事業譲渡・会社分割とは?概要・相違点、メリット・デメリットを解説

様々な種類があるM&Aのなかで、会社の事業の全部または一部を別の会社に承継・移転させる点を同じくする事業譲渡と会社分割。
類似する手法ですが、その手続や効果に種々の違いがあり、メリット・デメリットが異なります。
この記事では、事業譲渡と会社分割の概要についてご説明した上で双方の相違点やメリット・デメリットなどをご説明します。
■事業譲渡・会社分割とは?
ここでは、事業譲渡・会社分割それぞれの概要を説明します。
◆事業譲渡とは?
事業譲渡とは、『会社が事業の全部または一部を他の会社に譲渡すること』をいいます。
どのように譲渡するかというと、『会社間の契約により事業を個別に取引する売買行為』によって事業を譲り渡します。
一般的に「事業」というと、会社や組織が営利目的等一定の目的をもって継続的に経営する仕事・経済活動を指しますが、事業譲渡における「事業」はそれとは異なります。
事業譲渡における「事業」とは、会社が営業目的のために所有している財産のことをいい、会社設備・不動産・債権・債務・契約・人材・ブランド(所謂、のれん)・ノウハウなど有形財産も無形財産も譲渡の対象となります。
よって、事業譲渡においては、どの「事業」を譲渡の対象にするかを譲渡会社と譲受会社が交渉等により個別に指定して決めて、売買契約をすることになります。
◆会社分割とは?
会社分割とは、『株式会社または合同会社が、事業に関して有する権利義務の全部または一部を他の会社に承継させること』をいいます。
会社分割における「事業」は、旧商法下の「営業」(一定の営業の目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産)と同様に考えられていますが、会社法改正で事業そのものだけでなく「事業に関して有する権利義務の全部または一部」も会社分割の対象とされました。
そのため、会社分割でも特定の事業資産のみを会社分割の対象にすることができるようになりました。ただ、多くの場合は、事業そのもの及びそれに関わる権利義務が対象にされています。
会社分割は、移転先や対価(株式)の支払先によって大きく4種類に分けられます。
移転先の違いによる分類としては、すでに設立している法人が事業を承継する『吸収分割』と、新しく設立した法人が事業を承継する『新設分割』があります。
また対価の支払先の違いによる分類としては、分割の対価(株式)を渡す相手が分割会社である『分社型分割』と、分割の対価(株式)を渡す相手が分割会社の株主である『分割型分割』があります。
■事業譲渡と会社分割の主な相違点
事業譲渡と会社分割は、どちらも「事業を他の会社が承継する」という点において類似していますが、前項で述べた法的な性質の違いにより、法律や税金の面で様々な取り扱いの違いがあります。ここからは、この2つの手法の主な相違点について説明します。
◆取引行為か組織再編行為か
・事業譲渡 売買契約による取引行為
事業譲渡は、売買契約により事業資産を個別に取引する取引行為です。
・会社分割 会社法上の組織再編行為
会社分割は、会社法が定める組織再編行為です。
◆権利・義務の承継
・事業譲渡 個別承継、個別同意や個別契約が必要
事業譲渡では、譲渡の対象となる事業資産を個別に指定し、譲渡会社(売り手)の権利義務を譲受会社(買い手)が個別に承継します。
ある債務が譲渡の対象となれば、債権者の個別同意が必要となりますし、従業員が譲渡対象となれば、譲受会社(買い手)への転籍につき従業員の個別同意を得て、労働契約を締結する必要があります。また、取引先との契約も再締結する必要があります。
・会社分割 包括承継・個別同意や個別契約は不要
会社分割は、分割する事業の権利義務を分割承継会社(買い手)が包括的に承継します。債権者の個別同意は不要ですし、従業員の個別同意・労働契約の再締結は不要です。また、取引先との再契約も不要です。
◆債権者保護手続の要否
・事業譲渡 債権者保護手続不要
事業譲渡は個別承継のため、譲渡する債務については債権者に個別の同意をとります。そのため、債権者保護手続きは不要です。
・会社分割 債権者保護手続は必要
会社分割は包括承継のため、債権者の個別同意は不要です。しかし、会社分割により分割承継会社(買い手)が分割会社の債務を承継するということは、即ち、債務者が変更になることであって債権者の利害に大変な影響を及ぼしますので、会社法の定める債権者保護手続を経る必要があります。
◆許認可の承継
・事業譲渡 再取得必要
事業譲渡では、譲渡会社(売り手)が取得していた事業の許認可を譲受会社(買い手)が新たに取得する必要があります。そのため、事業を譲り受けても新たに許認可を取得するまでは事業を始められないということも起こりえます。
・会社分割 再取得不要(但し、再取得必要なものもあり)
会社分割では、分割会社(売り手)が取得していた事業の許認可が包括承継に含まれるため、分割承継会社(買い手)が承継し、多くの場合、届出のみで足ります。ただし、宅地建物取引業・建設業など承継されない許認可もありますので、注意が必要です。
◆消費税などの税務の扱い
・事業譲渡 消費税が課税されるなど税金面で優遇されない
事業譲渡は、個別の事業資産の売買行為のため、対象となる事業資産により税金負担をすることになります。
譲渡対象が消費税課税対象資産(土地以外の有形固定資産・無形固定資産・棚卸資産・のれん)であった場合、消費税が課せられ、譲受会社(買い手)が負担することになります。また、譲渡対象が不動産であれば、不動産取得税や登記申請に必要な登録免許税も譲受会社(買い手)が負担します。
一方、譲渡会社(売り手)に課せられる税金としては法人税があり、事業資産を売却した対価で得た利益(『売却価額-譲渡資産簿価』がプラスになった場合)に対して課税されます。
・会社分割 消費税が非課税など税金面で優遇
会社分割は、会社法上の組織再編行為のため、消費税は非課税です。また、譲渡対象が不動産の場合でも、一定の要件を満たせば、分割承継会社(買い手)は不動産取得税を課せられません。
■事業譲渡?会社分割?どちらを選べばいいのか
事業譲渡と会社分割の主な相違点を見てきましたが、このように様々な相違点があるからこそ、どちらの手法をとるかは会社の目的や状況に応じて慎重に検討を重ねる必要があります。
ここからは会社の立場の違い(売り手側なのか買い手側なのか)によるメリット・デメリットと、選択するためのポイントを見ていきましょう。
◆売り手側のメリット・デメリット
【事業譲渡のメリット】
・不採算事業等を整理できる
特定の事業を指定して売却できることから、不採算事業や非中核事業を整理することができ、中核事業への注力やコスト削減ができます。
・資金を得ることができる
事業資産の譲渡対価として現金を得ることができ、それを資金として新規事業への参入や、中核事業に集中使用ができます。
・負債があっても譲受先を見つけやすい
事業譲渡の対象を個別に選択することから、譲渡会社(売り手)に負債があっても、譲受先は見つけやすい。
【事業譲渡のデメリット】
・競業避止義務が課せられる
会社法の規定により、譲渡会社は、ある地域や一定期間、同一の事業を行うことができなくなります。
・手続が煩雑で時間がかかる
譲渡対象事業を個別に選択できるという利点の半面、対象となった事業に関係するすべての契約の相手方の同意を個別に得る必要があり、非常に手続きが煩雑で時間がかかります。
・譲渡益に法人税が課せられる
事業譲渡が売買行為であることから、売却による譲渡益が出た場合には法人税が課税されます。
【会社分割のメリット】
・権利義務の包括承継
分割した事業の権利義務をそのまま分割承継会社(買い手)に包括承継させることができるため、債権者や従業員などの個別同意や個別の手続きが必要ありません。
・許認可の承継
対象事業の許認可も分割承継会社(買い手)が承継するため、新たに許認可を取得する必要がありません(但し、例外があります)。
【会社分割のデメリット】
・資金(現金)を得ることができない場合が多い
原則、対価として株式が交付されるため、その場合には現金を得ることができません。
・残したい契約なども承継の対象になる
包括承継のため、残したい契約や資産なども分割承継会社(買い手)に承継されます。
◆買い手側のメリット・デメリット
【事業譲渡のメリット】
・対象とする事業資産を個別に選択できる
有形財産のみならずノウハウなどの無形財産も選択でき、譲受会社(買い手)が必要とする事業のみを買収できます。
・簿外債務の引き継ぎを回避できる
包括承継ではない事業譲渡においては、簿外債務引き継ぎのリスクを抑えることができます。
【事業譲渡のデメリット】
・資金が必要
譲受会社(買い手)は、譲渡対価として現金を支払う必要がありますので、資金を用意する必要があります。
・税金面で優遇されない
消費税が課税される、不動産取得税の軽減措置がないなど、税金面で優遇されません。
・人材流出の可能性
譲渡対象を人材(従業員)とした場合、従業員の個別の同意が必要となります。同意が得られない場合には退職されることも考えられ、事業譲渡を契機に優秀な人材が流出する可能性もあります。
【会社分割のメリット】
・資金がなくても可能
会社分割の対価は、原則として分割会社または分割会社株主への株式交付ですので、資金がなくても会社分割が可能です。
・税金面で優遇されている
会社分割が組織再編行為であることから、消費税は非課税、不動産取得税も軽減措置があります。
【会社分割のデメリット】
・不要な資産も承継する
包括承継であることから簿外債務など譲受会社にとっては不要な事業も承継するリスクがあります。
・株主総会での特別決議によって会社分割の承認が必要
◆どちらを選ぶ?そのポイントとは
会社の立場の違いによるメリット・デメリットがわかりましたが、それでは、結局、なにをポイントにして選んだらいいのでしょうか。
以下のような会社の状況や目的によって、選択が分かれることになるでしょう。
売り手が現金を必要としている
買い手が負債を引き継ぎたくない
売り手・買い手ともに特定の事業に注力したい
規模の小さい事業を対象としている など
売り手が競業避止義務を課せられない形で事業を譲りたい
買い手が現金の支出を抑えて事業を承継したい
課税額を抑えたい
規模の大きい事業を対象としている
事業をまとめて円滑に承継したい など
■まとめ
事業譲渡と会社分割は、事業を他社が承継するという点で類似した手法ですが、法律や税務の扱いに様々な違いがあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。会社の状況や目的に適した手法を選択すべきですが、それは安易に選択すべきものではありません。
まずは、専門知識を持ち、多角的な視点で検討ができる弁護士などの専門家に相談されるのがいいでしょう。