事例から学ぶインドにおける紛争防止2 – 贈収賄事案

インドにおける紛争防止について、事例をご紹介します。
相談内容
弊社は自動車メーカー向けにインド国内で自動車部品を製造するサプライヤーです。先日弊社のメイン工場に対して政府のオフィサーによる立ち入り検査がありました。検査の結果、弊社の工場の天井の高さが法令の求める水準に達していないことが判明しました。オフィサーからは、賄賂を支払うか、さもなければ工場の操業を直ちに停止し、天井の高さを法令の求める水準にまで高くするよう求めてきました。弊社の日本本社は上場企業であり、賄賂を支払う事は到底できません。しかし、工場の操業を止めることも、自動車メーカーに契約に従った納品ができなくなってしまい、その結果莫大な損害が発生することが明らかであるため、とても現実的な選択肢ではありません。一体どのように対処すれば良いでしょうか?
本件紛争の原因
相談企業は日系大手建設会社に依頼する形で工場を設立しました。当該建設会社は、現地コンサルタントを起用する形でコンプライアンス対応を実施していたようでしたが、当該現地コンサルタントに問題があったためこのような問題が発生してしまいました。工場の建築基準については、州ごとに規制が異なるなど、専門的な知識を求められる側面があります。天井の高さといった構造上の瑕疵については、完成後の回復が非常に難しく、事後的に違反が発覚したとしても、これを是正することは容易ではありません。相手方が日系企業だからといって一方的に信じるのではなく、例えば、工事建設に関する契約書において法令調査を行うこと建設会社の義務とすることを明記することで相手方に必要な調査の実施を促したり、現地法令の重要な部分について自社において適当な専門家を起用しチェックすることで避けることができた問題だったかもしれません。
インドにおける贈収賄
街中で車に乗っていると、違反を咎めた警察官から賄賂を求められるなど、残念ながらインドでは贈収賄の慣行が広く残っています。しかし、2018年にインド汚職防止法が改正され、インドにおいて企業や駐在員がさらされる汚職リスクは非常に大きいものになりました。贈収賄に関与した者が関係する会社やその取締役等についても処罰の対象となりインドにおける贈収賄リスクは無視できないものになっています。上場企業にとって国内外問わず法令遵守の厳しく問われる今日においては賄賂を支払ってしまうことのリスクは甚大です。また、仮に賄賂支払って今回の調査を乗り切ったとしても、担当官が交代した場合、改めて問題が取り沙汰される可能性があるため、賄賂を支払うことは問題の本質的な解決にはつながりません。その意味で相談企業が指摘することを正しく賄賂を支払うことで乗り切る事は選択肢になりません。
本件で採用された対応
結論として相談企業は、賄賂の支払いを拒絶し、天井引き上げに関する追加工事も行いませんでした。代わりに、インド人弁護士を起用し担当オフィサーと交渉を行うという手段を選択しました。具体的には、本件では、エアコンの配管を通すために天井が引き下げられており、エアコンの配管を通さないのであれば、法令の求める水準の天井の高さを確保できたこと、エアコンの配管が通されているのは従業員が安全な環境下で働くことができるようにするためであることなどを理由にインド人弁護士が担当検査官と交渉し、実質的には法令を遵守しているものと認めさせ、無事平和裡に問題を解決することができました。
日本人からすると想定外のことばかり起こるのがインドですが、必ず何らかの解決策があるのもインドならではと言えます。一見無理難題に思えても諦めずに、解決策をなんとか追求する姿勢がインドでビジネスをする上で重要になります。
また、本件は、相談企業にとって贈収賄に関する問題に向き合うきっかけとなり、インドに反贈賄ポリシーの刷新及び定期的な反贈賄トレーニング導入の契機となりました。

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