【弁護士解説】プロバイダ責任法から情報流通プラットフォーム対処法へ – オンライン上の責任はどう変わるのか

インターネット上の情報流通を巡る法規制が大きく変わりました。これまで長らくオンライン上の権利侵害に対処するための基本的な枠組みを提供してきた「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」、いわゆるプロバイダ責任法(プロ責法)が改正され、新たに情報流通プラットフォーム対処法(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)として、2025年4月1日より多くの主要規定が施行されています。
今回は、この法改正が持つ意味と、プロ責法から情プラ法へ移行することで何が変わるのかについて、その概要を解説いたします。
黎明期のルール「プロバイダ責任法(プロ責法)」とは
インターネットが世の中に普及し始めた2002年に施行されたプロバイダ責任法は、インターネット上の情報流通に関わる事業者(プロバイダ)の責任のあり方を定める画期的な法律でした。
当時、匿名で情報が発信される掲示板などが登場し、誹謗中傷や著作権侵害といった権利侵害情報が流通することが問題視されていました。しかし、そのような情報が流通した場合に、単に「場」を提供しているに過ぎないプロバイダがどこまで責任を負うのか、その線引きが不明確でした。
プロ責法は、一定の要件を満たした場合にプロバイダの損害賠償責任を制限することで、インターネット上の自由な情報流通を促進しつつ、他方で、権利侵害を受けた被害者が、プロバイダに対して侵害情報の削除を求める手続や、情報を発信した人物(発信者)の情報を開示請求できる手続を定め、被害者救済への道を開いたといえます。
現代インターネットへの対応「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」へ
プロ責法は、インターネットの基盤を支える上で重要な役割を果たしましたが、制定から20年以上が経過し、その間にインターネットを取り巻く状況は大きく変化しました。SNSや動画共有サイトなど、個人が容易に情報を発信・共有し、それが瞬時に広がる巨大なオンラインプラットフォームが登場し、その影響力は社会に絶大なものとなりました。
一方で、これらのプラットフォームを悪用した権利侵害、差別的な情報の拡散、偽情報の流布などが深刻な社会問題となっています。従来のプロ責法だけでは、こうしたプラットフォームにおける問題への対処として十分ではないという課題が顕在化しました。
このような背景から、現代のインターネット環境、特に巨大なプラットフォームの役割と影響力に対応するため、プロバイダ責任法は改正され、「情報流通プラットフォーム対処法」として生まれ変わったのです。これは、単なる一部修正ではなく、法律の名称変更からも分かるように、プラットフォームにおける情報流通への対処に重点を移した、より現代的な枠組みと言えます。
情プラ法の主な変更点 – プラットフォーム事業者の責任強化
情プラ法への改正による主な変更点は以下の通りです。
対象範囲の明確化と拡大
旧プロ責法は「プロバイダ」という広い概念を対象としていましたが、情プラ法では、特に不特定の者との間で情報の送受信を媒介する「情報流通プラットフォーム提供者」に焦点が当てられ、その役割と責任がより明確に位置づけられました。これにより、巨大なオンラインプラットフォーム事業者が、この法律の主要な対象となることがより明確になりました。
- プロバイダの例:ドコモ光、NURO光、@nifty など
- プラットフォーム事業者の例:Google、Facebook、楽天市場、ネットフリックス など
プラットフォーム事業者の対処義務の追加・強化
これが情プラ法の最も重要な変更点の一つです。情プラ法では、大規模なプラットフォーム提供者に対し、権利侵害情報などの流通によって生じる被害を防止・軽減するための体制整備や、迅速かつ適切な対処を行う努力義務が課されました。具体的には、削除請求が来た場合の判断基準の明確化や、削除手続の迅速化に向けた措置などが含まれる可能性があります。これにより、プラットフォーム事業者は、単に情報流通の場を提供するだけでなく、その場で流通する情報に対する一定の「対処」について、これまで以上の責任を求められることになります。
法の目的の拡充
プロ責法が、責任制限と発信者情報開示による被害者救済を主な目的としていたのに対し、情プラ法は、これらの目的に加え、プラットフォームにおける情報流通による権利侵害等を未然に防止し、拡大を抑止することにも法の目的を広げています。
今後の展望と企業・個人の対応
情報流通プラットフォーム対処法の施行は、オンライン上の情報流通に関わるすべての関係者に影響を与えます。
特に、情報流通プラットフォームを提供する事業者は、法が求める体制整備や対処義務に対応するため、利用規約の見直し、通報・削除体制の強化、担当部署の設置など、組織的な対応が急務となります。これらを怠った場合、法的責任を問われるリスクが高まります。
一方、インターネット利用者やコンテンツホルダーにとっては、権利侵害情報に対する削除請求や発信者情報開示請求の手続が、より迅速かつ実効的に進むことが期待されます。これにより、オンライン上での被害からの救済がより円滑になる可能性があります。
情報流通プラットフォーム対処法は、現代のデジタル社会におけるオンラインプラットフォームの責任と役割を再定義する重要な法改正です。この新しいルールのもと、健全で安全な情報流通環境が構築されることが期待されます。
今回は法令の概要を解説しました。より詳しい法的義務や開示請求の方法については次回以降の記事で解説いたします。