広告主のためのアフィリエイト広告リスク管理②~景表法が求める「表示管理体制」の具体的な作り方

前回は、アフィリエイト広告で不当な表示が行われた場合、その法的責任は原則として「広告主」にあることを解説しました。アフィリエイターによる表示であっても、広告主は「表示内容の決定を委ねた事業者」として、景品表示法(景表法)上の責任を免れることはできません。
では、その重い責任を果たすために、広告主は具体的に何をすべきなのでしょうか。
今回は、景表法が事業者に義務付けている「管理上の措置」に焦点を当て、アフィリエイト広告の特性を踏まえた具体的な管理体制の構築方法を、消費者庁の報告書で示された提言に沿って、解説していきます。
なぜ「管理体制」の構築が義務なのか?
景品表示法第26条が定める「管理上の措置」義務
景表法は、不当表示を禁止するだけでなく、事業者が不当表示を未然に防ぐための体制を整備すること自体を、法律上の義務として定めています。これが景品表示法第26条に規定される「管理上の措置」です。
この義務は、意図的な不当表示はもちろん、法的な理解不足などから意図せず不当表示を行ってしまう事態を未然に防ぐことを目的としています。アフィリエイト広告を利用する広告主も当然この対象であり、現時点においても、不当表示等を防ぐために必要な措置を講じている必要があります。
行動の拠り所となる「指針」の存在
事業者が具体的にどのような措置を講じるべきかについては、国が「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(以下、「管理措置指針」)を定めています。事業者はこの指針を参考に、自社の事業規模や業態、取り扱う商品・サービスのリスクに応じて、必要な管理体制を構築しなければなりません。
この管理措置指針に沿った措置を適切に講じていれば、万が一不当表示を行ってしまった場合でも、課徴金が減免される可能性があるなど、事業者にとって重要な意味を持ちます(不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方)。
広告主が講ずべき「管理上の措置」の内容
アフィリエイト広告は、表示の作成を外部のアフィリエイターに委託するという特性上、広告主による管理が行き届きにくいという実態があります。
そこで、以下では、広告主がアフィリエイト広告に関して構築すべき具体的な管理体制を解説します。
表示に関する情報の「確認」
アフィリエイト広告の表示内容が不当なものにならないよう、広告主が表示を適切に確認する体制は、管理の根幹をなします。
契約によるルールの明確化
まず、アフィリエイターとの契約において、不当表示を行わない旨を明確に規定することが基本です。薬機法や景表法に抵触する表現、虚偽・誇大な表現の禁止などを具体的に定め、違反した場合のペナルティ(提携解除等)も明記します。
出稿前後の定期的なパトロール
広告主は、アフィリエイト広告の出稿前や出稿後も、定期的に表示内容を確認(パトロール)するべきです。ヒアリング調査では、月数回のパトロールを実施している広告主や、専門業者に委託して定期審査を行っている広告主の例が報告されています。
リスクに応じた重点的な確認
提携するアフィリエイトサイトが膨大で全ての確認が困難な場合でも、「何も確認しない」ことは許されません。その場合は、成果報酬の支払額や頻度が高いなど、特に販売実績が良好なアフィリエイターの広告に絞って重点的に確認するなど、リスクに応じた管理を行うことが現実的かつ重要です。
表示の根拠となる情報の「保管」
アフィリエイト広告は、内容が容易に、かつ頻繁に変更・削除される特性があります。そのため、後から「言った・言わない」のトラブルや、どの時点の表示が問題だったのかを検証するためにも、表示内容やその根拠となる情報を保管することが極めて重要です。
誰が、何を保管するか
広告主自ら、または契約によってアフィリエイター等に、表示内容のデータを保管させることが考えられます。重要なのは、誰が保管しているかではなく、問題発生時に広告主が必要な情報を事後的に確認できる体制が整っていることです。
保管しなかった場合の取決めの明確化
実効性を担保するため、いつまで保管するのか、保管義務を怠った場合に誰がどのような責任を負うのかを、あらかじめ契約で定めておくことが重要です。
「担当者」の設置と権限の明確化
表示管理を実効性のあるものにするには、責任の所在を明確にする必要があります。
表示管理担当者の設置
事業者は、表示等に関する事項を適正に管理するため、担当者または担当部門をあらかじめ定めることが重要です。
権限の明確化と周知
定められた担当者が、アフィリエイト広告を自社の広告として監視・監督する権限を有していることを明確にし、その存在を社内だけでなく、必要に応じてASPやアフィリエイターに対しても周知することが望ましいとされています。
担当者やアフィリエイターへの「研修」
担当者が適切な判断を下すためには、景品表示法をはじめとする関連法令に関する正しい知識が不可欠です。
定期的な研修の実施
表示管理担当者やアフィリエイト広告に従事する社員が、専門家による研修などを定期的に受ける必要があります。
アフィリエイターへの啓発
広告主の社内だけでなく、ASPや業界団体が実施する研修なども活用し、アフィリエイター自身にも法令遵守の意識を高めてもらう取り組みが求められます。実態調査では、金融業界などではアフィリエイターへの研修が進んでいる一方、それ以外の業種では差があることも指摘されています。
問題発生時の「迅速かつ適切な対応」体制
どれだけ未然防止に努めても、問題が起きてしまう可能性はゼロではありません。その際に、被害の拡大を防ぎ、消費者の信頼を損なわないための対応体制をあらかじめ構築しておくことが重要です。
消費者からの連絡窓口の設置
消費者が広告表示に関する苦情や問い合わせを確実に行える連絡窓口を設置し、機能させることが必要です。そもそも連絡先がつながらない悪質な事例も指摘されており、連絡が取れる体制の確保は基本的な責務です。
迅速な表示の是正・削除
消費者からの通報などで不当表示が発覚した場合、広告主は自ら、またはASP等を通じて、その表示を迅速に削除・修正できる体制を構築しなければなりません。
違反アフィリエイターへの厳格な対応
広告主のレギュレーションに違反したアフィリエイターに対しては、事前に契約で定めた通り、報酬の支払いを停止したり、提携を解除したりといった厳格な措置を迅速かつ確実に行うことが求められます。
アフィリエイト広告における「広告」であることの明示
消費者は、ある情報が「広告」であると認識しているかどうかで、その情報の受け取り方が大きく変わります。
なぜ明示が必要か
消費者庁のアンケートでは、約87%の消費者が「広告であることが分かるようにしてある方がいい」と回答しています。企業から報酬を得て書かれたものであると分かると、消費者の約66%がその情報を「あまり参考にならない」または「ほとんど参考にならない」と回答しており、広告であるか否かは消費者の判断に大きな影響を与えることが分かります。広告であることを隠す行為(ステルスマーケティング)は、消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあります。
広告主が講ずべき措置
このため広告主は、アフィリエイト広告において、消費者がそれが広告主による広告であると明確に認識できるよう、措置を講じるべきとされています。具体的には、「広告」といった分かりやすい文言を、消費者が認識しやすい表現、文字の大きさ、色、掲載場所で表示することが求められます。
アフィリエイターへの義務付けと管理
さらに広告主は、アフィリエイターがこの広告表示を削除したりしないよう、表示義務を契約で規定するとともに、その履行状況を確認・確保するなど、自らの広告の適正化を図る必要があります。
結論:「管理」は義務であり、未来への投資である
第1回で解説した通り、アフィリエイト広告の表示責任は広告主にあります。そして今回見てきたように、その責任を果たすための表示管理体制の構築は、単なる努力目標ではなく、景品表示法によって定められた法律上の「義務」です。
本記事で紹介したアクションプランは、自社を予期せぬ法的リスクから守るための「防衛策」に他なりません。しかしそれは同時に、消費者の信頼を獲得し、自社のブランド価値を高め、アフィリエイト広告市場全体の健全な発展に貢献するという、未来に向けた「投資」でもあります。
第3回では、悪質なアフィリエイターに対し、広告主としてどのような対応を取るべきかについて解説します。