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倒産時の解除特約は無効!所有権留保契約の特約制限を解説

分割払いで商品を購入する際、売主が代金完済まで所有権を留保する所有権留保契約では、買主に倒産手続の申立てがあった場合に契約を解除できる特約が設けられることがあります。しかし、このような特約は買主の事業再建を阻害する可能性があります。

譲渡担保新法第110条は、民事再生手続や会社更生手続の申立てがあったことや、その原因となる事実が生じたことを理由とする解除特約を無効と定めました。これにより、倒産手続における買主の事業継続が保護されます。
ここでは、第110条の無効規定の内容と実務への影響について解説します。

目次

所有権留保契約における解除特約の問題

ここでは、所有権留保契約における解除特約が抱える問題について説明します。

所有権留保契約では、買主が分割払いで商品を購入し、代金完済まで売主が所有権を留保します。このような契約では、買主の信用状態が悪化した場合に備えて、契約を解除できる特約が設けられることがあります。

特に問題となるのが、買主について倒産手続の申立てがあったことを解除事由とする特約です。このような特約があると、買主が民事再生手続を申し立てた途端に、事業に必要な設備や在庫を失うことになります。
たとえば、製造業者が生産設備を所有権留保付きで購入していた場合、民事再生の申立てにより設備を引き揚げられると、事業の継続が困難になります。これでは倒産手続による事業再建という制度趣旨が損なわれてしまいます。

第110条の無効規定の内容

ここでは、第110条が無効とする特約の内容について説明します。

無効とされる特約の類型

第110条は、次の2種類の特約を無効と定めています。

第1に、一定の場合に所有権留保契約が解除される旨の特約です。
これは、倒産手続の申立てなどがあった場合に当然に契約が解除されるとする自動解除条項を指します。

第2に、一定の場合に該当することを理由として留保売主等に対し所有権留保契約の解除権を付与する特約です。
これは、倒産手続の申立てなどを解除事由とする任意解除条項を指します。

いずれの特約も、結果として買主が倒産手続において所有権留保動産を利用できなくなる点で同じです。

対象となる倒産手続

無効とされる特約は、次の場合を解除事由とするものです。

第1号は、留保買主等について再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てがあったときです。民事再生法や会社更生法に基づく申立てが該当します。

第2号は、留保買主等に再生手続開始の原因となる事実又は更生手続開始の原因となる事実が生じたときです。支払不能や債務超過など、倒産手続の原因事実が発生した段階を指します。

これらの時点で契約が解除されると、事業再建の機会が失われるため、特約が無効とされています。

無効規定の適用範囲

ここでは、第110条の無効規定がどの範囲で適用されるかについて説明します。

対象となる所有権留保契約

第110条は、第2条第16号イに規定する所有権留保契約に限って適用されます。

これは、動産の売買契約などで、当該動産の代金債務を担保するため、債務の完済まで売主が所有権を留保する契約です。いわゆる狭義の所有権留保が対象となります。

一方、第2条第16号ロに規定する三者間の所有権留保契約には、第110条は適用されません。信販会社が関与する立替払契約などでは、別途の考慮が必要です。

無効とされない解除事由

第110条は、倒産手続に関連する特約のみを無効とします。

代金の支払遅滞や契約違反など、通常の解除事由については影響を受けません。買主が分割金の支払いを怠った場合、売主は契約を解除できます。

また、破産手続開始の申立てを解除事由とする特約は、第110条の対象外です。破産手続は清算型の手続であり、事業継続を前提としないためです。

具体的な適用例

ここでは、第110条が実際にどのように適用されるかを具体例で説明します。

印刷会社A社は、印刷機械メーカーB社から最新の印刷機を5,000万円で購入しました。代金は5年間の分割払いとし、完済まで印刷機の所有権はB社に留保される契約を締結しました。

契約書には「A社について民事再生手続の申立てがあった場合、B社は本契約を解除できる」という条項が含まれていました。

その後、A社は受注の減少により経営が悪化し、民事再生手続の申立てを検討する状況になりました。
しかし、印刷機は事業継続に不可欠な設備です。

この場合、第110条により、民事再生手続の申立てを理由とする解除条項は無効となります。
A社が実際に民事再生手続を申し立てても、B社はこの条項に基づいて契約を解除できません。

結果として、A社は印刷機を使い続けながら事業を再建できます。
一方、B社は別除権者として、残代金について優先的に弁済を受ける権利を維持します。
再生計画において、残代金の支払方法が定められることになります。

ただし、A社が分割金の支払いを怠った場合は別です。支払遅滞は通常の解除事由であり、第110条の制約を受けません。
B社は支払遅滞を理由として契約を解除し、印刷機を引き揚げることができます。

実務への影響

ここでは、第110条が実務に与える影響について説明します。

契約条項の見直し

第110条の施行により、所有権留保契約の条項を見直す必要があります。

従来の契約書に倒産手続の申立てを解除事由とする条項がある場合、その条項は無効となります。契約書を改訂し、無効となる条項を削除するか、有効な解除事由のみを残す必要があります。

ただし、支払遅滞などの通常の解除事由は引き続き有効です。売主の権利を適切に保護するため、有効な解除事由を明確に定めることが重要です。

倒産手続における対応

倒産手続において、留保売主等と留保買主等の利害調整が必要になります。

留保買主等が民事再生手続を申し立てた場合、留保売主等は解除権を行使できません。しかし、別除権者として所有権留保動産から優先的に弁済を受ける権利は維持されます。

実務では、事業継続に必要な動産については留保買主等が使用を継続し、不要な動産については留保売主等に返還するなど、柔軟な対応が求められます。再生計画において、所有権留保動産の取扱いを明確に定めることが重要です。

まとめ

第110条は、狭義の所有権留保契約において、民事再生手続や会社更生手続の申立てがあったことなどを理由とする解除特約を無効とする規定です。

無効とされる特約は、申立てがあった場合に契約が解除される旨の特約と、申立てを理由として解除権を付与する特約の2種類です。また、申立て前の原因事実の発生を理由とする特約も無効となります。

この規定により、倒産手続における留保買主等の事業継続が保護されます。事業に必要な設備や在庫を確保することで、企業の再建を支援する効果があります。

ただし、対象は再建型の倒産手続に限られ、破産手続は含まれません
また、支払遅滞などの通常の解除事由は引き続き有効です。
実務では、契約条項の見直しと、倒産手続における柔軟な対応が求められます。

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