【実務への影響を徹底解説】債権譲渡担保権の実行の法制化とその流れとは?

債権譲渡担保権の実行については、これまで明文の規定がなく、判例と実務慣行に依存していました。
令和7年5月30日に成立し同年6月6日に公布された譲渡担保新法により、債権譲渡担保権の実行手続きが明文化されました。
新法では、従来の直接取立てに加えて帰属清算方式・処分清算方式が整備され、集合債権譲渡担保については予告通知制度が新設されています。
これにより債権譲渡担保権の実行に関する法的安定性が向上し、実務の統一が図られることになります。
新法は公布から2年6月以内に施行される予定です。
従来の債権譲渡担保実行制度とその課題
ここでは、新法制定前の債権譲渡担保権実行の状況と、明文化で変化する部分について解説します。
従来の実行方法と特徴
債権譲渡担保権は、抵当権等とは異なる独自の特徴を有しています。
簡便な実行手続き
債権譲渡担保権の実行は、裁判所の関与を必要とせず、担保権者が独自に行うことができました。売掛金等を目的とする場合、担保権者が第三債務者に対して直接支払いを求めることで、迅速な債権回収が可能でした。
当事者間の合意による柔軟性
法定の手続きが存在しなかったため、担保権者と設定者の合意により、個別事案に応じた実行方法を選択できました。
明文規定欠如による問題点
一方で、明文規定の不存在は以下の問題を生じていました。
手続きの統一性欠如
実行手続きや通知内容について統一的な基準が存在せず、担保権者によって異なる対応がなされる状況が生じていました。
法的安定性の不足
特に集合債権譲渡担保権において、設定者の取立て権の範囲や実行時期について解釈が分かれ、当事者間の紛争要因となることがありました。
第三債務者保護の不明確性
第三債務者が債務を免れるための要件や、弁済の相手方について明確な法規定がありませんでした。
新法による制度整備
譲渡担保新法は、これらの課題に対して包括的な解決を図っています(法92条~95条)。
手続きの法定化
債権譲渡担保権の実行について、法律により統一的な手続きが定められました。
これにより、当事者間の合意による柔軟な対応は制限される一方、法的予測可能性が向上しています。
当事者保護の強化
設定者の清算金請求権や第三債務者の保護について明文規定が設けられ、各当事者の権利義務関係が明確化されました。
新法における債権譲渡担保権実行の枠組み
新法では、債権譲渡担保権の実行について体系的な規定が整備されています。
実行要件と基本原則
実行の前提条件
債権譲渡担保権の実行は、被担保債権について不履行があることが前提となります(法92条1項)。
清算義務の明文化
全ての実行方式において、担保権者が受けた利益が被担保債権額を超過する場合の清算義務が明文で規定されています。
実行方式
新法では、債権譲渡担保権について以下の実行方式が規定されています。
直接取立て(法92条1項)
従来の実務で用いられていた方法を確認的に規定したものです。担保権者が第三債務者から直接債権を回収する方式であり、債権の性質上、物理的な移転を伴わないため効率的な実行が可能です。
帰属清算方式(法93条、法60条)
動産譲渡担保権の規定を準用し、担保債権を担保権者に帰属させる方式です。通知から2週間経過時に清算が完了し、債権の評価額と被担保債権額の差額について清算金の支払いが行われます。
処分清算方式(法93条、法61条)
担保権者が担保債権を第三者に譲渡し、その対価をもって被担保債権の回収に充てる方式です。期限未到来の債権や回収困難な債権について、市場価格での処分により適正な価格での実行が期待されます。
集合債権譲渡担保権の規定
集合債権譲渡担保権については、以下の規定が設けられています。
集合債権譲渡担保権の定義と設定者の取立て権(法53条1項)
新法では、債権の発生年月日の始期及び終期、発生原因その他の事項を指定することにより、将来において属する債権を含むものとして定められた範囲(債権特定範囲)によって特定された債権を一体として目的とする債権譲渡担保契約を集合債権譲渡担保契約として定義しています。
そのうえで、集合債権譲渡担保契約に債権特定範囲に属する債権を取り立てることができる旨の定めがある場合、設定者は当該債権を取り立てることができると規定しています(法53条1項)。
これにより、担保権設定後も設定者は売掛金等の回収を継続でき、通常の事業活動を維持しながら担保を活用することが可能となります。
予告通知制度(法94条)
被担保債権の不履行発生後、担保権者は設定者に対して以下のいずれかの実行を行う旨を通知できます。
- 特定範囲所属債権の直接取立て
- 帰属清算の通知
- 処分清算譲渡
この予告通知により、設定者は債権特定範囲に属する債権の取立てができなくなります。
第三債務者への対抗(法94条ただし書)
設定者の取立て権制限を第三債務者に対抗するには、第三債務者への通知が必要です。
これにより、第三債務者は通知前の設定者への弁済について保護されます。
固定化制度の相違点
集合債権譲渡担保権には、集合動産譲渡担保権の固定化制度(法66条2項・3項)に対応する規定がありません。
これは、債権の継続的発生という性質を考慮したものであり、予告通知後も新規発生債権に担保権の効力が及び続けます。
まとめ
令和7年5月30日に成立し同年6月6日に公布された譲渡担保新法により、債権譲渡担保権の実行制度が整備されました。

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