂行についての重要案件の協議、営業状況の報告などを受けていました。
また、A社では日常の業務についても代表取締役Bの独断専行ではなく、役員、部長、営業所長らが集まって会議の場を設け、業務推進など協議しており、また会計帳簿や決算書類も作成されていました。
Yは、営業成績の低下、借財の増加について心配し、経理担当のBに対して、借財の内容、返済方法等につき問いただしたこともありました。
以上のことから、裁判所は、Yの監視義務違反を否定しました。
コメント
本事案において裁判所は、Yは、代表取締役Bに会社業務の一切を任せきりにしたり、その業務執行に何ら意を用いなかったわけではないとしています。
たとえYが取締役会の開催を要求したとしても、代表取締役の行為を防止し得たことを認めるに足らないと述べて、Yの監視義務違反を否定しています。
どのような行為が取締役としての監視義務を尽したことになるかという観点から参考になる事案といえるでしょう。