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【新担保法制シリーズ①】判例から明文化へ!譲渡担保・所有権留保の新ルール【2025年6月成立】

第1回:集合動産譲渡担保権の明文化とその影響

集合動産譲渡担保契約とは、債務者が複数の動産(在庫商品、原材料、機械設備など)を一つの集合体として債権者に譲渡し、債務の担保とする契約です。形式的には所有権が債権者に移転しますが、債務者は通常の事業活動を継続できます。民法には明文の規定がありませんが、判例法理によって発達した制度です。
しかし、令和7年6月6日に「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(譲渡担保新法)が成立し、明文化されました。
今回の記事では、明文化された集合動産譲渡担保権の内容、対抗要件について解説します。ぜひ参考にしてください。

目次

集合動産譲渡担保契約とは

ここでは、集合動産譲渡担保契約の基本概念について説明します。

集合動産譲渡担保契約とは、債務者が複数の動産(在庫商品、原材料、機械設備など)を一つの集合体として債権者に譲渡し、債務の担保とする契約です。

この方法は民法に規定されていません。しかし、判例(最高裁昭和62年11月10日)はこれを認めて、譲渡担保の目的とできると判断しました。

一方で、判例法理の射程は明確ではなく、法的解釈が分かれることもありました。

確かに「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」も制定されていました。ただし、この法律は動産、債権の譲渡を公示する方法が整備されたにすぎず、実体法について規定したものではありませんでした。

また、判例では占有改定による集合譲渡担保の設定を認めていましたが、占有改定による動産譲渡担保は公示性に欠けるとの批判がありました。

このような問題を受けて、新法制定に至りました。

譲渡担保新法での規定

ここでは、譲渡担保新法における集合動産譲渡担保権の規定について説明します。

集合動産譲渡担保について

譲渡担保新法では、以下の要件によって特定された動産を一体として、その目的とできると定めました(法40条)。

  • 譲渡担保動産の種類
  • 譲渡担保動産の所在場所その他の事項を指定

これにより、将来において属する動産を含むものとして定められた範囲(動産特定範囲)によって特定された動産(特定範囲所属動産)を一体として、その目的とできます。

このような契約を集合動産譲渡担保契約、これに基づく担保権を集合動産譲渡担保権と呼びます(41条1項)。

特定範囲所属動産の処分等

特定範囲所属動産の処分

動産譲渡担保のメリットは、集合動産譲渡担保権設定者がそのまま使用収益できることです(29条1項)。

目的物として想定されているものは商品などの在庫品です。そのため、売却などの処分ができなければ意味がありません。

法制化前には営業の範囲内での売却等の処分を許すことの合意が結ばれていました。

譲渡担保新法では、明文で集合動産譲渡担保権設定者が動産特定範囲に属する動産の処分ができることが定められました(42条1項)。

なお、契約によっては処分権限について別段の定めもできます(同2項)。

ただし、集合動産譲渡担保権設定者が集合動産譲渡担保権者を害することを知って処分をすることは無効です(同条1項ただし書)。

この場合、集合動産譲渡担保権設定者が集合動産譲渡担保権者を害することを知ってした行為の相手方は、それが無効な行為であることを知らない場合には、動産を即時取得できます(同3項)。なお、過失があっても即時取得できます。

担保価値維持義務

従前の実務では集合動産譲渡担保権設定者は担保価値を維持する必要がありました。

譲渡担保新法では、43条において、この担保価値維持義務を明文化しています。具体的には、集合動産譲渡担保権設定者は正当な理由がある場合を除き、動産特定範囲に属する動産の補充その他の方法によって、特定範囲所属動産の一体としての価値を集合動産譲渡担保権者を害しない範囲で減少しないように維持する義務を負います。

集合動産譲渡担保と物上代位

本法制では、譲渡担保権についても物上代位性が認められました(法9条)。

しかし、集合動産譲渡担保の場合には、集合動産譲渡担保権設定者が動産を処分できます。

もしこれらの売買代金に物上代位できるとすると、集合動産譲渡担保権設定者が処分をできる意味がありません。

そこで、集合動産譲渡担保権設定者が担保債務を履行できる間は集合動産譲渡担保権者は物上代位をできないと定められました(44条)。

ただし、以下の場合には物上代位をできます(同ただし書)。

  • 集合動産譲渡担保権設定者が集合動産譲渡担保権者を害することを知ってした場合
  • 権原範囲を越えて行った場合

集合動産譲渡担保権の対抗要件の特例

ここでは、集合動産譲渡担保権の対抗要件に関する特例について説明します。

将来、動産特定範囲に加入する動産と対抗要件

従前の判例では譲渡担保権の効力について、次のように判断していました。譲渡担保権は設定された後に構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たに構成部分となった動産を包含する集合物についても及ぶと判断しています。

譲渡担保新法はこの判例理論を明文化しました。集合譲渡担保契約がなされたときに、動産特定範囲に属する動産の全部の引渡しを受けたときは、当該動産特定範囲に将来において属する動産(特定範囲加入動産)についても第三者に動産譲渡担保権を対抗できると定めています(41条1項)。

牽連性のある金銭債務のみを担保とするための動産譲渡担保権の対抗力

譲渡担保新法は動産譲渡担保に関して「牽連性のある金銭債務のみを担保するための動産の譲渡の対抗力」について定めました(31条)。

この規定により、特定の動産を目的とする動産譲渡担保の特例として、当該譲渡担保の代金債務のみを担保する動産譲渡担保権(牽連性担保権)は引渡しがなくても第三者に対抗できるとされています(31条1項)。

例えば、AがBに対して動産を売却し、代金の支払いを後払いとした場合において、その代金債権を担保するために当該動産自体に譲渡担保権を設定するときは、被担保債権と牽連性のある担保権となります。

また、この動産にほかの動産譲渡担保権等が競合する場合について、牽連性担保権は当該譲渡担保契約に基づく当該動産の譲渡時に占有改定以外の方法によって対抗要件を具備したものとみなされます(31条2項)。

さらに、牽連性担保権は牽連性債務を担保する限度で、一定の範囲でほかの動産譲渡担保権に優先します(37条)。

集合譲渡担保権との関係では、牽連性担保権の目的物がほかの集合動産譲渡担保権の動産特定範囲に属したときに問題となります。

この場合、集合動産譲渡担保権の効力が及ぶかどうかは、牽連性担保権が占有改定以外の方法での引渡しがあったものとみなされるタイミングによって決まります。具体的には、当該譲渡担保権の設定時と、当該動産がほかの集合動産譲渡担保の動産特定範囲に属したときの先後によって決まります(37条2号)。

具体例としては以下のようになります。

牽連性担保権が優先する場合

機械メーカーAが小売店Bに対して、3月1日に工作機械を100万円で売却し、代金は後払いとしました。その後、3月5日にAは売買代金債権を担保するため、当該工作機械に譲渡担保権を設定しました(これが牽連性担保権となります)。

その後、4月1日にBは銀行Cから運転資金の融資を受ける際、「Bの倉庫内にある全ての機械類」を目的とする集合動産譲渡担保権を設定しました。そして4月10日に、Bは購入した工作機械を自己の倉庫に搬入しました。

この場合、Aの牽連性担保権の設定時(3月5日)が、当該工作機械が集合動産譲渡担保の特定範囲に属した時(4月10日)より先であるため、Aの牽連性担保権がCの集合動産譲渡担保権に優先することになります。

集合動産譲渡担保権が優先する場合

小売店Bは2月1日に銀行Cから融資を受け、その際「Bの倉庫内にある全ての機械類」を目的とする集合動産譲渡担保権を設定していました。その後、3月1日に機械メーカーAからBが工作機械を100万円で購入し、代金は後払いとしました。

Bは3月5日に購入した工作機械を自己の倉庫に搬入し、この時点で当該工作機械は集合動産譲渡担保の特定範囲に属することになりました。その後、3月10日にAがBに対する売買代金債権を担保するため、当該工作機械に譲渡担保権を設定しました。

この場合、工作機械が集合動産譲渡担保の特定範囲に属した時(3月5日)が、Aの牽連性担保権の設定時(3月10日)より先であるため、Cの集合動産譲渡担保権がAの牽連性担保権に優先することになります。

まとめ

令和7年6月6日に成立した譲渡担保新法によって、従来判例法理によって認められていた集合動産譲渡担保権が明文化されました。

新法のポイントは以下のとおりです

  • 集合動産譲渡担保契約の定義が明確化
  • 集合動産譲渡担保権設定者の処分権限が明文化
  • 担保価値維持義務の規定
  • 物上代位に関する制限
  • 将来加入動産への対抗要件の特例
  • 牽連性担保権との優劣関係の明確化

これにより、集合動産譲渡担保権の法的地位が安定し、実務上の予測可能性が高まることが期待されます。

事業者の方が担保設定を検討される際は、新法の内容を十分に理解したうえで、適切な契約書の作成と対抗要件の具備を行うことが重要です。
法的な判断が必要な場合は、弁護士にご相談することをお勧めします。

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