会社を設立する時の資本金について

会社を設立する際に、資本金の金額をいくらにするのか考えることがあります。
この記事では、資本金の意味や金額の決め方、使用や増資に関する知識をご説明します。会社を設立する際の参考にしていただければ幸いです。
会社設立における資本金とは
資本金とは、会社を運営するための元手・運転資金のうち、返済する必要のないお金のことをいいます。
会社設立のため集めた資金・スタート時のお金
株式会社においては、会社が発行した株式と交換に払い込まれたお金です。合同会社においては、発起人が出資したお金のことを資本金といいます。
株式会社でも、創業当初から広く株主を集めることは難しいため、最初は創業者がすべての株を引き受け、自己資金で設立することがほとんどです。
会社の体力・規模を示す
資本金は1円からでも設立できることになりましたが、会社を設立登記するためにも費用がかかります(株式会社であれば25万円程度)。
事業所を借りる場合には賃貸借契約に必要な初期費用や、広告宣伝費等も必要でしょう。
資本金は会社を運営するための資金なので、資本金が多ければ会社の資金繰りは楽になりますし、資本金が少ない会社は体力が無い、規模が小さいとみられますので、融資を集めにくくなります。
会社の財産・事業を行うための元手
資本金は事業を行うための元手なので、設立後しばらく売り上げが入ってこなくても持ちこたえられるだけの金額が必要です。
具体的には、数か月間の事業所の賃料、設備投資や仕入れ、広告宣伝費、従業員の給与等を支払えるだけの金額が必要です。
会社設立における資本金の金額の決め方
それでは、会社設立時の資本金の金額は、一体どのようにして決めればよいのでしょうか?
以下、金額を決めるためのポイントをみていきましょう。
設立費用等の諸費用を考慮して決める
会社を設立するためには法務局に登記をする必要があります。株式会社の場合には、定款の認証も必要です。これらの初期費用として、株式会社の場合およそ25万円、合同会社の場合およそ11万円が必要です。
その他、印鑑作成費用や広告宣伝費、事業所の賃料、設備投資等、それぞれの会社によって必要な費用が違います。
少なくとも初期費用はすべて自己資金で賄えるようにしたほうが会社の信用度が下がらずにすみます。
運転資金・予算を考慮して決める
設立後すぐに売り上げが入ってくることはあまりありません。通常、最初の売り上げが入金されるまで最低2~3か月かかります。
その間事業を継続できるようにしなければなりません。融資に頼ることもできますが、借入れとなってしまいますので、借入れしなくて済むように設立から半年程度の運転資金を加味した資本金を設定したほうがよいでしょう。
信用度の必要性に応じて決める
資本金は、会社の体力であり、信用でもあります。資本金が少ない会社とは取引をしないと決めている企業もあります。会社との取引を前提としている場合には、ある程度の資本金が必要です。
資本金が少ない場合、金融機関に融資を申し込んでも、断られるケースがあります。お金を返してもらえるかどうかの判断材料の1つとなるからです。
資本金は他の会社が信用度をはかるためのものでもあるので、ある程度の金額を計上する必要があります。
節税を意識して決める
会社を設立する際の資本金の額を決めるうえで、重要な要素として節税があります。
資本金が1000万円以上の場合、課税事業者に認定され、初年度から消費税を納めなければなりません。
資本金が1000万円未満の場合には、初年度は消費税が免除されますし、2期目も、前半の課税売上高および人件費が1000万円未満であれば、免除されます。
法人は法律が人と認めた団体なので、人として、法人住民税を支払わなければなりません。資本金が1000万円を超えるか超えないかで、法人住民税の額が変わって来ます。
資本金の額が1000万円以下の場合には、納める法人住民税は最も低い7万円ですが、1000万円を超えると倍以上になってしまいます。
法人住民税は、企業が赤字でも必ず支払わなければなりません。赤字の企業にとってこの違いは非常に大きいです。
口座開設および融資の必要性に応じて決める
金融機関に口座を開設する時にも注意が必要です。金融機関によっては、資本金の額が低すぎると口座を開かせてもらえないことがあります。
銀行から融資を受けるときには、審査に通ることが必要ですが、融資の審査の際、資本金の額を見られます。
会社設立時の資本金払込方法
会社を設立する時には、資本金の払い込みと、払い込みの証明が必要です。しかし、会社設立前は、会社名義で口座を作ることはできません。
以下、資本金の払込方法を解説します。
発起人の個人名義の口座
発起人のうちの1人の個人名で銀行口座を用意します。新しく開設する必要はなく、普段使っている口座に資本金を振り込んでかまいません。
株式会社の場合、資本金を払い込むタイミングは、定款が認証された日以降です。法務局によっては定款作成日以降というところもあります。いずれにしても、定款を作成する前に払い込んでも、資本金と同額の預金があっても、資本金の払込とはみなされません。
通帳の写し
資本金を振り込んだことを証明します。いつ、誰が、いくら降り込んだのかが重要です。発起人が数人いる場合、代表者を決め、その発起人の口座に代表者である発起人も含めて全員が、各自が引き受けた金額を振り込みます。
通帳の写しを撮ります。すべて見開きで、A4で撮りましょう。
- 表紙・裏表紙
- 口座名義等の情報が記載されているページ
- 資本金振り込まれたことがわかるページ
上記写しを使い払込証明書を作成し、設立登記申請の時に提出します。
会社設立後の資本金の使用や増資について
会社を設立する時に資本金を払い込みますが、ここでは資本金の使用に関する疑問と、資本金の増資に関する疑問にお答えします。
資本金の使用について
使って良いか?
設立後も資本金はそのまま手を付けずに残しておかなくてはならないのでしょうか?あるいは使っても良いのでしょうか?
答えは、「使ってよい」です。
そもそも資本金とは、会社を運営するための元手、運転資金です。その目的の範囲内、つまり事業の為であれば何にでも使うことができます。
使うタイミングおよび何に使うか
では、いつ、どんなことに使ってよいのでしょうか?
資本金をきちんと払い込んだ事実が確認できればよいので、払込後すぐに事業所の家賃を支払ってもかまいませんし、設立登記費用に使ってもかまいません。
発起人の口座から会社の口座へ移動する金額
資本金は、会社に「一定の財産があることを証明するものではない」ので、会社設立前に資本金を使った場合、設立後に会社の口座へ移動するのは、残りの金額だけでよいということになります。
当然、何につかったかがわかる領収書等は必要です。
資本金の増資について
そもそも、資本金を一度決めたあとに増やしたり減らしたりすることが出来るのか?という疑問がありますが、会社設立後に資本金の額を変更することは可能です。
以下、増資について見ていきましょう。
増資のメリット
増資の主なメリットは、資金調達と、会社の信用度の向上です。
資金調達としての増資のメリットは、融資と違い、返済義務がないことです。
株式会社は新しい株式を発行し、新株を出資者に購入してもらう方法で、増資ができます。新株を購入した出資者が現金を会社に振込むので、会社が自由に使えますし、返済する必要のない現金が増えます。
資本金が増えると、会社の資金繰りが改善したり、会社の規模が拡大したりするので、信用度も上がります。
また、新たな出資者を獲得するということは、会社の支援者が増えるということです。新たな支援者が有力な企業である場合には、自社のブランド力も向上します。そのため大きな会社との取引がしやすくなります。
増資のデメリット
増資するためには、新株を発行してそれを購入してもらいますが、新株を購入する出資者(株主)は、それに見合った配当を期待しています。
購入に見合った配当が見込めなければ、新株を発行しても、株を購入する出資者がいない可能性もあります。その場合には、資金を集めることができず、新株発行は失敗に終わります。
資本金は登記簿謄本記載事項で、法務局で登記変更の手続きをおこなわなければなりませんので、登録免許税がかかります。
定款に発行可能な株式総数が記載されていて、それを越える場合等にも、定款の変更が必要になり、同じく登録免許税がかかります。
増資すると、方法によっては既存株主の持株割合が減るので、権利も減ります。経営者の権利も減るので、後に様々な問題が発生することも考えられます。
増資の方法
増資の方法は大きく分けて2つあります。「無償増資」と「有償増資」です。
無償増資とは
株主や投資家からの金銭の払込み以外で、資本準備金や利益余剰金を組入れたり、現物出資したりして増資する方法です。
株主が会社に出資した額が資本金となりますが、全てを資本金とする必要はなく、最大で2分の1を資本準備金にできます。
資本準備金にするメリットは、主に以下の2つです。
1.資本金と違い取り崩す手続が比較的容易なので、資金が不足したときに使いやすい
2.資本金が一定金額以上になると税制上の優遇措置を受けられなくなるので、一部を資本準備金にすることにより資本金の増加を抑制できる
積み立てておいた利益や資本準備金を資本金に組入れる方法が無償増資なので、会社の実際の現金は増えませんが、余剰利益を資本に組入れるので、税金の負担が増えないというメリットがあります。
現物出資による増資の場合にも同様のメリットがありますが、出資された現物の資産評価格の算定が難しいというデメリットがあります。
有償増資とは
有償増資には3つの方法があります。
1.株主割当増資
2.第三者割当増資
3.公募増資
それぞれ簡単に見ていきましょう。
- 株主割当増資
株主割当増資とは、既存の株主全員に、保有する株式の割合に応じて新株を購入する権利を与える方法です。
全ての株主がその権利を行使すれば株式の保有割合が変わらないので、主要株主がこれまでと変わらないというメリットがあります。しかし、新株を購入するかどうかは株主の判断に委ねられます。購入しない株主がいた場合には保有割合が変化しますし、最悪の場合には、全ての株主が購入しないという判断をすることもあります。
- 第三者割当増資
第三者割当増資とは、株主以外の「特定の第三者(株主のうちの特定の者にだけ割り当てる場合であってもこれに含まれます)」に株式を引き受ける権利を与える方法です。
取引先・金融機関・縁故者等=特定の第三者だけに募集をかけるので、不適切な相手に株式が渡らないメリットがありますが、経営者や既存の株主が保有している株式の割合が減るデメリットがあります。
- 公募増資
公募増資とは、既存の株主や特定の第三者に限らず、一般の投資家に新たな株式を取得できる権利を与える方法です。
この方法の最大のメリットは、資金を広く一般投資家から集められる点ですが、以下のようなデメリットがあります。
- どのような人物が購入するかわからない
- 経営者や既存株主が保有する株の割合が減る
- 手続に時間がかかるため急いでいる場合には適さない
既存の株主とは関係の無い第三者に対して株を売ることになり、既存株主の不利益になる可能性があります。これまでよりも有利な価格で新株を発行する場合には株主総会の決議が必要になります。
有償増資 | |||
種類 | 株主割当増資 | 第三者割当増資 | 公募増資 |
説明 | ・既存の株主全員に対して ・株式の保有割合に応じて 株式を引き受ける権利を与える |
株主以外の「特定の第三者(既存株主のうちの特定の者のみに割り当てる場合も含む)」に株式を引き受ける権利を与える | 既存の株主や特定の第三者に限らず、一般の投資家に新たな株式を取得できる権利を与える |
メリット | 株主構成に大きな変動がない 株主の議決権割合が変わらない |
取引先・金融機関・縁故者等だけに募集をかけるので、不適切な相手に株式が渡らない | 資金を広く一般投資家から集められる |
デメリット | 購入するとは限らない 納税額が変わる |
経営者や既存株主が保有する株の割合が減る 納税額が変わる |
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おおよその手続の流れ | |||
募集事項設計 出資の内容をまとめる(株主への説明事項) |
募集株式の数 募集株式の株価 募集株式の払込期間 増資によって増える資本金額 現物出資についての詳細 等 |
新株を割り当てる「第三者」 募集株式の数 募集株式の株価 募集株式の払込期間 増資によって増える資本金額 現物出資についての詳細 等 |
募集株式の数 募集株式の株価 募集株式の払込期間 増資によって増える資本金額 等 |
定款変更 (定款記載の発行株式数変更) |
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株主総会 または 取締役会 |
株主総会の特別決議で募集株式の事項を決定・公募・通知 (取締役会決議でも可) |
募集事項を取締役会決議か株主総会特別決議で決定(公開会社か非公開会社か、有利発行か否か等で要件が異なる) | 株主総会開催(議事録作成) 増資に関する決議 |
株式発行 | 申込期日の2週間前までに株主に通知 | 申込期日の2週間前までに既存株主・第三者に通知 | 有価証券届出書作成・提出 価格の決定・募集 |
出資者募集 (申込) |
株主から出資申込受付 | 第三者から出資申込受付 | 一般の投資家などからの出資申込受付 |
株主総会 または 取締役会 |
株式の割当決議(株式引受人確定)を行う | 株式の割当決議(株式引受人確定)を行う | |
通知 | 割当内容の通知(払込期間の初日の前日までに) | 割当内容の通知(払込期間の初日の前日までに) | |
出資を募る | 出資払込→新株割当 | ||
法務局で登記 | 変更登記手続(振込期日から2週間以内) | ||
登録免許税 | 登録免許税を納める:増加した資本金額×0.7%(最低金額は3万円) | ||
その他 | 税務署・県税事務所・市区町村役場への届出 | ||
株主名簿変更等 | |||
※必要書類例※ | |||
募集株式の発行内容を決議した株主総会議事録 | |||
株式の割当を行った取締役会議事録 | |||
株主リスト | |||
募集株式の引受けの申込を証する書面又は総数引受契約書 | |||
投資契約書 | |||
株式引受契約書 | |||
現物出資に関する書面 | |||
変更登記申請書 | |||
資本金の額の計上に関する証明書 |
会社設立における資本金の注意事項
会社を設立する時の資本金をいくらにするか考えるうえで、いくつかのポイントがあります。
許認可・最低資本金額の確認をする
事業のなかには、許認可が必要なものがあります。「許認可」とは、特定事業をおこなうために、行政機関から取得しなければならない許可のことですが、その許可の中に、資本金の最低額が定められているものがあります。
例えば、一般建築業では500万円、一般労働派遣業では1000万円、第一種旅行業では3000万円が必要です。
理由がなければ資本金は1000万円未満にする
資本金の金額を決めるポイントとして、資本金は1000万円未満に抑えた方が良い、といわれます。
資本金が1000万円未満の場合には、最大で最初の2年間の消費税が免除されます。厳密に言えば、自社が払う消費税よりも自社に入ってくる消費税が高くても、差額を支払わなくてよいということです。
しかし、設備投資が大きい事業の場合、自社が支払う消費税が、自社に入ってくる消費税よりも高くなる可能性があり、その場合には還付が受けられます。
設備投資が大きい事業の場合には、資本金を敢えて1000万円以上にするのも1つの手です。
また、資本金を1000万円を超える金額に設定すると、法人住民税も高くなります。1000万円以下の場合には7万円ですが、1000万円を超えると地方により金額は異なりますが、約2倍になります。
次は資本金3000万円のポイントです。資本金3000万円以下の法人で、青色申告を選択している法人は、特定中小企業者等に該当しますが、特定中小企業者等に該当すると、中小企業投資促進税制の税額控除が受けられます。
最後が、資本金1億円のポイントで、これは最大のポイントです。資本金1億円以下の法人は中小法人(大企業のグループ企業を除いた資本金1億円以下の法人)と中小企業者等(中小法人のうち、青色申告を選択している法人)に区分されますが、税制上様々な特例が受けられます。
必要に応じて資本準備金の用意をする
資本金をいくらにするか、に関連して、出資額と資本金は違うということも覚えておきましょう。
資本金を1000万円未満に抑えることで最初の2年間を節税したいけれど、出資が1000万円以上集まってしまった、そんな場合、集まった金額全てを資本金とする必要はありません。
本来、資本金は会社を運営するための元手なので、それに必要な額だけ準備してあれば問題ありません。出資額の2分の1は資本準備金に組み入れることができます。
資本金を増資・減資するためには面倒な手続が必要ですが、資本準備金の場合、より簡単な手続で取り崩して使うことができます。
不測の場合の万が一の備えとしても、資本準備金はあったほうがよいでしょう。
融資(借入金)は資本金としてはいけない
借りたお金を資本金とすることは原則的に認められていません。資本金とは、会社の資産であり、返さなくて良いお金ですが、融資(借入金)は返さなくてはいけないお金です。
ただし、会社が役員から借入れた借入金を資本金に組入れることはできます。
まとめ
以上、会社を設立する時の資本金について、資本金とはどのようなものなのか、金額を設定するときにはどのようなことを考慮に入れるべきか等、簡単にみてきましたが、なんとなくご理解いただけたでしょうか?
細かい手続等は、それぞれの専門家に相談することをおすすめします。