事業承継に関する支援について解説

事業承継に関する支援には、どのようなものがあるのでしょうか。
計画的に事業承継を行うためには、支援制度の活用を検討することが重要です。
平成20年5月に、「中小企業における経営承継の円滑化に関する法律(略称:経営承継円滑化法)」が成立しました。
【対象となる事業者の規模】
資本金 又は 従業員数 | ||
①製造業、建設業、運輸業その他の業種(以下②を除く) | 3億円以下 | 300人以下 |
②製造業のうちゴム製品製造業 (自動車又は航空機用タイヤ及びチューブ製造業 並びに工業用ベルト製造業を除く) |
3億円以下 | 900人以下 |
③卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
④小売業 | 5千万円以下 | 50人以下 |
⑤サービス業(以下⑥、⑦を除く) | 5千万円以下 | 100人以下 |
⑥サービス業のうち ソフトウェア業又は情報処理サービス業 |
3億円以下 | 300人以下 |
⑦サービス業のうち旅館業 | 5千万円以下 | 200人以下 |
【対象となる適用要件】
民法特例 | 民法特例を利用できる中小企業の要件として、除外合意等の時点で3年以上継続して事業を行っていることを規定 |
金融支援 |
・金融支援に係る知事認定の要件として、事業承継後に売上高が減少したことや相続税負担が発生していること等を規定 ・日本政策金融公庫等が中小企業者の代表者やその予定者に貸し付けることができる資金として、株式や事業用資産の買取り資金、相続税納税資金、遺留分減殺請求への対応資金等を規定 |
ここでは、経営承継円滑化法の支援の中身と、その他の主な支援サービスについて解説していきます。
事業承継支援の主なもの3つ
経営承継円滑化法が基礎となっている支援は、以下の3つです。
1. 事業承継税制
2. 民法の特例
3. 金融支援
事業承継税制
非上場中小企業の後継者が、各種事業継続要件などを満たす場合に、自社株式に係る相続税や贈与税の納税が猶予されます。
また、平成27年度税制改正により、平成27年4月1日以降、初代経営者が存命中に、2代目経営者が3代目経営者に再贈与を行う場合も、贈与税の納税義務が生じないように、税制が拡充されました。
相続税および贈与税の納税猶予制度を組み合わせて利用することで、相続だけでなく、生前贈与による株式の承継に伴う税負担を軽減できます。
個人版事業承継税制 (事業用小規模宅地特例との選択制) |
法人版事業承継税制 | |
税 制 | 相続税・贈与税の納税猶予制度 | 相続税・贈与税の納税猶予制度 |
期 間 | 令和元年度からの10年間(平成31年1月1日から令和10年12月31日までに行われた贈与・相続が対象) | 平成30年度からの10年間(平成30年1月1日から令和9年12月31日までに行われた贈与・相続が対象) |
猶予割合 | 100% | 100% |
対象資産 | 土地、建物、機械、器具備品等 | 非上場株式 |
要 件 |
・事業承継円滑化法に基づく認定 ・事業承継要件 等 |
・事業承継円滑化法に基づく認定 ・事業継続要件 等 |
民法の特例
事業承継には、遺留分の問題が起きることがあります。
例えば、推定相続人が複数人いる場合、遺留分を侵害された相続人から、遺留分に相当する金銭を請求され、結果として、自社株式を手放さざるを得ないような場合です。
このような遺留分の問題に対応するために、「遺留分に関する民法の特例」を規定されました。非上場中小企業の後継者や個人事業主の事業承継の後継者が、推定相続人全員との合意が必要となります。
なお、相続法の改正により、遺留分を侵害された者は、侵害者に対し、侵害額に相当する金銭の請求のみが可能になりました(令和元年7月1日施行)。
遺留分に関する民法の特例には、除外合意と固定合意の二種類があります。
生前贈与株式を遺留分算定の基礎財産から除外できる制度(除外合意)
い つ:先代経営者の生前に
誰 が:経済産業大臣の確認を受けた後継者が
何をすれば:推定相続人全員との合意内容について家庭裁判所の許可を受けることで
何 を:先代経営者から後継者へ生前贈与された自社株式その他一定の財産について
何ができる:遺留分算定の基礎財産から除外できる制度
これにより、自社株式に係る遺留分侵害額請求の未然防止と、後継者単独で家庭裁判所に申し立てるため、現行の遺留分放棄制度と比べて、非後継者の手続が簡素化されます。
生前贈与株式の評価額をあらかじめ固定できる制度(固定合意)
い つ:遺留分の算定に際して
誰 が:経済産業大臣の確認を受けた後継者が
何をすれば:推定相続人全員との合意内容について家庭裁判所の許可を受けることで
何 を:生前贈与株式の価額を
何ができる:当該合意時の評価額であらかじめ固定できる制度
これにより、自社株式の価額が上昇した場合でも、遺留分の額に影響がないことから、後継者は相続時に想定外の遺留分の侵害額の請求を受けることがなくなります。
除外合意と固定合意は、組み合わせることも可能です。どちらについても、後継者と遺留分権利者の全員で合意書面を作成し、その合意をした日から1か月以内に、後継者が経済産業大臣に対して確認の申請を、確認を受けた日から1か月以内に、家庭裁判所に申立てる必要があります。
家庭裁判所の許可を受けると、合意の効力が生じます。
金融支援
事業承継後も安定した経営を行うためには、以下のような、さまざまなお金が必要となります。
- 経営者からの自社株式や事業資産の買取り
- 相続で分散した自社株や事業資産の買取り
- 自社株式や事業資産にかかる相続税や贈与税の支払い
- 経営改善などにかかる投資
これらの必要な資金に対して、経営承継円滑化法に基づき、支援を受けることができます。
ただし、都道府県知事の認定が必要です。
中小企業信用保険法の特例
事業承継にかかる資金は、通常の保証枠とは別枠で信用保証が行なわれます。
例えば、株式や事業資産の買取りや、一定期間の運転資金等の資金調達の支援にかかる費用などがこれにあたります。
株式会社日本政策金融公庫法および沖縄振興開発金融公庫法の特例
株式や事業資産の買取りや、相続税や遺留分減殺請求などへの対応のための資金調達の支援など、後継者個人に対する融資が可能になりました。
いずれも、条件がありますので、まずは弁護士や税理士等に、詳細を確認しましょう。
事業承継支援サービス
事業承継をスムーズに行うためには、各種支援サービスを活用すると良いでしょう。
支援サービスには、公的なもの・民間のものがあります。
公的な事業承継支援サービス
事業承継・引継ぎ支援センター
令和3年4月より、主に第三者による承継を支援してきた「事業引継ぎ支援センター」と、主に親族内承継を支援してきた「事業承継ネットワーク」が機能統合されました。
主な業務内容は以下のとおりです。
- 業承継(親族内・第三者)に関するご相談
- M&Aマッチング支援
- 事業承継計画策定支援
- 事業承継診断、セミナー実施
- 経営者保証解除に向けた専門家支援
よろず支援拠点
中小企業・小規模事業者の事業承継以外にも、経営に対するあらゆる相談に対して、無料で相談ができる国の相談窓口として、47都道府県に設置されました。
中小企業基盤整備機構(中小機構)
経済産業省所管の独立行政法人で、国の中小企業施策の総合的な実施機関です。
事業承継ガイドライン
中小企業庁が、中小企業・小規模事業者に向けて、円滑な事業承継のために必要な取り組みや、活用すべきツール、注意すべきポイントを紹介している手引書です。
農林水産省の手引書
事業承継と言うと、法人化された会社を思い浮かべる方が多いかと思いますが、農業経営についても事業承継は大きな問題です。
農林水産省が、農業経営の承継に関して、各種支援やパンフレットなどを紹介しているので、農業経営者の方は、確認しておくと良いでしょう。
民間の事業承継支援サービス
税理士
中小企業や個人事業主にとって、税務などを通じてもっとも身近と言える専門家です。
株価の評価や種類株式の発行に関する助言など、相続税や生前贈与などのアドバイスの他に、事業の会計に関してもサポートが受けられます。
弁護士
法律の専門家です。経営者の代理人として、金融機関や利害関係者への説明や交渉を行うことができ、各種問題の法的サポートが受けられます。
公認会計士
監査及び会計の専門家です。
財務書類の監査業務の他に、株式評価や、M&Aでの売却価格資産、会計制度の導入等についてのサポートが受けられます。
中小企業診断士
中小企業の経営課題に対応するための診断・助言を行う専門家です。
事業承継診断や、事業承継計画の策定支援、後継者教育支援、M&A等に係るサポートが受けられます。
M&A仲介会社
M&Aの支援を専門としています。第三者への事業承継の場合は、M&Aのプロである仲介業者へ相談することで、求める後継者候補を見つけられる可能性が高くなります。
まとめ
事業承継をする際は、多くの問題がつきまとうため、対応を後回しにしている経営者の方もいるでしょう。
中小企業庁では、こうした問題を解決するために、承継前から承継後までフォローする体制を整えています。
さらに、支援サービスには公的なものと民間のものがあり、種類も多いため、どの支援をいつの段階で活用すれば良いかわからない場合があります。
中には、期限のある支援サービスもあるため、早めに事業承継に詳しい専門家に相談することをお勧めします。