広告主のためのアフィリエイト広告リスク管理①~知らないで済まされない「法的責任」の基本~

インターネット広告市場の拡大に伴い、アフィリエイト広告は多くの企業にとって販売促進に欠かせない強力なツールとなりました。消費者の目線に立った多様な表現や、創意工夫に富んだ紹介は大きな魅力ですが、その一方で、成果報酬を求めるあまり生まれる過剰な表現や虚偽・誇大広告は、広告主にとって大きな法的リスクをはらんでいます。
アフィリエイターによる広告表示であっても、その責任は原則として広告主が負うことになります。本記事では、最新の法規制や消費者庁の指針に基づき、アフィリエイト広告の仕組みと構造的な課題、関係者が負うべき法的責任、そして広告主が自らを守るために構築すべき具体的な管理体制について、網羅的に解説します。
アフィリエイト広告の仕組みと管理の難しさ
アフィリエイト広告の基本構造
アフィリエイト広告とは、商品やサービスを提供する「広告主」が、個人のブロガーや法人が運営するウェブサイト(アフィリエイター)に自社商品の広告掲載を依頼し、その広告経由で商品の購入や申込みなどの「成果」が発生した場合に、アフィリエイターへ報酬を支払う成果報酬型の広告手法です。
この取引は、広告主とアフィリエイターを仲介する「ASP(アフィリエイトサービスプロバイダー)」を介して行われるのが一般的です。ASPは、広告案件の紹介、成果の計測、報酬の支払い代行など、プラットフォームとしての役割を担います。
成果報酬が生むインセンティブとリスク
アフィリエイト広告の長所は、アフィリエイターの自由な発想や消費者目線でのリアルな紹介により、消費者の共感を呼びやすい点にあります。しかし、その「成果報酬型」という仕組みは、商品を売るためにより多くの成果を上げようとするインセンティブをアフィリエイターに与え、結果として表現がエスカレートしやすいというリスクを内包しています。
表示上の問題のあるアフィリエイト広告
消費者が日常的に目にするアフィリエイト広告の中には、残念ながら、過激な言葉で効果をうたうものが少なくありません。
例えば健康・美容分野では、病気の治療や予防、体の機能を向上させるような表現は法律で厳しく制限されています。しかし実際には、「糖尿病、高血圧が気になる方に」「免疫機能の向上」「老化防止」「脂肪燃焼を促進!」といった、医薬品や医療機器と誤解されかねない広告が数多く出回っているのが現状です。
こうした表示は、消費者に製品の効果について誤った期待を抱かせるだけでなく、真面目にルールを守っている企業との間に不公平を生み出すことにもなります。その結果、業界全体のコンプライアンス意識を低下させてしまうことにも繋がりかねません。
管理が困難な構造的課題
広告主がアフィリエイターの表示内容を管理しようとしても、そこには構造的な難しさが存在します。
直接的な契約関係の欠如
広告主は多くの場合、ASPを介してアフィリエイターと繋がっており、直接の契約関係がありません。そのため、広告主の指示がアフィリエイターに直接的かつ迅速に伝わらない、あるいは実質的に指示ができないケースも少なくありません。
抽象的な禁止事項
広告主やASPがアフィリエイター向けに設けるガイドラインや禁止事項は、「法令に違反しないこと」といった抽象的な文言にとどまることが多く、具体的な行動規範として機能していない場合があります。
管理体制の欠如
アフィリエイト広告市場においては、法令違反をしていないかについて、誰がアフィリエイト広告の表示内容の管理を主体的に行うかを契約上明確にされていない場合もあり、広告主、広告代理店、ASP、アフィリエイター、媒体社等の業態間、あるいは同一業態の中でも事業者の規模等で認識の違いがあります。
監督の限界
アフィリエイト広告は、広告主が行うキャンペーン数や提携するアフィリエイターの数が多い場合には膨大な数となります。また、アフィリエイト広告は、容易に変更ができることから、アフィリエイターによっては1日のうち複数回アフィリエイト広告を更新する者もいます。その全ての広告を都度審査し、個別に監督することは事実上不可能です。そのため、問題が指摘されてから対応する「事後対応」にならざるを得ないのが実情です。
このような構造が、不当表示のリスクを高める一因となっています。
誰がどの法律で責任を負うのか?―法的責任の整理―
アフィリエイト広告で不当表示が行われた場合、広告主、ASP、アフィリエイターのそれぞれがどのような法的責任を負うのでしょうか。適用される法律ごとに整理します。
景品表示法(景表法)の適用関係
広告主の責任
結論から言えば、景表法上、アフィリエイト広告の表示責任は、原則として広告主が負います。景表法が規制するのは、「自己の供給する商品又は役務の取引」について不当な「表示をした」事業者です。広告主は、まさに商品・役務を「供給する」主体です。
そして、アフィリエイターが作成した表示であっても、広告主が「表示をした」と見なされます。なぜなら、景表法上の「表示をした」事業者には、「他の事業者にその決定を委ねた事業者」が含まれるからです。広告主は、自社で広告内容を決定することもできたにもかかわらず、アフィリエイトプログラムを利用して広告表示の作成をアフィリエイターに委ねているため、この類型に該当し、表示内容の最終的な責任を負うことになります。
ASP・アフィリエイターの責任
一方、ASPやアフィリエイターは、通常、広告対象の商品・役務を自ら「供給」していないため、原則として景表法の表示規制の適用対象にはなりません。
ただし、例外もあります。個別の取引実態において、ASPやアフィリエイターが商品の企画立案から販売活動まで深く関与し、広告主と共同で商品を供給していると認められる場合には、「供給」主体として景表法の執行対象となる可能性があります。
薬機法・健康増進法の適用関係
景表法とは異なり、薬機法や健康増進法の広告規制には注意が必要です。
これらの法律は、広告規制の対象を「何人(なんぴと)」としています。これは、商品・役務の供給者であるか否かを問わず、広告に関与した者すべてが規制対象になりうることを意味します。
したがって、医薬品・化粧品・健康食品などのアフィリエイト広告において虚偽・誇大な表示が行われた場合、広告主はもちろんのこと、表示内容の決定に関与したASPやアフィリエイターも、薬機法違反や健康増進法違反で直接処罰される可能性があります。実際に2020年には、未承認医薬品の広告に関わったとして、広告主だけでなく広告代理店の役職員が薬機法違反の疑いで逮捕される事案も発生しています。
結論:責任の自覚こそがリスク管理の第一歩
アフィリエイト広告は、正しく運用すれば極めて有効なマーケティング手法です。しかし、たとえアフィリエイターによる表示であっても、最終的な責任は広告主にあります。この法的責任を自覚しないまま、アフィリエイターに運用を「丸投げ」することは、自社のブランドを危険にさらし、大きな経営リスクを招く行為に他なりません。
第2回では、この責任を果たすために広告主が果たすべき表示管理体制について解説します。