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弁護士法人ネクスパート法律事務所

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株主間デッドロックでも解散請求は認められない?東京高裁が示した厳格基準

株主間の激しい対立により会社の意思決定が困難となるデッドロック状況は、中小企業において深刻な問題となることがあります。このような場合、株主は会社法833条1項に基づく解散請求を検討することになりますが、どの程度まで認められるのでしょうか。

東京高等裁判所令和6年10月9日判決は、単純なデッドロック状況では解散請求が認められないとする厳格な判断基準を示し、実務に影響を与える判例となりました。

目次

事案の概要

ここでは、本件紛争の具体的な事実関係について説明します。
本件は、精神科専門医によるカウンセリング業務等を行う株式会社Y(資本金900万円、従業員9名、取引先105社)で発生した株主間紛争事案です。

当事者の関係性

別居中の夫婦である原告X(精神科医)と代表取締役A(Xの妻)が、それぞれ発行済株式の50%ずつを保有する典型的な二人会社でした。

紛争の経緯

両者の間では、会社を巡る問題のほか、以下のような激しい法的紛争が継続していました。

  • 夫婦関係調整調停
  • 会計帳簿閲覧請求訴訟
  • 競業避止義務違反に基づく損害賠償請求訴訟
  • 未払役員報酬請求訴訟
  • 株主総会決議取消請求訴訟

会社の状況

この対立により、平成19年の設立から令和2年3月まで株主総会が一度も開催されず、取締役の任期満了後も新たな選任ができない状態が続きました。 その結果、Aが代表取締役権利義務者、Xが取締役権利義務者の地位にあり、株主総会や取締役協議がデッドロック状態となり、計算書類の承認もできない状況が数年間継続しました。

争点

ここでは、本件で争われた主要な法律問題について説明します。

会社法833条1項1号の事由

業務執行において著しく困難な状況に至り、回復困難な損害が生じまたは生ずるおそれがあるか

会社法833条1項2号の事由

財産の管理・処分が著しく失当で、会社の存立を危うくするか

やむを得ない事由

解散判決以外に公正かつ相当な手段がないか

判旨(控訴棄却)

ここでは、東京高等裁判所が示した判断とその理由について説明します。

会社法833条1項1号について

裁判所は、解散請求の要件について以下の新たな判断基準を明示しました。

同条1項1号に該当するには、一方株主により他方の株主の意向が反映されない状態が継続していたりするというだけでは足りず、会社の運営上必要な意思決定を行うことができず、会社の業務が著しく停滞し、かつこれに起因して会社に回復困難な損害が生じ、または生ずるおそれがあると認められることを要する

東京高等裁判所令和6年10月9日判決

その上で、Yについてデッドロック状態にあるとしても、以下の理由で同号に該当しないと判断しました。

  • 業務執行権限の存在 Aは代表取締役権利義務者として、会社法348条3項各号等の非日常的業務執行を除き、単独で業務執行決定ができる
  • 業務の継続性 会社の業務が著しく停滞している事情は認められない
  • 損害発生のおそれなし Aによる業務執行が著しく困難な状況にあるとも認められない

会社法833条1項2号について

Xが主張する損害発生や不当処分の可能性は抽象的であり、具体的立証がないと判断しました。 かえって、税理士関与により作成された計算書類によれば、以下の事実が認められるとしました。

  • 令和元年から令和4年まで黒字を計上
  • 資産超過状態にある
  • 財産の管理・処分が会社の存立を危うくするものではない

解説

ここでは、本判決の実務上の意義と今後への影響について説明します。

従来の裁判例との相違点

本判決は、デッドロック状況における解散請求について、厳格な基準を示しました。

解散を認めた事例との比較

以下のような事例では解散請求が認められています。

  • ファンドの売却処分ができず、代表取締役による過大支出により運転資金不足が生じた事案
  • 営むべき事業がなく、預金を年約1,000万円ずつ減少させていた事案

これらの事例では、単なるデッドロックを超えて、具体的な業務停滞や財務悪化が認められている点が本件と異なります。

実務への影響

解散請求の要件厳格化

株式会社については債権者等の利害関係者保護の観点から会社継続性が重視されるため、今後デッドロック状況における解散請求はより困難になると予想されます。

代替手段の検討必要性

デッドロック状況の解決には、解散請求以外の方法を検討することがより重要となります。

  • 株式買取請求
  • 第三者への株式譲渡
  • 仲裁手続の活用
  • 円滑化法に基づく調停

立証の重要性 解散請求を行う場合は、単なる対立状況の主張では不十分であり、以下について詳細な立証が必要となります。

  • 具体的な業務停滞の事実
  • 損害発生の現実的可能性
  • 財務状況の悪化

本判決により、株主間紛争における解散請求の限界が明確となり、実務上はより慎重な検討と綿密な準備が求められることとなったといえます。

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