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弁護士法人ネクスパート法律事務所

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会社に融資しその取締役となった金融業者に対し、当該会社の代表取締役に対する監視義務違反が認められたケース

目次

事実関係

A株式会社は設立当初より資金に乏しく、代表取締役であるY1、常務取締役であるY2は、会社の信用を得ることおよび資金の援助を受けることを主たる目的として、もともと取締役であったY6およびY7に加えて、金融業者のY3、Y4、Y5らを取締役として迎え入れました。

A社は仔豚の保険業を始めましたが、仔豚の死亡率が意外に高く、保険金の支払いに追われて業績が上がりませんでした。そこで、昭和45年6月30日、A社は会社の目的を変更して養豚業等を行うことを計画し、養豚場をもうけるためB株式会社から山林を買い受ける契約をしました。

しかし、この売買契約は後に解消されたため、Y1およびY2は代金支払いのために振り出した約束手形の回収に奔走しましたが、そのうち一通を所持していたXとの間で土地売買の話が持ち上がりました。

XとY1との交渉の結果、昭和45年7月3日、Xの所有する山林をA社が3,600万円で購入する契約(本件土地売買契約)をしました。

A社は売買代金支払いのため16通の約束手形をXに振り出し、直ちに土地の所有権移転登記を完了しました。

ところが、A社はこれら約束手形の満期の直前に不渡りを出して倒産し、Xは受領したすべてについて支払いを受けることができませんでした。

そこでXは、本件土地売買契約の当時、A社は倒産寸前の状態にあって、Xに交付した約束手形について満期に支払うことは到底見込みがなかったにもかかわらず、Y1は手形の支払いを受けることができるものと誤診したXに本件土地売買契約をさせました。

また、他の取締役らもその事情を知っていたと主張して、Y1~Y7に対し損害賠償を請求しました。

判旨

裁判所は、支払見込みのない約束手形の振り出しについて代表取締役Y1の悪意・重過失を認定しました。

また、「各取締役は、取締役会の構成員として、代表取締役による会社の業務執行が適正、妥当に行われるよう、取締役会の決議を通じてこれを監視、監督する権能と義務を有するのであって、取締役会に上程された事項についてはもとより、そうでない事項についても、業務執行が不正、不当に行われるおそれある場合には、自ら取締役会を招集し、又は招集権ある取締役にその招集を求めることによって、業務執行に対する取締役会の監督の権能の行使に遺憾なきを期待すべき義務があるといわねばならない。」として、常務取締役Y2、取締役Y3、Y4、Y5の監視義務違反を認めました。

なお、本件当時病気休養中であったY6、本件土地売買契約に関与しておらずその締結前に辞任したY7については、その責任を否定しました。

Y2~Y5の監視義務違反が肯定されたポイント

常務取締役であるY2は、Y1が本件売買契約を締結して約束手形をXに交付した際、それが不渡りになる危険性を十分に感じていました。

それにもかかわらずY2は、Y1の業務執行についてなんら監視、監督の手段を講ずることなく、Y1に任せきりにしていました。

金融業者であるY3、Y4、Y5は、代表取締役Y1から再三にわたる融資の要請や返済期日の延期の要請があったこと等の事実から、A社の資産や経営状態が甚だしく悪化していることを当然知ることができたはずでした。

それにもかかわらず彼らは、Y1の業務執行についてなんら監視、監督の手段を講ずることなく、Y1に任せきりにしていました。

それどころか、金融業者であるY3、Y4、Y5は、自己の資金の回収に関心を示すのみで、取締役会の開催を求めることもなく、Y1の放漫な経営を放置していました。

以上のことから、裁判所は、Y2~Y5の監視義務違反を肯定しました。

Y6、Y7の責任が否定されたポイント

Y6は名義上A社の取締役になってはいましたが、病気で休養していて、実質的にA社の経営に関与したことはありませんでした。A社では株主総会も取締役会も開かれておらず、Y6は同社の経営の実情について知る機会がありませんでした。

Y7は、A社の代表取締役となっていて、ある程度A社の業務に関与していましたが、Xとの本件土地売買契約には関与したことはなく、契約成立前の昭和45年6月30日に取締役を辞任していました。

以上のことから、裁判所は、Y6、Y7については取締役の任務を十分尽くしたとは言い難いとはしつつも重過失を否定しました。

コメント

本件は、会社に対して信用および資金援助を与えるために取締役となった金融業者の監視義務違反が問われた点に特徴があります。

Y3~Y5が会社の経営に実質的に関与している以上、取締役に就任した個別理由は取締役会の構成員として代表取締役の業務執行を監視すべき義務を軽減すると解すべきではなく、裁判所の結論は妥当といえるでしょう。

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