【弁護士解説】医療法人のM&Aについて ①

医療法人M&Aの基礎とスキームの選択
医療法人のM&Aは、事業承継、新規市場参入、経営効率化を目的とした重要な戦略であり、その実施には高度な専門知識と慎重な計画が求められます。医療法人には特有の法規制が存在し、許認可に関する手続や法的要件を十分に理解し、適切に対応することが不可欠です。本稿では、医療法人M&Aにおける基本的なスキーム、それぞれのメリット・デメリット、及び実務上の留意点について解説いたします。
医療法人M&Aの意義と市場動向
医療法人M&Aは、単なる経営権の移譲にとどまらず、医療機関が抱える課題の解決や地域医療の維持・発展を目的とするもので、高齢化社会における医療需要の増加や、後継者不在による経営者交代の必要性から、医療法人M&Aの重要性は一層高まっています。
特に近年、医療法人M&A市場においては以下のような動向が顕著です。
- 後継者不足への対応:経営者の高齢化に伴い、後継者が不在の医療法人が増加。
- 地域医療の再編:効率的な医療提供体制を構築するため、複数の医療法人が統合する事例が増加。
医療法人M&Aのスキームと特徴
医療法人M&Aは、出資持分の有無や譲渡対象に応じて複数のスキームがありますが、それぞれのスキームの特徴を正確に理解し、状況に応じた最適な方法を選ぶ必要があります。具体的には以下のようなスキームが考えられます。
出資持分譲渡スキーム
出資持分を譲渡することで経営権を移譲する方法です。
- 利点 :法人そのものが存続するため、許認可手続や契約承継が簡易。患者やスタッフへの影響が最小限に抑えられる。
- 留意点:平成19年の医療法改正前に設立された出資持分のある医療法人のみが選択できる方法。譲渡価格の評価基準や、譲渡後の経営体制の調整が課題。
合併スキーム
医療法人同士を統合する方法です。
- 利点 :税制適格要件を充足すれば税負担なく手続きが進められる。債権者の同意が不要。
- 留意点:合併認可等の行政手続が複雑。債権者手続を要する。
会社分割スキーム
診療所事業を法人内で分割し、承継する方法です。
- 利点 :税制適格要件を充足すれば税負担なく手続きが進められる。対象範囲を限定できるため柔軟な運用が可能。
- 留意点:分割認可等の行政手続や労働者承継手続等が複雑。債権者手続を要する。
事業譲渡スキーム
診療所単位で資産・負債・契約を譲渡する方法です。
- 利点 :対象範囲を限定できるため柔軟な運用が可能。
- 留意点:診療所の廃止・新規の手続が必要。有床・無床診療所の違いで別途異なる行政手続を要する。
社員の退社入社スキーム
現在の社員が退社し、新たな社員が入社する形で経営権を移行する方法です。
- 利点 :持分権のない医療法人においても選択できる方法。法人格が維持されるため、患者や取引先への影響が少ない。
- 留意点:社員変更に伴う手続や合意形成が必要。
許認可と行政手続の重要性
医療法人のM&Aでは、許認可に関する行政手続が適切に履践されなければ、M&Aの効果が何ら得られず、診療所の運営が停止するリスクもあります。
簡易な手続が必要なケース
出資持分譲渡スキームや退社入社スキームでは、役員変更届出など比較的簡易な手続で済む場合が多く、迅速な対応が可能です。
主には、以下の手続きが必要です。
- 病院等開設許可届出事項の一部変更届出
- 保険医療機関届出事項変更届出(保険医療機関の場合)
- 登記事項の変更
- 役員変更届
複雑な手続が必要なケース
合併、分割スキームでは、①~④の手続以外に以下の手続も併せて行う必要があります。
合併・分割認可申請:都道府県においては、年2回程度申請を受け付けており、かかる期間において合併・分割契約書等の必要書類を提出した上で申請を行い、医療審議会を経た上で承認を得る必要がある。
これらの手続が完了するまで概ね1年程度を要することになるため、タイムスケジュールの管理や行政との連携が非常に重要となります。
また、事業譲渡スキームでは、①~④の手続以外に以下の手続も併せて行う必要があります。
- 診療所の廃止・開設:運営主体の変更に伴い、新たな許認可が必要である。
- 定款の変更:診療所の廃止及び開設のためには都道府県に対し、定款変更の申請をし、その認可をもらう必要がある。
上記行政手続の他にスキームによっては、債権者保護手続や労働契約承継法に基づく承継手続等を経る必要があるため、専門家の助言を受け、行政機関との連携を密にしながら進めることが推奨されます。
スキーム選択のポイント
- 法人特性に基づく選択
出資持分の有無、法人の規模、医療法人の特性を踏まえて最適なスキームを選択。
- 法的規制への適合性
医療法等の関連法令を十分に理解し、行政手続を適切に履践する。
- 経営目標との整合性
M&Aの目的(事業承継、経営効率化、規模拡大)を明確化し、それに合致したスキームを選ぶ。
まとめ
医療法人M&Aは、スキームの選択や許認可手続の履践が特に重要といえます。
特に、行政手続や契約承継が円滑に進められるよう、専門家の助言を得ながら慎重に進めることが重要です。
また、医療法人のM&Aにおける法務デューデリジェンスの必要性等に関しては、以下の記事をご参考ください。

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弁護士 尾又比呂人 (第一東京弁護士会所属)