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弁護士法人ネクスパート法律事務所

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譲渡担保・所有権留保の新ルール―動産譲渡担保権の実行の法制化とその流れとは?

動産譲渡担保権の実行は、これまで判例法理に依存していましたが、令和7年5月に成立した「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(譲渡担保新法)によって明文化されました。
従来は帰属清算方式と処分清算方式という2つの方法が実務で用いられていましたが、手続きの詳細や通知の内容が不明確でした。
新法では実行手続きの流れ、通知の記載事項、清算金の支払い義務などが具体的に規定され、法的安定性が向上しています。

今回は、新たに成文化された譲渡担保権の実行手続きについて、従来の実務からの変更点と新法での具体的な流れを解説します。

目次

新法制定前の実務について

ここでは、従来の動産譲渡担保権の実行に関する実務慣行と新法での変更点について説明します。

今までの担保実行の特徴

動産譲渡担保権の実行は、従来から以下の特徴を有していました。

  • 裁判手続きを経ずに簡易迅速な実行

    動産譲渡担保権は、抵当権などとは異なり、裁判所による競売手続きを経ずに実行できる担保権でした。
    この特徴により、債権者は迅速な回収を図ることができ、債務者も長期間の法的手続きを避けることができました。
  • 柔軟な実行方法

    担保権者と設定者の合意により、実行方法を柔軟に定めることができました。

今までの回収方法

動産譲渡担保の実行方式

従来の実務では、以下の2つの方式が一般的に用いられていました。

  • 帰属清算方式

実行通知により担保権者が目的物の確定的な所有権を取得し、目的物の評価額をもって被担保債権の弁済に充てる方式です。
担保権者が目的物を取得し、その価値で債権回収を図ります。

  1. 処分清算方式

実行通知により担保権者が目的物の確定的な所有権を取得した後、目的物を第三者に売却して被担保債権の弁済に充てる方式です。市場価格での売却により、より適正な価格での回収が期待できます。

新法での変更点

譲渡担保新法では、帰属清算方式と処分清算方式、実行通知の内容等を成文化しました。

新法の制定により、法定された実行手続きや実行通知の内容以外の方法を独自に定めることはできなくなります。これにより手続きの統一が図られる一方で、当事者の合意による柔軟な対応には制約が生じることになります。

新法での実行手続きの流れ

ここでは、譲渡担保新法における動産譲渡担保権の実行手続きについて、具体的な流れを説明します。

動産譲渡担保権の実行要件

実行が可能となる場合

動産譲渡担保権の実行は、動産譲渡担保権の被担保債権に不履行があるときに可能となります(法60条61条)。

設定者の協力義務

動産譲渡担保権の被担保債権について不履行があった場合において、動産譲渡担保権者が帰属清算の通知又は処分清算譲渡に必要な行為をしようとするときは、動産譲渡担保権設定者は、これを拒むことができません(法63条)。

必要な行為とは、動産の種類、数量、状況の調査などが含まれます。

実行手続きの具体的フロー

被担保債権の不履行発生

まず、被担保債権について不履行が発生します。

  1. 集合動産譲渡担保の場合の予告通知

    集合動産譲渡担保権の場合には、清算通知の前に設定者に予告通知をする必要があります(法66条1項)。
    具体的には、集合動産譲渡担保権の被担保債権について不履行があった場合において、集合動産譲渡担保権者が帰属清算の通知又は処分清算譲渡をしようとするときは、その旨を集合動産譲渡担保権設定者に通知しなければなりません。
  1. 実行対象動産特定範囲の固定化

    予告通知が設定者に到達したら、実行対象動産特定範囲として固定化され、設定者が動産を処分できなくなります法66条3項)。
    予告通知が集合動産譲渡担保権設定者に到達したときは、当該集合動産譲渡担保権設定者は、従来の処分権限の規定にかかわらず、実行対象動産特定範囲に属する動産の処分をすることができません。
  1. 将来加入動産への効力制限

    予告通知到達以後に特定範囲に属した動産があったとしても、譲渡担保権の効力は及びません(法66条2項)。
    ※予告通知をした集合動産譲渡担保権者が有する集合動産譲渡担保権及び当該集合動産譲渡担保権に競合する集合動産譲渡担保権は、当該通知が集合動産譲渡担保権設定者に到達した後に実行対象動産特定範囲に属するに至った動産には及ばないこととされています。
    この規定は強行法規であり、特約でも排除できません(法66条6項)。

帰属清算の通知または処分清算

  1. 帰属清算の通知の場合

    動産譲渡担保権者は、以下の事項を通知します(法60条1項)。
  • 譲渡担保動産をもって被担保債権の弁済に充てること
  • 帰属清算時における譲渡担保動産の見積価額及びその算定根拠
  • 帰属清算時における被担保債権の額

被担保債権は、帰属清算の通知の日から2週間を経過した時又は担保権者が譲渡担保動産の引渡しを受けた時のいずれか早い時(帰属清算時)に、帰属清算時における譲渡担保動産の価額の限度において消滅します。

  1. 処分清算の場合

    動産譲渡担保権者が第三者に対して譲渡担保動産の譲渡(処分清算譲渡)をした場合、以下の事項を設定者に通知します(法61条2項)。
  • 処分清算譲渡をしたこと
  • 処分清算時における譲渡担保動産の見積価額及びその算定根拠
  • 処分清算時における被担保債権の額

被担保債権は、通知の日から2週間を経過した時又は担保権者若しくは処分清算譲渡を受けた第三者が譲渡担保動産の引渡しを受けた時のいずれか早い時(処分清算時)に、処分清算時における譲渡担保動産の価額の限度において消滅します。

記載事項の不備による効力への影響

上記の記載事項に不備があると、通知の効力を生じません。正確な記載が必要です。(60条、61条)

清算金の支払い

帰属清算金の支払い

動産譲渡担保権者は、帰属清算時における譲渡担保動産の価額が帰属清算時における被担保債権の額を超えるときは、その差額に相当する金銭(帰属清算金)を動産譲渡担保権設定者に支払わなければなりません(法60条4項)。

処分清算金の支払い

同様に、処分清算時における譲渡担保動産の価額が処分清算時における被担保債権の額を超えるときは、その差額に相当する金銭(処分清算金)を動産譲渡担保権設定者に支払わなければなりません(法61条5項)。

第三者への対抗

設定者が動産譲渡担保権当初設定者から権利の譲渡を受けた者である場合、担保権者は当初設定者に対する清算金支払いの債務の弁済等をもって設定者その他の第三者に対抗することができます。

まとめ

令和7年6月6日に成立した譲渡担保新法により、動産譲渡担保権の実行手続きが明文化されました。

新法のポイントは以下のとおりです

  • 帰属清算方式と処分清算方式の法定化
  • 実行通知の記載事項の明確化
  • 集合動産譲渡担保権の予告通知制度の導入
  • 実行対象動産特定範囲の固定化
  • 清算金支払い義務の明文化
  • 手続きの統一による予測可能性の向上

これにより、動産譲渡担保権の実行手続きが標準化され、実務上の混乱が解消されることが期待されます。
一方で、従来の柔軟な実行方法は制約を受けることになります。

事業者の方が動産譲渡担保を利用される際は、新法の実行手続きを十分に理解し、適切な契約条項の設定を行うことが重要です。法的な判断が必要な場合は、弁護士にご相談することをお勧めします。

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