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弁護士法人ネクスパート法律事務所

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【受注者向け】口頭での発注でも下請法は適用される?発注書面がない場合の注意点と対処法

「電話一本で仕事の依頼を受けたが、後から『そんな条件は言っていない』と支払いを渋られた」

「いつも口頭でのやり取りで、発注書面をもらったことがない」

このような、発注書面がない取引に不安を感じている事業者様は多いのではないでしょうか。特に、親事業者との力関係から、書面の交付を強く求められないケースもあるかもしれません。

結論から言うと、たとえ口頭での発注であっても、取引の実態が下請法の適用対象であれば、下請法は全面的に適用されます。

しかし、発注書面がないと、後々「言った、言わない」のトラブルに発展し、下請事業者が不利益を被るリスクが非常に高くなります。

この記事では、下請法における発注書面の重要性と、万が一書面がない場合に下請事業者がご自身の権利を守るための具体的な対処法について詳しく解説します。

目次

口頭での発注でも下請法は適用される

まず、最も重要な点として、下請法が適用されるかどうかは、契約の形式(書面か口頭か)で決まるわけではありません。

下請法の適用は、以下の2つの要素によって決まります。

  1. 取引当事者の資本金区分
  2. 委託した取引の内容(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託)

これらの条件を満たす取引は「下請取引」となり、たとえ口頭での発注であっても、親事業者は下請法に定められた義務をすべて負い、禁止行為もすべて適用されます。契約書や発注書がないからといって、下請法が適用されないということにはなりません。

下請法の基本:親事業者の「書面交付義務」とは?

下請法は、親事業者に対し、下請事業者に業務を委託した際は、直ちに、発注内容に関する具体的な事項を記載した書面(「3条書面」と呼ばれます)を交付することを義務付けています。

これは、口頭での発注によって契約内容が不明確になることを防ぎ、「言った、言わない」といったトラブルから下請事業者を保護することを目的としています。

発注書面には、原則として以下の12項目をすべて記載する必要があります。

  • 親事業者及び下請事業者の名称
  • 委託した日
  • 下請事業者の給付の内容(委託業務の具体的な内容)
  • 給付を受領する期日(納期)
  • 給付を受領する場所
  • 検査を完了する期日(検査を行う場合)
  • 下請代金の額(具体的な金額が定められない場合は、算定方法を記載)
  • 下請代金の支払期日
  • 手形を交付する場合の金額及び満期日
  • 一括決済方式で支払う場合の詳細
  • 電子記録債権で支払う場合の詳細
  • 原材料などを有償で支給する場合の品名、数量、対価など

親事業者には、これらの内容を明確にした書面を発注後「直ちに」交付する義務があるのです。

発注書面がない場合に起こりうる典型的なトラブル

発注書面がない、あるいは記載内容が不十分な場合、以下のようなトラブルが発生しやすくなります。

  • 代金額や支払期日をめぐる紛争:「報酬は〇〇円と言ったはずだ」「支払いは月末だと聞いていた」など、取引の根幹に関わる部分で認識の齟齬が生じます。
  • 一方的な仕様変更ややり直し:明確な仕様が書面で残っていないため、親事業者の都合で「やっぱりこうしてほしい」と無償での仕様変更ややり直しを要求されやすくなります。
  • 不当な減額や支払遅延の口実:親事業者が「合意した品質に達していない」「納期に遅れた」など、客観的な根拠なく主張し、代金の減額や支払遅延を正当化しようとします。
  • 成果物の受領拒否:発注内容が曖昧なことを逆手に取り、「頼んだものと違う」などと理由をつけ、成果物の受領を拒否される可能性があります。

書面がないことは、親事業者が不当な要求をするための口実を与えてしまうことにつながるのです。

発注書面がない!泣き寝入りしないための対処法

たとえ発注書面がなくても、泣き寝入りする必要はありません。以下のステップで冷静に対処しましょう。

ステップ1:取引の証拠を集める

発注書面がない場合、取引の存在と内容を証明できる客観的な証拠が何よりも重要になります。以下の資料は必ず整理・保管しておきましょう。

  • 電子データ:メールやビジネスチャットの履歴。発注内容、金額、納期に関するやり取りはすべて保存します。
  • 書面:見積書、納品書、請求書の控え、FAXなど。
  • 音声データ:電話での重要な会話や打ち合わせの録音。相手に同意なく録音したデータも、状況によっては有効な証拠となり得ます。
  • 議事録:打ち合わせの日時、出席者、発言内容、決定事項を記録したもの。

ステップ2:親事業者へ書面の交付を請求する

証拠をある程度集めた上で、親事業者に対して改めて書面の交付を求めましょう。その際、「今後の認識の齟齬を避けるため」「社内処理のために必要」といった理由を伝え、丁寧かつ毅然と要求することがポイントです。

ステップ3:公的機関や弁護士に相談する

親事業者が書面の交付に応じない、または不当な要求を続ける場合は、専門家や専門機関に相談することを検討しましょう。

  • 公正取引委員会・中小企業庁:下請法を所管する行政機関です。違反行為の申告を受け付けており、調査の上、親事業者への指導や勧告が行われることがあります。
  • 下請かけこみ寺:中小企業庁が運営する相談窓口で、無料で専門家のアドバイスを受けたり、裁判外紛争解決手続(ADR)を利用したりできます。
  • 弁護士:あなたの代理人として、法的な観点から親事業者と交渉したり、内容証明郵便を送付したりすることができます。最終的に訴訟などの法的措置を取る場合にも、頼りになる存在です。

親事業者が書面交付義務に違反した場合のペナルティ

親事業者が正当な理由なく発注書面を交付しない行為は、明確な下請法違反です。

この書面交付義務に違反した場合、親事業者(法人)および違反行為者である個人(代表者や担当者など)は、50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

この罰則の存在は、書面交付を求める際の交渉材料にもなり得ます。

まとめ:発注書面はあなたの権利を守る盾になる

口頭での発注であっても下請法は適用されますが、発注書面は、あなたとあなたのビジネスを不当なトラブルから守るための最も重要な「盾」です。

親事業者には発注書面を「直ちに」交付する義務があることを正しく理解し、もし交付されない場合は、まずはその交付を求めましょう。

それでも交付されない、あるいは既にトラブルが発生している場合は、安易に妥協せず、メールや録音などの証拠をしっかりと確保してください。

そして、一人で抱え込まずに、公正取引委員会や下請かけこみ寺、そして弁護士のような専門家にご相談ください。適切な対処を行うことで、あなたの正当な権利を守り、公正な取引関係を築くことが可能です。

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