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弁護士法人ネクスパート法律事務所

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【後編】あなたの会社のその情報、「営業秘密」ですか?〜不正競争防止法の「営業秘密」とは〜

前編の記事では、「営業秘密」として法的に保護されるための3つの条件のうち、最も重要な「秘密管理性」について解説しました。厳重な管理体制を築くことは、情報保護の絶対的な土台です。

しかし、いくら厳重に管理していても、その情報自体に「価値」がなければ、法律上の「営業秘密」とは認められません。

今回の後編では、残る2つの条件である「有用性」と「非公知性」に焦点を当て、どのような性質の情報が保護の対象となるのか、その具体的な範囲と判断基準を掘り下げて解説します。

目次

条件2:有用性 ― 事業に「役立つ」客観的な価値があるか

不正競争防止法が保護する営業秘密は、「事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」でなければなりません。

これは、その情報が

客観的に見て、企業の事業活動にとって何らかの役に立つ価値を持っていること

を意味します。

保有者が主観的に「これは価値がある」と思っているだけでは足りず、その情報が企業の財やサービスの生産、販売、研究開発に役立つ、あるいは経営効率の改善に繋がる、といった客観的な価値が求められます。

「有用性」が認められる情報の具体例

有用性が認められる情報は「技術上の情報」と「営業上の情報」に大別されます。

  • 技術上の情報:
    • 製造・生産に関する情報:
      • 製品の設計図、仕様書、金型のデータ
      • 化学物質の配合レシピ、調合データ
      • 効率的な製造プロセス、製造ノウハウ、品質管理基準
    • 研究開発に関する情報:
      • ソフトウェアのソースコード、アルゴリズム
      • 研究開発段階の実験データ
      • 「失敗した実験のデータ」(これを参照することで、無駄な投資を回避し、研究開発費を節約できるため、有用性が認められます)
  • 営業上の情報:
    • 顧客に関する情報:
      • 詳細な顧客リスト(単なる社名リストではなく、担当者名、取引履歴、交渉の経緯、キーマン情報などが付随し、営業活動に直接役立つもの)
      • クレーム対応履歴(顧客満足度向上や製品改善に繋がるため)
    • 販売・マーケティングに関する情報:
      • 効果的な販売マニュアル、営業トークスクリプト
      • 広告戦略、プロモーション計画、効果測定データ
      • 新規事業計画、市場調査データ
    • 財務・経営に関する情報:
      • 詳細な原価情報、仕入先リスト、価格交渉の記録
      • 未公開の財務諸表、資金調達計画

注意!「有用性」が認められない情報

一方で、その情報の内容が

公序良俗に反するような反社会的なものである場合、法律上の保護に値しないため、「有用性」が否定されます。

  • 有用性が否定される例:
    • 脱税のノウハウ、粉飾決算の手口
    • 有害物質の違法な排出データやその隠蔽方法
    • 談合に関する情報
    • 麻薬など禁制品の製造方法

過去の裁判例では、公共工事の入札に関わる非公開の単価情報が争点となったケースで、裁判所は「公正な入札手続を通じて適正な受注価格が形成されることを妨げるものであり、公共の利益に反する」として、その情報の有用性を否定し、営業秘密には該当しないと判断しました。

条件3:非公知性 ― 世の中に知られていない状態か

最後の条件は、その情報が「公然と知られていない」こと、すなわち「非公知性」です。これは、その情報が保有者の管理下以外では、一般的に入手できない状態を指します。

「非公知性」の具体的な判断基準

刊行物やインターネットでの公開

自社のウェブサイト、会社案内、製品カタログ、ニュースリリース、学会誌、新聞・雑誌などで既に公開されている情報は、非公知性の要件を満たしません。

特許法上の「新規性」との違い

特許出願においては、守秘義務を負わない不特定多数のうちの誰か一人でも知れば「公知」となり、新規性が失われる可能性があります。

一方、営業秘密における非公知性は少し解釈が異なります。例えば、取引先や共同研究先など、

社外の人間がその情報を知っていたとしても、その相手方が秘密保持契約(NDA)などによって守秘義務を負っている限り、非公知性は維持されます

リバースエンジニアリングでどこまで分かるか

市場で販売されている製品を分解・解析してその構造や仕組みを調べる「リバースエンジニアリング」は、それ自体が不正な手段とはみなされません。

しかし、その解析に

専門家による多額の費用と長時間の分析が必要なほど極めて困難である場合、その製品からしか得られない情報であっても「容易に知ることができない」として、非公知性が認められることがあります。

情報の「組み合わせ」という価値

営業秘密を構成する個々の情報(例えば、ある部品の仕様や材料など)が、それぞれ単体では公知の情報であったとしても、

それらを「どのように選び、組み合わせ、最適化するか」というノウハウ自体に独自の価値があり、その組み合わせ方が公知でなければ、情報全体として非公知性が認められる可能性があります。

まとめ:自社の「情報資産」を「営業秘密」として守り抜くために

これまで2回にわたり、不正競争防止法における「営業秘密」の保護要件について解説してきました。最後に、3つの条件を改めて確認しましょう。

  1. 秘密管理性: 最も重要。会社が「秘密である」という意思を客観的に示すための具体的な管理措置を講じているか。
  2. 有用性: 技術上・営業上、客観的に事業の役に立つ価値のある情報か。(ただし、違法・反社会的な情報を除く)
  3. 非公知性: 会社の管理下以外では一般的に入手不可能な、世間に知られていない情報か。

これらの3つの条件をすべて満たして初めて、あなたの会社の大切な情報は法的な保護を受けられる「営業秘密」となります。

自社の競争力の源泉となっているノウハウやデータは何かを棚卸しし、それが「営業秘密」の3要件を満たしているか、そして万全の管理体制が敷かれているかを、ぜひこの機会に見直してみてください。日々の地道な管理こそが、見えざる企業価値を守るための最も確実な一歩となるのです。

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