【新担保法制】後順位譲渡担保権の概要とその活用方法

複数の会社が同じ財産に担保を設定したいとき、順番をどう決めるか悩んだことはありませんか。
これまで判例で発展してきた後順位譲渡担保権が、譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律(譲渡担保新法)により明文化されました。
同一の財産に複数の譲渡担保権を設定することは可能ですが、その順位関係や実行方法については長年にわたって不明確な部分がありました。
平成18年の最高裁判例により一定のルールは示されましたが、実務上の運用は困難を極めていたのが実情です。
新法では、第7条で重複設定を明確に認め、第62条で後順位担保権者による実行方法を詳細に規定しています。
これにより、複数の債権者が関わる複雑な担保関係においても、明確なルールに基づいた権利行使が可能となりました。
継続的な取引関係における資金調達の多様化と、債権者間の公平な取扱いの両立が期待されます。
これまでの判例法理と課題
ここでは、後順位譲渡担保権に関する従来の判例法理とその問題点について説明します。
平成18年最高裁判決の意義
後順位譲渡担保権については、平成18年7月20日の最高裁第一小法廷判決によってルールが示されていました。
この判決では、以下2つの重要なルールが確立されました。
主な判示内容
- 重複設定の許容
同一の目的物上に重複して譲渡担保を設定することは認められる - 後順位者の実行制限
後順位譲渡担保権者は、先順位譲渡担保権者の優先権を害する独自の私的実行はできない
従来制度の課題
判例法理のもとでは、以下のような実務上の課題がありました。
- 実行方法の不明確性
後順位担保権者がどのように権利を行使できるかが曖昧 - 手続きの複雑性
先順位担保権者との調整方法が不透明 - 活用の困難性
リスクが高く、実際の取引での活用が進まない
これらの課題により、複数の債権者が関わる担保設定は敬遠される傾向にあり、制度の活用が進みませんでした。
新法における重複担保の取扱い
ここでは、譲渡担保新法における重複担保設定の明文規定について説明します。
重複設定の明文化(第7条)
譲渡担保新法第7条では、重複担保設定を明確に定められました。
譲渡担保財産は、重ねて譲渡担保契約の目的とすることができる。
譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律 第7条
この規定により、判例で認められていた重複設定が法律上も明確に許容されることとなりました。
実務への影響
明文化により、以下のような実務上のメリットが生じます。
- 法的安定性の向上
重複設定が法律で明確に認められることによる安定 - 取引コストの削減
判例研究や法的リスクの検討にかかる時間と費用の軽減 - 活用促進
明確なルールに基づく担保設定の増加
具体例
【設例】製造業における設備担保
A社(製造業)が新しい製造設備(1億円)を導入する際の担保設定。
- 第1順位
設備購入資金5,000万円を貸し付けたB銀行が譲渡担保権を設定 - 第2順位
運転資金3,000万円を貸し付けたC信用金庫が同一設備に譲渡担保権を設定

後順位譲渡担保権者による実行方法
ここでは、新法第62条により規定された後順位担保権者の実行方法について説明します。
実行における同意要件(第62条第1項)
後順位の動産譲渡担保権者が権利を実行する際は、先順位担保権者全員の同意が必要です。
後順位の動産譲渡担保権者がした帰属清算の通知又は処分清算譲渡は、当該後順位の動産譲渡担保権者が有する動産譲渡担保権に優先する動産譲渡担保権を有する動産譲渡担保権者の全員の同意を得なければ、その効力を生じない。
譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律 第62条
これにより、先順位担保権者の利益が適切に保護されます。
清算における読み替え規定(第62条第2項)
先順位担保権者の同意を得て実行する場合、各担保権の被担保債権は順位に従って消滅します。
担保権者間の合意による調整(第62条第3項)
担保権者間で被担保債権の消滅順位や額について合意が成立し、後順位担保権者が事前に債務者及び動産譲渡担保権設定者に対してその合意の内容を通知した場合、その合意内容に従って各被担保債権が消滅します。
確定期限未到来債権の取扱い(第62条第5項・第6項)
確定期限が来ていない債権についても、実行時には弁済期が到来したものとして扱われます。
被担保債権が無利息債権の場合には確定期限までの法定利率による利息を含めた額を被担保債権の額とみなして計算します。
実行手続きの流れ
【設例での実行手続き】
前述のA社・B社・C社の例で、A社が債務不履行となった場合の実行手続き
- 第1段階
B銀行から書面による同意を取得 - 第2段階
A社に対して実行の通知を送付 - 第3段階
製造設備の処分清算を実施 - 第4段階
売却代金からB銀行の債権(5,000万円)を優先弁済し、残額からC信用金庫の債権(3,000万円)を弁済

まとめ
後順位譲渡担保権は、譲渡担保新法により実用的な担保制度として整備されました。
従来の判例法理では実行方法が不明確で活用が困難でしたが、新法第7条による重複設定の明文化と第62条による詳細な実行規定により、実務での活用が期待されます。
特に、先順位担保権者の同意要件や清算時の順位調整、確定期限未到来債権の取扱いなど、実務上重要なポイントが明確に規定されたことで、複数の債権者が関わる複雑な担保関係においても安心して活用できる制度となりました。

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