名目上の代表取締役につき、監視義務違反が認められたケース

事実関係
A社は、Bがその実権を有し業務一切を担当し経営に当たっていた株式会社です。かねてよりYの父であるCがA社の信用のために名目上の代表取締役に就任していました。
しかし高齢を理由に辞職を申し出たため、B・Cから懇請され、Yはやむなく名義上の代表取締役になることを承諾し就任しました。
A社はBの指揮の下で経営を行ってきたところ、食管法に基づくX(国)との寄託契約において、Bの故意又は重過失により寄託を受けた麦類を亡失させる事故を起こしました。
その事故により、約4,000万円もの損害をXに与えました。そこで、XはYに対し、商法旧266条ノ3により損害賠償請求をしました。
判旨
第1審は、Yの任務懈怠を肯定し、Xの請求を認めました。
控訴審は、「代表取締役が他の取締役、使用人その他下部職員の補助をえて業務の執行にあたつている場合には一般の取締役より一層高度の注意義務を尽して忠実にこれらの補助者の行為に職務違反がないかどうかを監視することは勿論、不当な職務の執行はこれを制止し、あるいは未然にこれを防止する策を講ずる等会社の利益を図るべき職責を有する。」として、Yの任務懈怠を肯定しました。上告審もこれを維持しました。
Yの任務懈怠が認められたポイント
本件のYは、B・Cに懇請されやむなくではあるものの、自らの意思で代表取締役就任を承諾し、その旨の登記もしていました。
しかし、Yは経営する他社の業務に忙殺され、A社に出社したことはほとんどなく、A社の重要な業務には全く関与せずに、Bに一任していました。
また、Yは代表取締役の職印もBに預け、Y名義を使用して自由に事務処理させていました。
以上のことから、裁判所は、Yの任務懈怠を認めました。
コメント
裁判において、Yは、自分は名目的取締役であるため責任を負わないとの主張をしました。
しかし第1審・控訴審ともYが自らの意思で代表取締役就任を承諾していたことを指摘して、一蹴しています。妥当な判断といえるでしょう。