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弁護士法人ネクスパート法律事務所

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広告主のためのアフィリエイト広告リスク管理③~「暴走アフィリエイター」への法的対処と契約解除の実務~

これまで、アフィリエイト広告の法的責任は原則として広告主にあること、そしてその責任を果たすために景品表示法が求める具体的な管理体制について解説してきました。

しかし、どれだけ精緻な管理体制を構築し、事前にルールを周知しても、残念ながら一部のアフィリエイターが意図的に法令や規約を無視し、過激な広告表示に走る「暴走」のリスクはゼロにはできません。

そこで今回は、こうした万が一の事態に直面した際、広告主はどのように毅然と対処すべきか、指導から是正、そして最終手段である「契約解除」に至るまでの具体的なアクションと、その際に乗り越えるべき法的な注意点について、実務的な観点から解説します。

目次

アフィリエイターの「暴走」と向き合う

なぜ「暴走」は起きるのか

アフィリエイターが法令や規約を逸脱する背景には、成果報酬を求める過度なインセンティブ、景品表示法や薬機法に対する知識不足、そして「絶対儲かる」といった謳い文句で違法な手法を推奨する悪質な業者の存在など、複合的な要因があります。

「見て見ぬふり」が招く最悪の結末

問題のある表示を発見しながら、「売上が上がっているから」「指摘するのが面倒だから」といった理由で放置することは、広告主にとって最も危険な選択です。一つの不当表示が、以下のような深刻な事態を引き起こす可能性があります。

消費者被害の拡大と行政処分

虚偽・誇大広告により消費者トラブルが多発し、景品表示法に基づく措置命令や課徴金納付命令を受けるリスク

ブランド価値の毀損

企業のコンプライアンス意識が問われ、長年かけて築き上げたブランドイメージが数日で地に堕ちる

SNSでの「炎上」

不当表示がSNSで拡散され、企業への非難が殺到し、収拾困難な事態に発展する

厳しい姿勢を

こうしたリスクを回避するため、広告主は問題のある表示に対して厳しい姿勢で臨むことが不可欠です。違反行為を発見次第、迅速かつ毅然と対応する。この基本姿勢こそが、自社を守り、誠実なアフィリエイターとの関係を維持する上で最も重要な鍵となります。

段階的対応の実践:指導から是正、そして関係遮断へ

実際にアフィリエイターの違反行為が疑われる場合、感情的に契約解除を迫るのではなく、冷静かつ段階的に手続きを進めることが重要です。

ステップ1:違反行為の発見と客観的証拠の保全

まず、違反行為を正確に把握することから始まります。

違反の発見

発見のきっかけは、第2回で解説した定期的なパトロールや消費者からの苦情、相談窓口への通報など多岐にわたります。

証拠の保全

アフィリエイトサイトの表示は簡単に変更・削除されてしまうため、問題となる表示を発見したら、直ちにそのページのスクリーンショットを撮影し、URLや日時と共に保存します。この客観的な証拠が、後のすべての対応の基礎となります。

ステップ2:是正指導と交渉記録の作成

次に、違反の事実を伝え、是正を求めます。

具体的な是正指導

ASPを介して(または直接契約の場合は直接)、該当アフィリエイターに対し、どの表示が、どの規約(または法律)に違反しているのかを具体的に指摘し、期限を設けて是正を要請します。

【最重要】やり取りの記録

この是正指導に関するメールやチャットでのやり取り、電話での通話メモなど、すべての交渉経緯を時系列で記録・保存してください。この記録は、万が一、アフィリエイターが指導に応じず、最終的に契約解除に至った場合、その判断が正当であったことを示す極めて重要な証拠となります。

ステップ3:是正されない場合のペナルティ

設定した期限までに是正が確認できない、あるいは連絡が取れないといった不誠実な対応が見られる場合には、契約に基づきペナルティを課します。

成果報酬の支払停止・否認

規約違反を理由に、それまでの成果報酬の支払いを停止したり、「契約解除」の警告をします。このような措置を講じるためにも、契約書に違反時のペナルティを明確に定めておくことが不可欠です。

最終手段としての「契約解除」-法的注意点と実務

度重なる指導にもかかわらず是正の見込みがない場合、広告主はブランドと事業を守るため、アフィリエイターとの関係を断つ、すなわち「契約解除」という最終手段を選択せざるを得ません。しかし、この契約解除は、慎重に進めなければ広告主自身が法的なリスクを負う可能性があります。

契約解除の大前提:「解除事由」の事前明記

まず大前提として、広告主が一方的に契約を解除するためには、その根拠となる条項があらかじめ契約書や利用規約に明記されている必要があります。契約書に定めがない場合、アフィリエイターの違反を理由に必ずしも契約を解除できるとは限りません。

したがって、アフィリエイターと提携する際には、契約書に以下のような解除事由を具体的に盛り込んでおくことが極めて重要です。

  • 法令(景品表示法、薬機法、著作権法等)に違反した場合
  • 広告主またはASPが定めた利用規約やガイドラインの禁止事項に抵触した場合
  • 是正勧告に従わない場合
  • 広告主またはその商品・サービスの社会的信用を著しく損なう行為をした場合

契約解除の「壁」となりうる法律①:下請法

アフィリエイターとの契約を解除する際に、注意すべき法律の一つが「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」です。

どのような場合に適用されるか?

広告主(やASP)とアフィリエイターの関係は、その資本金規模や取引内容によって、下請法上の「親事業者」と「下請事業者」の関係と見なされる可能性があります。特にアフィリエイターの多くが個人事業主である実態を考えると、広告主側(親事業者)の資本金要件さえ満たせば、下請法が適用されるケースは少なくありません。

何が問題になるか?

下請法が適用されると、親事業者は、下請事業者の責めに帰すべき事由(=アフィリエイターの明確な契約違反)がないにもかかわらず、一方的に報酬の支払を拒否したり、不当に減額したりすることが禁止されます。つまり、契約解除や報酬不払いを断行するには、「アフィリエイターに明確な落ち度があった」という客観的な事実と証拠が、より一層重要になるのです。

契約解除の「壁」となりうる法律②:独占禁止法(優越的地位の濫用)

もう一つの注意点が「独占禁止法」です。一般的に、広告案件を発注する広告主は、それを受託する個々のアフィリエイターに対して取引上優越した立場にあると見なされやすいです。

何が問題になるか?

優越的な地位を利用して、正当な理由なく一方的に取引を拒絶する(契約を解除する)ことは、「優越的地位の濫用」として独占禁止法違反に問われるおそれがあります。

どうすればリスクを回避できるか?

このリスクを回避するために不可欠なのが、契約解除の「合理的な理由」です。そして、その合理性を証明するのが、ステップ2で解説した交渉記録に他なりません。「これだけ具体的に違反を指摘し、是正の機会を与えたにもかかわらず、一切改善されなかった。故に、やむを得ず契約を解除する。」という客観的な経緯を示すことが、自社の正当性を担保する上で決定的に重要になります。

契約解除の実行プロセス

上記の法的リスクを理解した上で、最終的に契約解除を実行する際は、以下のプロセスを踏むことが望ましいです。なお、必要なプロセスについては、契約や規約の定めにより異なりますので、該当する条項を確認してください。

  1. 最終通告

可能であれば、弁護士等の専門家にも相談の上、「本書面到達後〇日以内に是正がなされない場合、契約書第〇条に基づき契約を解除します」といった最終通告を行います。

  1. 解除通知の送付

最終通告後も改善が見られない場合、内容証明郵便など、送付の事実と内容が記録として残る方法で、契約書のどの条項に基づき、どのような理由で契約を解除するのかを明記した解除通知書を送付します。

  1. 事後措置の実行

報酬の不払いなど、契約書に定めた解除後の措置を実行します。

結論:リスク管理を「企業文化」へ

アフィリエイト広告は、今や主流の広告手法となりました。しかし、その手軽さの裏には、広告主が負うべき重い法的責任と、運用を「丸投げ」することの大きなリスクが潜んでいます。

本シリーズで解説してきたように、リスク管理はもはや一部門の課題ではなく、企業のブランド価値と消費者の信頼を守るための全社的な「企業文化」として根付かせるべきものです。

アフィリエイターを健全なパートナーとして主体的に関与し、導いていく姿勢こそが、アフィリエイト広告の真の価値を引き出し、企業の持続的な成長へと繋がるのです。

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