【受注者向け】下請代金が支払われない!泣き寝入りしないための法的手段

「納品したのに、親事業者が約束の期日までに代金を支払ってくれない…」
このような下請代金の未払いは、下請事業者にとって経営の根幹を揺るがしかねない深刻な問題です。
下請代金支払遅延等防止法(以下、下請法)では、親事業者が正当な理由なく下請代金の支払を遅らせることは明確に禁止されています。しかし、現実には様々な理由をつけて支払が遅延するケースが後を絶ちません。
もしあなたがそのような状況に置かれても、泣き寝入りする必要は一切ありません。この記事では、下請代金の未払いに直面した際に、自社の権利を守り、代金を回収するための具体的な法的手段を3つのステップで解説します。
下請法における代金支払の基本ルール
ここでは、まず前提となる下請法の基本ルールについて説明します。
下請法では、親事業者が下請事業者との間で、下請代金の支払に関して守るべき基本的なルールを定めています。
- 支払期日を定める義務: 親事業者は、下請事業者から納品物を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で、支払期日を定めなければなりません。
- 支払遅延の禁止: 定められた支払期日までに代金を支払わない「支払遅延」は、親事業者の禁止行為とされています。社内検査の遅れや、請求書が届いていないといった理由は、支払を遅らせる正当な理由にはなりません。
- 遅延利息の支払義務: 支払が遅れた場合、親事業者は納品物を受領した日から60日を経過した日から、実際に支払いが行われる日までの期間について、年率14.6%の遅延利息を下請事業者に支払う義務があります。
これらのルールは、たとえ当事者間で異なる合意があったとしても、下請法が優先して適用されます。まずは、ご自身の取引がこの基本ルールに違反していないかを確認しましょう。
ステップ1:証拠を固めて請求する「内容証明郵便」
相手方が話し合いに応じず、支払にも応じない場合、まずは内容証明郵便を利用して書面で請求することが有効です。
内容証明郵便とは、「いつ、どのような内容の文書を、誰から誰あてに差し出されたか」を郵便局が証明してくれるサービスです。これにより、請求した事実を客観的な証拠として残せます。
口頭や通常のメールでの請求と異なり、法的な手続きを意識させることで、相手方に心理的なプレッシャーを与え、支払を促す効果が期待できます。
内容証明郵便には、以下の内容を明確に記載しましょう。
- 請求する金額(未払代金及び遅延利息)
- 支払を求める期限
- 支払先の銀行口座
この段階で弁護士に依頼し、弁護士名義で内容証明郵便を送付すると、相手方が事態を重く受け止め、交渉がスムーズに進む可能性が高まります。
ステップ2:簡易・迅速に申立てる「支払督促」
内容証明を送っても相手が支払に応じない場合、次の手段として「支払督促」という裁判所の手続きを検討します。
支払督促は、申立人の申立てのみに基づいて、裁判所が相手方に金銭の支払を命じる制度です。通常の訴訟と異なり、書類審査のみで手続きが進み、審理のために裁判所へ出向く必要がないため、迅速かつ低コストで利用できます。
相手方が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議を申し立てなければ、裁判所は「仮執行宣言」を発令します。この仮執行宣言が付された支払督促があれば、相手の財産(預金や売掛金など)を差し押さえる強制執行を申し立てることが可能になります。
ただし、相手方が異議を申し立てた場合は、自動的に通常の訴訟手続きに移行します。
ステップ3:最終手段としての「訴訟」
支払督促に相手方が異議を申し立てた場合や、事案が複雑な場合は、最終的に「訴訟」を提起して解決を図ることになります。
訴訟では、裁判官が双方の主張や証拠を吟味し、法的な判断を下します。勝訴判決を得れば、相手が任意に支払わなくても、強制執行によって代金を回収できます。
訴訟を有利に進めるためには、客観的な証拠が極めて重要です。具体的には、以下のような資料を整理・保管しておくことが不可欠です。
- 発注書(3条書面)、契約書
- メールやビジネスチャットの履歴
- 納品書、受領書、請求書
- 打ち合わせの議事録
- 不当な要求があった際の会話の録音データ
なお、請求額が60万円以下の場合は、「少額訴訟」という原則1回の審理で判決が下される、より簡易な訴訟手続きを利用することもできます。
下請代金の未払い問題は弁護士への相談が有効
内容証明の作成から訴訟まで、一連の法的手続きをご自身で進めることも不可能ではありません。しかし、専門的な知識が必要となる場面も多く、時間や労力もかかります。
下請法のトラブルに詳しい弁護士に相談すれば、個別の状況に応じた最適な解決策を提案してもらえます。
弁護士に依頼する主なメリットは次のとおりです。
- 代理人としての交渉: あなたに代わって、法的な根拠に基づき相手方と交渉します。専門家が介入することで、精神的な負担が大幅に軽減されます。
- 損害回復の実現: 未払代金だけでなく、年率14.6%の遅延利息を含めた正当な権利の回復を目指します。
- 適切な法的手続きの実行: 状況に応じて、内容証明、支払督促、ADR(裁判外紛争解決手続)、訴訟といった法的手続きを迅速かつ適切に進めることができます。
- 将来の紛争予防: 今回のトラブル解決だけでなく、今後の契約書の見直しなど、将来の紛争を予防するための法的アドバイスも受けられます。
親事業者との力関係を考えると、泣き寝入りを選択してしまう下請事業者は少なくありません。しかし、法に基づき、毅然と立ち向かうことで、自社の正当な権利を守ることは可能です。
まとめ
親事業者からの下請代金の未払いは、下請法で禁止されている明確な違反行為です。
支払遅延が発生した場合は、まず発注書やメールなどの証拠を確保し、内容証明郵便で支払を請求することが第一歩です。それでも解決しない場合は、支払督促や訴訟といった法的手続きで権利の実現を目指せます。