【弁護士解説】突然のアカウント削除!プラットフォームの出店停止にどう対応する?

Amazonや楽天市場のようなインターネットショッピングモール、アプリストアなどのデジタルプラットフォームは、多くの事業者にとって重要な販売チャネルです。しかし、プラットフォーム運営者から一方的に出店停止やアカウント削除の処分を受け、事業継続が困難になるケースも発生しています。
このような状況に対応するため、経済産業省が改訂した「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(令和7年2月版)では、「デジタルプラットフォームにおける約定解除権の行使」(I-8-7)という項目が新たに追加されました。
本記事では、弁護士の視点から、この新しい規定の内容と、プラットフォームから出店停止等の処分を受けた場合に事業者がどのような主張をできる可能性があるのかを解説します。

出典:「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(令和7年2月版)
電子商取引及び情報財取引等に関する準則について
「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」を改訂しました|経済産業省
デジタルプラットフォームにおける出店停止・アカウント削除の問題点
ここでは、プラットフォーム事業者による出店停止やアカウント削除が、出店者にとってどのような問題を引き起こすかについて説明します。
プラットフォーム事業者は、利用規約に基づき、規約違反などを理由に出店者のアカウントを停止したり、削除したりすることがあります。これは、プラットフォーム上の取引の安全性を確保し、健全な環境を維持するために必要な措置である側面もあります。
しかし、出店者にとっては、アカウントを削除されると当該プラットフォームでの販売が一切できなくなり、売上の喪失や顧客離れにつながるなど、事業に深刻な影響が出ます。特に、特定のプラットフォームへの依存度が高い事業者にとっては、死活問題にもなりかねません。
問題は、このような重大な処分が、合理的な理由なく、あるいは不適切な手続で行われるケースがあることです。今回の準則改訂では、このような場合の出店者の権利保護に関する考え方が示されました。
出店停止・アカウント削除の法的根拠と有効性
ここでは、プラットフォーム事業者が出店停止等を行う根拠と、その有効性が問題となるケースについて説明します。
出店停止やアカウント削除は、法的にはプラットフォーム利用契約における事業者側の債務履行拒絶や契約解除にあたります。したがって、これらの処分を行うためには、利用規約等に出店停止事由やアカウント削除事由(約定解除権)が明確に定められ、それが契約内容として有効である必要があります。
しかし、利用規約の定め方や運用によっては、処分の有効性が争われる場合があります。
包括的な解除条項の問題
利用規約には、具体的な禁止事項を列挙した上で、「その他当社が不適切と判断した場合」や「その他前各号に準じる場合」といった包括的な条項が設けられていることがよくあります。
しかし、このような曖昧な条項を根拠に、具体的に列挙された事由からは通常想定できないような理由で処分が行われた場合、その条項の有効性自体が問題となる可能性があります。
特に、多数の出店者に画一的に適用される利用規約は民法上の定型約款に該当することが多く、このような包括条項は、「信義則に反して相手方の利益を一方的に害するもの」として、契約内容から排除される(合意しなかったものとみなされる)可能性があります(民法第548条の2第2項)。
また、定型約款に該当しない場合でも、一方的に有利な解除権の行使は権利濫用(民法第1条第3項)として無効になる可能性もあります。
したがって、出店停止の理由となった事実が、「その他各号に準じる場合」であった場合、具体的に列挙された事由と同程度に重大なものと評価できない限り、処分が無効であると主張できる可能性があります。
適正な手続の必要性
ここでは、出店停止等の処分を行う際に求められる手続について説明します。
出店停止やアカウント削除は出店者にとって極めて不利益が大きい処分です。そのため、準則では、プラットフォーム事業者は処分を行う際に適正な手続を経ることが求められる、との考え方を示しています。
利用規約に手続規定がある場合
利用規約に処分の際の手続(事前通知、弁明機会の付与など)が定められている場合、事業者はその手続を遵守しなければなりません。定められた手続を経ずに行われた処分は、契約違反として無効となる可能性があります。
利用規約に手続規定がない場合
利用規約に手続の定めがない場合でも、処分の重大性に鑑み、プラットフォーム事業者は一般に適正と評価される手続(事実確認、処分理由の説明、弁明機会の付与など)を経るべきとされています。
ただし、出店者の規約違反の内容が極めて悪質で、プラットフォーム事業者との信頼関係を完全に破壊するような場合には、例外的に手続を経ない解除も認められる余地があるとされています。
したがって、理由説明や弁明機会がない場合は、出店者の違反内容が極めて悪質な場合を除き、処分が無効であると主張できる可能性が高いといえます。
裁判による救済手段
ここでは、出店停止等の処分を受けた場合の法的な対抗手段について説明します。
プラットフォーム事業者が処分の撤回に応じない場合、出店者は裁判所に救済を求めることが考えられます。
通常の訴訟(地位確認請求や損害賠償請求)では解決までに時間がかかり、その間の事業への影響が大きい場合があります。特に、代替手段の少ない有力なプラットフォームからの排除は深刻です。
そこで、より迅速な解決を図る手段として、仮処分の申立てが考えられます。具体的には、契約上の地位を保全するための仮処分(仮の地位を定める仮処分)を申し立て、出店停止処分が無効であり、プラットフォームを利用する契約上の地位が依然として存在することの確認を求める方法です(民事保全法第23条第2項)。
仮処分が認められるためには、被保全権利(契約上の地位)の存在や保全の必要性などを裁判所に疎明する必要があります。
まとめ
今回の準則改訂により、デジタルプラットフォームにおける出店停止やアカウント削除に関して、適正な手続の保障や利用規約の包括的な解除条項の有効性についての考え方が示されました。
プラットフォーム事業者にとっては、利用規約の整備や処分の際の手続運用について、より慎重な対応が求められます。
一方、出店者にとっては、不当な処分を受けた場合に、準則の考え方を根拠にその有効性を争う道が開かれました。
プラットフォームからの出店停止やアカウント削除でお困りの場合は、契約内容や経緯を整理の上、早めに弁護士にご相談いただくことをお勧めします。