会社の経営を専務取締役に任せきりにしていた代表取締役の任務懈怠が認められたケース

事実関係
昭和46年11月26日、Y1株式会社は、専務取締役Aを通じて、Xに対し額面100万円の約束手形を振り出しました。Y1社は、昭和41年5月に各種電気製品の販売・修理等を目的として資本金30万円で設立されました。
Y1社には、会社財産としてはみるべきものがなく、商品の仕入先や金融機関に対する担保として代表取締役であるY2がその個人財産を提供してきました。
Y2の娘婿として専務取締役の地位にあったAは、Y1の社印を預かり、一切の経営を任されていました。
昭和46年11月上旬、Aが宅地を購入しY1社の事務所および工場を新築しようとしたことから資金繰りが極度に悪化しました。
Aは、建築資金に充てるために銀行に融資を申し込みましたが断られたため、Xに依頼して100万円を借り受け、その際Xに対して上記の約束手形を振り出しました。
ところが、12月初旬、Y1社は2回目の不渡手形を出して、多額の負債を抱えて事実上倒産し、Aは行方不明となりました。
Xは、満期日である昭和46年12月24日に本件手形を支払場所の銀行に提示しましたが、支払いを拒絶されました。
そこで、Xは、Y1社に対して100万円の手形支払いを請求するとともに、Y2に対して商法旧266条ノ3第1項に基づく損害賠償を請求しました。
判旨
裁判所は、Y2の任務懈怠責任を肯定し、Xの請求を全額認容しました。
Y2の任務懈怠責任が肯定されたポイント
Y2は、別の株式会社の代表取締役を兼任しており、その会社の業務執行に当たっていました。
他方で、Y2は、取引銀行からの資金借入れに立会い、仕入先との商品購入契約締結の際に、自己の資産を提供してY1社の保証をしたことがあるほかは、Y1社の業務執行に関与していませんでした。
そして、Y2は、AにY1社の印鑑一切の保管に委ね、Y1社の手形を代表取締役を代行して振り出す権限を委譲するなど、Y1社の経営をAに任せきりにしていました。
また、Y2と娘婿であるAとは同一屋敷内に居住しており、Y2はY1社に関する業務報告を求めるなどして、容易にAを監視・監督できたのにもかかわらず、まったくこれを怠っていました。
以上のことから、裁判所は、「Y2はY1会社の代表取締役であるが、Y1会社の経営をAに一任し、AはY2の三女の夫であり同一屋敷内に居住していたのでY1社に関する業務報告を求めるなどして容易に監視監督しえたのに、全くこれを怠った重大な任務懈怠があったことが認められる。」として、Y2の任務懈怠責任を肯定しました。
コメント
本件は、会社の経営を全く気にかけることなく、親族である取締役に任せきりにしていた代表取締役の任務懈怠責任が問われた典型的な事案です。
認定された事実からすれば、Y2の任務懈怠責任を肯定することに疑問はなく、結論は妥当といえるでしょう。