【弁護士解説】横領が発覚! 業務上横領で返還請求や解雇はできるのか?

従業員の不正の中でも横領は多く、横領への対処は重要なものとなります。業務上横領が発生した場合の対処の仕方について確認しておきましょう。
横領された物は返してもらえる! 物がなくてもお金で返してもらえる
従業員が横領した物については、お金か商品かなどを問わず横領した物の返還を請求することができます。なぜなら従業員がその物を持つ権限などないからです。簡単にいってしまえば万引きされた場合に犯人に商品を返してもらえるのと同じことです。
もし商品などが横領後、売却され従業員の手元にない場合、会社は従業員に対して商品の代わりにお金を請求することができます。
しかし横領された金額が大きい場合、従業員が持っている財産だけでは補填することが難しいケースもあるのが現実です。
補填できなくても給料から即天引きは待った! 天引きは慎重に
従業員が払えないならば、まだ支払っていない給料から天引きしてしまえばいいと思ってしまいがちですが、そう簡単にはいかないのです。
「悪いことをしたのだから給料から天引きして何が悪い」と思われるかもしれませんが、給料は従業員の生活を支えているものである以上気軽に天引きするということはできません。
労働基準法は「賃金全額払いの原則」というものを定めています。給料は全額従業員に払いなさいということです。
これには例外があり、所得税や社会保険料など法律で認められたものについては天引きすることが認められていますが、かなり限定的です。
給料と従業員への返還請求債権を相殺してしまえばいいのではと思うかもしれません。これについても賃金全額払いの原則から、会社側から一方的に相殺することは許されません。
ただ、従業員が同意した場合には相殺が認められています。しかしこの同意はかなり慎重に判断されます。従業員は会社との関係で弱い立場にあります。
簡単に従業員の同意があったから相殺できるなどとすれば賃金全額払いの原則が簡単に破られてしまうからです。そうなると給料から天引きする手段は現実的とはいえません。
身元保証人に払ってもらえる可能性はあるが契約期間に注意
従業員を雇い入れる際、身元保証契約を結んでいた場合身元保証人に請求することが考えられます。しかし、この身元保証契約は有効期間が法律で定められています。
身元保証の契約期間を定めなかったときには3年、契約期間を定めても最大5年までとされています。雇用の際に身元保証契約を結んだ場合、雇い入れから5年以上経っていると請求できませんので注意してください。
分割払いをしてもらう・親族に任意に支払ってもらうのが現実的
横領をした従業員が一度にまとめて賠償できないのであれば、将来の給料から分割して払ってもらうしかありません。
この他にも従業員の親族からも分割で支払ってもらうのが現実的であるといえます。親族に払ってもらう場合でも注意が必要です。
従業員が親族と一緒に横領を企てていたり、従業員が亡くなって相続が発生したりしていない限り、法律上親族が損害賠償をする義務はありません。
親族には道義として支払ってもらうという形式を採らざるを得ず、任意に支払ってもらう必要があります。
横領した従業員をすぐに解雇するのも危険 後に給料を支払わなければいけないことも
従業員が横領したことが事実となったとしても、会社は直ちにその従業員を解雇することはできません。
従業員との雇用契約や就業規則の中で「非違行為をした場合には解雇する」ということを規定していなければなりません。
就業規則の中に懲戒事由として規定しておくのが一般的な方法です。就業規則では懲戒の原因となる事実と懲戒の種類を決めておかなければなりません。
懲戒の種類とは戒告、停職、解雇などといったものです。これは横領が発生する前に決めておかなければならず、日頃からの備えが必要といえます。
さらに就業規則などに解雇を規定していたとしても、すぐに解雇できるわけではありません。横領の事実が本当に認められるのか、他の懲戒事例と比較したときに解雇相当といえるのか慎重に判断しなければなりません。
従業員は法律によって強く保護されているため、軽率な解雇は認められません。解雇が無効と判断された場合は、働いていなかった期間分についても給料を支払わなければならず会社にとって損となってしまいます。
横領の調査から従業員の処分まで丁寧な対応が重要 弁護士にご相談ください
従業員が本当に横領を行ったといえるのかという調査も重要な作業です。他の従業員からの聞き取りや証拠を確保するなどして横領の事実を裏付けなければいけません。
この調査についても弁護士が担当することで、不当な調査になったり、客観的に横領していると認められるにもかかわらず争いになったりするという事態を防ぐことができます。
従業員の横領は業務上横領として刑事事件になることもあり、様々な法律問題が絡んできます。そのため専門家である弁護士に早い段階で相談し、トラブルなくスムーズに解決することが重要です。