【新担保法制】根譲渡担保権の概要とその活用方法

今回は、継続的な取引関係における担保として重要な役割を果たす「根譲渡担保権」について詳しく解説します。
根譲渡担保権は、継続的な取引などで発生する不特定多数の債権を包括的に担保する制度で、これまで判例法理によって発展してきましたが、譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律(譲渡担保新法)第13条から第26条により明文化されました。
継続的な取引関係にある企業間での資金調達や、将来発生する債権も含めた包括的な担保設定を検討している方にとって、重要な制度となります。
根譲渡担保権とは
ここでは、根譲渡担保権の基本的な概念と特徴について説明します。
根譲渡担保権の基本概念
根譲渡担保権とは、債務者との間に生じる一定の範囲に属する不特定の債権を担保するために設定される譲渡担保権です。
通常の譲渡担保権が特定の債権を担保するのに対し、根譲渡担保権は継続的な取引などで発生する複数の債権を包括的に担保することができます。
根担保としての特徴
根譲渡担保権は、根抵当権と同様の「根担保」としての特徴を持ちます。
主な特徴
- 継続的担保性:継続的な取引から生じる債権を包括的に担保
- 極度額設定:担保できる債権額の上限を設定可能
- 将来債権担保:将来発生する債権も担保対象に含める
- 元本確定制:一定の事由により担保すべき元本が確定
具体例
【設例】商品継続供給契約における根譲渡担保権
A社(卸売業者)がB社(小売業者)に継続的に商品を供給する取引において、A社がB社の将来の売掛債権に根譲渡担保権を設定するケース。
- 担保対象:B社の継続的な商品販売から生じる売掛債権
- 極度額:1,000万円
- 債権の範囲:商品売買取引から生じる一切の債権
この設定により、A社は継続的な商品供給に対する代金債権を包括的に担保できます。

根譲渡担保権の設定と債権の範囲
ここでは、根譲渡担保権の設定方法と担保する債権の範囲について説明します。
根譲渡担保契約の締結(第13条)
譲渡担保新法第13条では、根譲渡担保契約を締結できることを明確化しています。
譲渡担保契約は、債務者との間に生ずる一定の範囲に属する不特定の債権を担保するためにも締結することができる。
譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律第13条
根譲渡担保権の行使範囲(第14条)
根譲渡担保権者は、以下の債権について根譲渡担保権を行使できます。
行使可能な債権:
- 確定した元本
- 利息
- 違約金
- 根譲渡担保権の実行の費用
- 債務の不履行によって生じた損害の賠償

ただし、極度額の定めがある場合は、当該極度額が上限となります。
債権の範囲及び債務者の変更(第15条)
元本確定前の変更
元本の確定前においては、以下の変更が可能です。
- 被担保債権の範囲の変更
- 債務者の変更
利害関係者の承諾
極度額の定めがない場合の変更には、利害関係を有する者の承諾が必要です。
【設例での変更例】
前述のA社・B社の例で、当初は商品売買債権のみを担保対象としていたが、元本確定前にリース債権も担保対象に追加する場合
- 変更内容
担保対象を「商品売買取引から生じる債権」から「商品売買取引及びリース取引から生じる債権」に拡大 - 手続き
極度額の定めがない場合は利害関係者の承諾が必要
根譲渡担保権の変更・譲渡
ここでは、根譲渡担保権の極度額変更、譲渡、共有について説明します。
極度額の変更等(第16条)
根譲渡担保契約の締結後における極度額に関する変更には、利害関係を有する者の承諾が必要です。
変更が必要な承諾を要する事項
- 極度額の新設
- 極度額の変更
- 極度額の定めの廃止
元本確定期日の定め(第17条)
確定期日の設定・変更
根譲渡担保権の担保すべき元本について、確定すべき期日を定め、又は変更することができます(1項)。
期日設定の制限
確定期日は、これを定め、又は変更した日から5年以内でなければなりません(3項)。
根譲渡担保権の譲渡(第21条・第22条)
全部譲渡
元本の確定前において、根譲渡担保権者は根譲渡担保権設定者の承諾を得て、根譲渡担保権(極度額の定めがあるものに限る)を譲り渡すことができます(22条1項)。
分割譲渡
根譲渡担保権を二個の権利に分割して、譲り渡すことも可能です(22条2項)。
一部譲渡
根譲渡担保権の一部譲渡(譲渡人が譲受人と根譲渡担保権を共有するため、これを分割しないで譲り渡すこと)も可能です(22条)。
A社が保有する根譲渡担保権(極度額1,000万円)を、C銀行に500万円分譲渡する場合
- 分割譲渡
根譲渡担保権を500万円ずつ2つに分割し、一方をC銀行に譲渡 - 一部譲渡
A社とC銀行が根譲渡担保権を共有(持分はA社500万円、C銀行500万円)
根譲渡担保権の共有(第24条)
根譲渡担保権の共有者は、それぞれその債権額の割合に応じて弁済を受けます。
ただし、元本の確定前に異なる割合や優先順位を定めることも可能です。
根譲渡担保権の元本確定
ここでは、根譲渡担保権における元本確定の仕組みについて説明します。
元本確定の意義
元本確定とは、それまで変動していた被担保債権の範囲や額が固定されることです。
元本が確定すると、その後に発生した債権は根譲渡担保権の担保対象とならなくなります。
元本の確定請求(第25条)
設定者からの確定請求(1項)
根譲渡担保権設定者は、根譲渡担保契約に基づく財産の譲渡の時から3年を経過したときは、担保すべき元本の確定を請求できます。
この場合、担保すべき元本は、その請求の時から2週間を経過することによって確定します。
権利者からの確定請求(2項)
根譲渡担保権者は、いつでも担保すべき元本の確定を請求できます。
この場合、担保すべき元本は、その請求の時に確定します。
元本の確定事由(第26条)
以下の場合には、根譲渡担保権の担保すべき元本は確定します。
主な確定事由は以下の通りです。
担保権の実行等(第1号・第2号)
- 譲渡担保財産について強制執行、担保権の実行等を申し立てたとき
- 譲渡担保財産に対して滞納処分による差押えをしたとき
第三者による差押え等(第3号)
- 譲渡担保動産に対する強制執行による差押などがあったことを知った時から2週間経過
担保権の実行開始(第5号・第9号・第10号)
- 帰属清算の通知又は処分清算譲渡をしたとき
- 債権を目的とする根譲渡担保権において債務の履行を請求したとき
相続(第13号)
- 根譲渡担保権者又は債務者について相続が開始したとき
破産手続き開始の決定(第14号)
- 債務者又は根譲渡担保権設定者が破産手続開始の決定を受けたとき
【設例での具体例】
A社・B社の例で、B社が破産手続開始の決定を受けた場合
- 確定事由
債務者(B社)の破産手続開始決定(第26条第1項第14号) - 効果
根譲渡担保権の元本が確定し、それ以降に発生する債権は担保対象外
→A社は確定した債権額について根譲渡担保権を実行可能
まとめ
根譲渡担保権は、継続的な取引関係において極めて有用な担保制度として、譲渡担保新法により明文化されました。
根譲渡担保権の活用により、継続的な取引関係における資金調達の円滑化と債権保全の両立が可能となります。

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