他の代表取締役に会社業務の一切を任せていた代表取締役について、商法旧266条ノ3の責任が認められたケース

事実関係
YはAから、雑貨類販売の会社設立を持ちかけられました。
Yは、雑貨類販売に関する経験がなかったため、Aが共に代表取締役になること、Aが業務一切を執行しYは事業上の責任を一切負わないことをAに求め、Aの了解の下、代表取締役となることを承諾し、B会社が設立されました。
YはB社の代表取締役社長、Aは代表取締役専務に就任しましたが、B社の業務はすべてAが執行し、Yはその業務執行に全く関与していませんでした。
X社は、B社に対して、合成洗剤・石鹸等を約97万円で販売しました。ところが、B社が代金を支払わないまま、AがB社の預金通帳・帳簿・会社代表印を拐帯して行方をくらませました。
B社は事実上倒産し、X社は同額の損害を被りました。そこで、X社はYに対し、一次的には民法715条2項、二次的には商法旧266条ノ3の責任を追及しました。
判旨
裁判所は、「代表取締役社長たるものは会社を代表し、業務執行を掌る機関であるから、常に善良なる管理者の注意をもって会社の営業及び財産状態を把握して会社の利益を図り、かつ会社使用人を指揮監督すべきであり、他に代表取締役が置かれた場合にもその職務執行を監視し、その過失又は不正行為を未然に防止すべき義務があり、このことは、代表取締役社長が会社業務に全く関与せず、他の代表取締役に会社業務の一切を任せきりにしていた場合にもそのものの不正行為もしくは任務懈怠を看過したならば、自らも悪意又は重大な過失により任務を怠ったものとして、その任務懈怠と第三者の損害との間に相当因果関係がある限り、その損害が直接たりと又間接たりとを問わず、当該代表取締役が直接第三者に対して損害賠償する義務があるといわねばならない。」とした上で、Yの監視義務違反を認め、商法旧266条ノ3により損害賠償責任を認めました。
Yの監視義務違反が肯定されたポイント
Yは、自ら会社業務に関与することなく業務はすべてAに任せてその職務遂行を監視していませんでした。また、YはAに対し内容証明郵便により代表取締役を辞任する旨の通知を送付していたものの、その登記を経ていませんでした。
以上のことから、裁判所は、Yの監視義務違反を肯定しました。
コメント
監視義務違反の結論については異論はないものと思われます。裁判でYは、すでに代表取締役を辞任する意思を明確に通知していた旨を主張しました。
しかし、判決では、退任登記がなされていないからYが取締役でないことを善意の第三者に対抗できないとして退けられています。
代表権を有するAに辞任通知を送付していたことから、Yに帰責性を認められる微妙なところであり、本判決の結論には異論もみられるところです。