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弁護士法人ネクスパート法律事務所

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【弁護士解説】下請法が「取適法」へ!何が変わる?改正のポイント【令和8年1月1日施行】

約50年にわたり事業者間取引の基本ルールであった「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)が抜本的に改正され、中小受託取引適正化法」(取適法)となります。
この改正は単なる名称変更ではなく、適用範囲や禁止行為が大幅に見直される重要なものです。
本記事では、取適法の概要と、企業が今から準備すべきポイントを解説します。

目次

なぜ今、下請法が改正されるのか?背景と目的

法改正の背景には「物価上昇を上回る賃上げ」という経済目標があります。事業者が賃上げの原資を確保するには、原材料費や労務費などの上昇分を取引価格へ適切に転嫁できる環境が不可欠です。今回の改正は、「サプライチェーン全体での適切な価格転嫁」を促し、事業者間が対等な立場で交渉できる環境を整えることを直接的な目的としています。
これは、日本経済の好循環を目指すマクロ経済政策の一環であり、今後の運用は以前より厳格になることが予想されます。

「取適法」の施行日と注意点

取適法の主要規定は令和8年1月1日から施行されます。現時点で、施行日以前の契約に対する経過措置は明記されていません。そのため、施行日以降の全取引に新法が適用される前提で準備を進めるのが安全です。長期契約を結んでいる企業は、施行日までに契約内容の見直しが必要になる可能性があるため、早期の対応が求められます。

下請法から取適法への主な改正点【概要】

改正のポイント早見表

改正項目現行法(下請法)改正法(取適法)
法律の通称下請法取適法
用語親事業者・下請事業者委託事業者・中小受託事業者
適用基準資本金基準のみ資本金基準+従業員基準
対象取引製造委託、修理委託など現行取引+特定運送委託
支払手段手形払いも可能手形払い原則禁止
価格交渉買いたたきの禁止買いたたき+協議に応じない一方的な価格決定の禁止

法律の名称・用語の変更

「下請」から対等なパートナーへ

事業者間の対等なパートナーシップを促すため、基本的な用語が見直されました。これは、法律の新しい理念を象徴する変更です。

  • 親事業者 → 委託事業者
  • 下請事業者 → 中小受託事業者
  • 下請代金 → 製造委託等代金

適用対象の拡大①:「従業員基準」の新設

従来の資本金基準に加え、「常時使用する従業員の数」による基準が新設され、いずれかに該当すれば適用対象となります。

  • 製造委託・修理委託・特定運送委託など
    委託事業者の従業員数が300人超で、中小受託事業者の従業員数が300人以下の場合
  • 情報成果物作成委託・役務提供委託など
    委託事業者の従業員数が100人超で、中小受託事業者の従業員数が100人以下の場合

「常時使用する従業員」に派遣社員は含まず、派遣元の従業員として数えます。

この新基準により、資本金が小さくても従業員の多い大企業などが新たに対象となる可能性があり、コンプライアンス上の「落とし穴」となりうるため注意が必要です。

適用対象の拡大②:「特定運送委託」の追加

物流の「2024年問題」に対応するため、新たに「特定運送委託」が対象取引に追加されます。これにより、従来対象外だった荷主から元請運送事業者への直接の運送委託も規制対象となり、物流業界の不公正な取引慣行の是正が期待されます。

禁止行為の追加①:協議なき一方的な価格決定の禁止

価格転嫁を促すため、「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」が追加されました。中小受託事業者からコスト上昇を理由とする価格交渉を求められた際、協議を拒否したり、十分な説明なく価格を据え置いたりして一方的に価格を決定することが禁止されます。

従来の「買いたたき」(価格水準の不当性)の禁止に加え、対等な「交渉プロセス」自体を確保することが目的であり、委託事業者には誠実な協議と交渉過程の記録が求められます。

禁止行為の追加②:手形払いの原則禁止

中小企業の資金繰りを圧迫する手形による支払いが原則として禁止されます。
「支払遅延」の一類型として、手形の交付が明確に禁止行為と規定されました。支払期日までに満額の現金を受け取れない電子記録債権やファクタリングなども認められず、支払方法は事実上、現金(銀行振込など)に一本化されます。
これにより、多くの企業で資金繰り計画の見直しが急務となります。

その他の重要な改正点

  • 電子書面の交付が容易に
    従来必要だった相手方の承諾なしで、発注書面(3条書面)を電子メール等で交付可能になります。
  • 遅延利息の対象拡大
    支払遅延に加え、不当な「減額」にも年率$14.6%の遅延利息の支払義務が課されます。
  • 執行体制の強化
    公取委・中小企業庁に加え、事業所管省庁も指導・助言が可能になり、違反申告の窓口が拡大します。
  • 製造委託の対象物品の拡大
    金型に加え、木型や治具など、製品製造に専用で使われる物品の委託も対象となります。

企業が今から準備すべきこと

施行に向け、事業者は以下の準備を早急に進める必要があります。

  1. 自社が適用対象か再確認する

新しい「従業員基準」に基づき、自社や取引先が適用対象となるか再確認してください。従来の資本金基準のみでの判断は危険です。

  1. 契約書や社内規程を見直す

取引基本契約書などの雛形について、支払方法から「手形」の文言を削除し、価格改定の協議手続きを明記するなど、改正法に合わせた更新が不可欠です。

  1. 支払・経理プロセスを整備する

手形払いの禁止に伴い、支払サイト(受領日から60日以内)を守った決済のプロセスを構築する必要があります。資金繰りへの影響を検証し、対策を講じてください。

  1. 価格交渉のルールを構築し、担当者を教育する

購買担当者などが価格交渉の申し入れを拒否したり、不十分な説明で価格を据え置いたりすることが法違反になることを周知徹底し、交渉経緯を記録・管理する社内ルールを整備することが重要です。

まとめ

下請法から取適法への改正は、日本の取引慣行を大きく変える重要な変更です。特に「従業員基準」の新設により、これまで対象外だった企業も規制対象となる可能性があり、「自社は無関係」との思い込みは危険です。

施行は令和8年1月1日に迫っており、契約書の見直しや社内体制の整備には時間がかかります。
自社が対象となるかの判断やコンプライアンス体制の構築など、ご不明な点があれば専門家にご相談ください。

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