【新担保法制】対抗要件の明文化へ!狭義の所有権留保の新ルール―狭義の所有権留保の対抗要件

分割払いで購入した商品の所有権は、代金完済まで売主に留保されます。
この所有権留保について、第三者に対して権利を主張するためのルールが新法で大きく変わりました。
従来、所有権留保は対抗要件を具備しなくても第三者に対抗できるとされていました。
代金完済まで所有権が売主に残っているため、物権変動が起きていないという理由からです。
しかし、譲渡担保新法により、原則として対抗要件が必要とされることになりました。
ただし、商品の代金債務のみを担保する所有権留保については、例外的に対抗要件が不要とされています。
ここでは、従来の判例での取扱いと、新法でどのように規定されたのかを説明します。
所有権留保の二つの類型
ここでは、所有権留保の二つの類型について説明します。
狭義の所有権留保
商品の代金債務のみを担保する所有権留保です。
二者間取引の場合、家電量販店で冷蔵庫を店舗独自の分割払いで購入し、冷蔵庫の代金債務だけを担保する場合が該当します。
具体例としては家電量販店で家電を購入し、店舗独自の分割払いを利用する場合です。
拡大された所有権留保
商品の代金債務だけでなく、他の債務も担保する所有権留保です。
三者間取引の場合、信販会社の償還債権に加えて、手数料債権や既存の債務も一緒に担保する場合が該当します。
自動車をオートローンで購入する際、立替金だけでなく手数料なども担保に含める場合が典型例です。
狭義の所有権留保の対抗要件
ここでは、狭義の所有権留保における対抗要件について説明します。
従前の判例
従来、所有権留保については対抗要件が不要とされていました。
所有権が最初から売主に残っており、買主に移転していないため、物権変動が起きていないという理由からです。この考え方は、最高裁判例でも示されていました。
この点を明確にしたのが、平成30年の最高裁判決です。
最高裁平成30年12月7日判決の事案
企業が支払停止となり、所有権留保と集合動産譲渡担保の権利が衝突した事例です。
被告企業(以下「売主」)は、債務者企業(以下「A社」)に金属スクラップを継続的に売却していました。
売主とA社の間では、代金完済まで所有権を売主に留保する特約がありました。
A社が支払停止となった後、売主はA社の工場内にあった金属スクラップ約10万キログラムを引き揚げて処分しました。
一方、原告(以下「融資者」)は、A社に融資を行っていました。
融資者はA社の工場内在庫製品等に集合動産譲渡担保を設定し、対抗要件を具備していました。
融資者は、売主の所有権留保と融資者の譲渡担保は対抗関係に立つと主張しました。
そして、対抗要件を具備していない売主は融資者に対して所有権を対抗できないと主張しました。
その上で融資者は、売主による処分行為が不法行為または不当利得に該当するとして、金属スクラップの価格相当額及び遅延損害金等の支払を求めました。

判決の内容
最高裁は、所有権留保について以下の判断を示しました。
第一に、
継続的な売買契約において期間ごとに代金が算定され、当該期間の代金完済まで所有権が留保される特約がある場合、代金完済までは動産所有権は売主から買主に移転しません。
第二に、
買主の債権者が、買主保管中の動産について集合動産譲渡担保権を設定し対抗要件を具備したとしても、代金未完済の動産については、所有権を留保している売主に対して譲渡担保権を主張できません。
第三に、
売主が買主に転売を授権していた事実があっても、そのことのみをもって動産所有権が買主に移転したとみることはできません。
判例の解釈
この判決により、所有権留保動産に対しては第三者との間で対抗関係を問題とせず、対抗要件なくして権利を主張できることが明確になりました。
所有権が買主に移転していない以上、買主から譲渡担保権の設定を受けた者は、売主に対して権利を主張できないという理論構成です。
新法での規定
譲渡担保新法により、所有権留保の対抗要件について新たなルールが定められました。
対抗要件の原則的な必要性(第109条第1項)
新法では、原則として対抗要件が必要とされました。
所有権留保契約に基づく所有権留保は、留保買主から留保売主への引渡しがなければ、第三者に対抗できません。
ただし、登記や登録が必要な動産については、留保売主を所有者とする登記や登録が必要となります。自動車などの登録自動車が典型例です。
狭義の所有権留保の特則(第109条第2項)
次の債務を担保する目的の所有権留保契約については、動産の引渡しがなくても第三者に対抗できます。
- 所有権留保動産の代金支払債務
- 代金支払債務を履行したことによって生じる償還債務
なお、この例外は、登記や登録が必要な動産には適用されません。また、対象となる債務には、利息、違約金、実行費用及び損害賠償も含まれます。
具体例
家電量販店で冷蔵庫を店舗独自の分割払いで購入する場合を考えます。この場合、所有権留保の被担保債権は冷蔵庫の代金債務のみです。
したがって、家電量販店は、冷蔵庫を購入者に引き渡した後であっても、第三者に対して所有権留保を対抗できます。購入者から家電量販店への引渡しなどの対抗要件を具備する必要はありません。

従来の判例との関係
新法は、原則として引渡しを対抗要件として要求する点で判例を変更しました。
しかし、通常の売買代金債務を担保する所有権留保については第2項により引渡し不要とすることで、実質的には判例の結論を維持しています。
商品の代金のみを担保する狭義の所有権留保では、商品と債権の間に密接な関係(牽連性)があります。このような場合は、商品から優先的に回収を図ることができてよいという判断です。
また、対抗要件を具備した集合動産譲渡担保権が先行して存在する場合に、その後の所有権留保売買による代金債権が劣後するとすれば、所有権留保売買を利用した商品の流通が阻害されるという問題があります。
新法は、このような実務上の必要性も考慮して、狭義の所有権留保については引渡し不要としました。
まとめ
所有権留保の対抗要件について、新法により重要な変更がありました。
従来の判例では、所有権留保について対抗要件は不要とされていました。
最高裁平成30年12月7日判決は、代金未完済の動産については所有権が買主に移転していないため、買主から譲渡担保権の設定を受けた者は売主に対して権利を主張できないと判断しました。
新法では、原則として引渡しや登記などの対抗要件が必要とされました。
しかし、商品の代金債務のみを担保する狭義の所有権留保については、例外的に対抗要件が不要とされています。
これにより、実質的には従来の判例の結論が維持されつつ、所有権留保の法的な位置づけが明確になりました。
特に、商品の代金債務を担保する通常の所有権留保については、引き続き対抗要件なく第三者に対抗できることで、商品の流通が阻害されることなく、安定した取引が可能になります。

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