【保全処分・引渡し命令】譲渡担保・所有権留保の新ルール―譲渡担保新法で新設された動産担保の独行手続き

動産譲渡担保権を実際に行使する際、債務者や担保財産の占有者が協力しない場合、どのように対処すればよいでしょうか。
譲渡担保新法では、担保権者の権利実行を支援するため、保全処分、引渡し命令、実行後の引渡し命令という3つの裁判手続きが新設されました。
従来は、担保権者が私的実行を行おうとしても、債務者が担保財産を隠匿したり、第三者が不当に占有を継続したりする場合、効果的な救済手段が限られていました。
これらの問題を解決するため、新法では裁判所の関与による迅速な救済制度が整備されています。
第75条では価格減少行為等への対応として保全処分を、第76条では実行準備のための引渡し命令を、第78条では実行完了後の最終的な引渡し命令をそれぞれ規定しています。
これにより、担保権者は段階的かつ効率的な権利行使が可能となり、担保制度の実効性が大幅に向上することが期待されます。
保全処分
ここでは、担保財産の価格減少や引渡し困難を防ぐための保全処分について説明します。
保全処分の要件(第75条第1項)
保全処分は、以下の要件を満たした場合に申し立てることができます。
申立て要件
- 被担保債権の不履行があったこと
- 債務者等が担保財産の価格を減少させ、または引渡しを困難にする行為をする、またはそのおそれがある場合
- 動産譲渡担保権者または処分清算譲渡を受けた第三者であること
保全処分の種類
保全処分は3つの類型に分けられます。
- 行為禁止命令(第1号)
価格減少行為等をするおそれがある者に対し、当該行為を禁止し、または一定の行為を命じる処分です。
- 執行官による保管命令(第2号)
以下を内容とする処分です。
- 譲渡担保動産の占有者による担保財産の占有を解いて執行官に引き渡すことを命じること
- 執行官による保管をさせる
- 使用許可付き保管命令(第3号)
第2号の内容に加えて、占有の移転を禁止しつつ、担保財産の使用を許可する処分です。
制限的な適用要件(第75条第2項)
第2号・第3号の保全処分は、以下の場合に限って認められます。
限定的適用
- 債務者または動産譲渡担保権設定者が担保財産を占有している場合
- 占有者の占有権原が申立人に対抗できない場合
申立て後の手続き(第75条第3項~第4項)
保全処分の決定を受けた申立人は、1か月以内に以下のいずれかを実行する必要があります。
必要な後続手続き
- 帰属清算の通知
- 処分清算譲渡
- 引渡し命令の申立て
- 動産競売の申立て
これらを実行しない場合、保全処分は取り消されます。
引渡し命令
ここでは、担保権実行のための引渡し命令について説明します。
引渡し命令の要件(第76条第1項)
引渡し命令は、以下の要件のもとで申し立てることができます。
申立て要件
- 被担保債権の不履行
- 帰属清算の通知または処分清算譲渡をするために必要がある場合
- 動産譲渡担保権者であること
清算金がある場合の引換給付
見積価額が被担保債権額を超える場合は、差額相当額の金銭の支払いと引換えに引渡しを命じます。
引換給付の要件
- 帰属清算の場合
見積価額が帰属清算時の被担保債権額を超える場合 - 処分清算の場合
見積価額が処分清算時の被担保債権額を超える場合
申立期限(第78条第2項)
実行後引渡し命令の申立ては、帰属清算時または処分清算時から1か月以内に行う必要があります。
まとめ
動産譲渡担保権の実行における裁判手続きは、譲渡担保新法により体系的に整備されました。
保全処分(第75条)により担保財産の価格減少等を防止し、引渡し命令(第76条)により実行準備を整え、実行後引渡し命令(第78条)により最終的な権利実現を図るという段階的な救済制度が確立されています。
これらの手続きにより、従来の私的実行における課題であった担保財産の隠匿や不当な占有継続に対して、裁判所の関与による迅速かつ効果的な解決が可能となりました。
特に、申立て後の期限設定や担保の立てさせなど、適正手続きを確保しつつ迅速な権利行使を両立させる仕組みが工夫されています。

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