個人再生に反対する業者の意図は?過半数に反対された場合の対処法
個人再生は、裁判所を通じて借金を大幅に減額し、再スタートを切るための救済措置です。
しかし、この手続きは誰でも利用できるわけではなく、裁判所の許可と業者からの過半数以上の賛成が必要です。
業者の反対によって個人再生が認められない場合には、他の手続きを検討しなければならないこともあります。
この記事では、なぜ業者が個人再生に反対するのか、その理由と対処法について詳しく解説します。
目次
個人再生とは
まずは個人再生がどんな手続きなのか、改めて確認しましょう。
裁判所を通じて借金を大幅に減らす手続き
個人再生は、借金を大幅に減額し、経済的な再建を図るための法的手続きです。債務者が裁判所に申し立てを行い、裁判所の監督下で進められます。
通常、債務総額の一部(5分の1〜10分の1程度)を支払うことで、残りの借金が免除されます。例えば、5,000万円の借金が最高で500万円(90%減)まで減額されるイメージです。
この手続きは、自己破産とは異なり、必ずしも財産を処分することなく、一定の財産を残したまま債務整理を進めることができます。
特に、住宅ローン特則を利用することで、住宅を手放さずに手続きを進めることも可能なのが特徴です。
個人再生手続きの簡単な流れ
次に、個人再生手続きの流れを簡単に説明します。
- 弁護士に相談・依頼をする
- 債権者に通知を送る
- 取引履歴をもとに借金の総額を確認する
- 個人再生の申立書を作成する
- 個人再生委員と面談、手続きを開始する
- 債権者から必要書類を集める
- 再生計画案を作成、裁判所に提出する
- 再生計画案の決議(小規模個人再生のみ)
- 裁判所による認可・不認可の決定
- 手続き完了、再生計画に沿って返済開始
⑧に再生計画案の決議とありますが、ここが重要です。弁護士が作成した再生計画案について、債権者たちに決議を取ります。
ここで、半数以上が反対となると、手続きができなくなってしまいます。
再生計画案の決議を取るのは、2種類の個人再生のうち片方で、小規模個人再生(しょうきぼこじんさいせい)と呼ばれるものです。
もうひとつの給与所得者等再生(きゅうよしょとくしゃとうさいせい)の場合には、債権者の決議は取られませんので、反対されることもありません。
個人再生手続きには2種類ある
上記で触れた通り、個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生の2種類があります。
それぞれの手続きには異なる条件や特徴があるので、それぞれ紹介します。
小規模個人再生:業者が反対できる
個人再生全体のうち、9割近くが利用しているのが小規模個人再生です。収入が不安定な個人事業主やフリーランスでも利用可能な手続きです。
小規模個人再生は、給与所得者等再生と比べると、借金を大きく減額できる代わりに、債権者の半数以上の賛成を得る必要があります。
仮に、債権者の過半数が再生計画案に反対すると、再生計画案の立て直しをしたり、別の債務整理手続きを選択したりしなくてはいけません。
個人再生といったら、基本的にはこの小規模個人再生のことを指していると考えても問題はないでしょう。
給与所得者等再生:業者は反対できない
給与所得者等再生は、サラリーマンなど安定した収入がある人が利用できる再生手続きです。
小規模個人再生と比べると、借金の減額幅が小さくなるため、やや返済が大変ですが、債権者の決議を取る必要がありません。
つまり、業者から反対されるリスクなく、手続きを進めることができます。
小規模個人再生で半数以上に反対され、手続きを進められなかったケースなどで、給与所得者等再生が用いられるケースが多いです。
業者の反対で小規模個人再生が廃止となるケース
小規模個人再生は、債権者の半数以上の反対があると手続きができなくなると説明しましたが、これが具体的にどういう状況なのか、わかりやすく説明します。
反対業者の債権額の合計が過半数となる
まず、再生計画案に反対した業者が持つ債権の合計額が、借金額の半数を超えてしまうと、手続きが廃止となります。下記をご覧ください。
- A社:150万円
- B社:100万円
- C社:50万円
- D社:30万円
債務者に、上記330万円の借金があったとします。
個人再生の手続き時に、A社とB社が再生計画案に反対した場合、合計で250万円となるため、借金額の半数(165万円)を超えます。よって、再生計画案は廃止となります。
B社とC社が反対した場合には、合計で150万円となるため、借金額の半数(165万円)を超えないため、再生手続きは廃止になりません。
過半数以上の債権者が反対をする
反対する業者が抱える借金額もそうですが、反対をする業者の数も重要です。下記と別のケースで考えてみます。
- A社:150万円
- B社:50万円
- C社:50万円
- D社:30万円
計280万円の借金があったとします。ここで、B社とC社とD社が反対した場合、債権者が持つ借金額の合計は130万円となるため、半数(140万円)を超えていません。
しかし、4社のうち3社が反対をしているので、金額は半数以下ですが、反対債権者数は半分を超えている(2社以上)ため、再生手続きが廃止となります。
再生計画案が認められるには、金額と債権者数、どちらも半分以下にならなければいけないのです。
業者の不同意で手続き廃止になる確率は数%と低い
ここまでの説明で、個人再生の手続きのハードルが高いように感じた人もいるかと思いますが、実際には、そんなことはありません。
再生計画案に反対する業者は、実はあまり多くないのです。
司法統計によると、令和4年(2022年)の小規模個人再生の申立件数は9,581件、そのうち、再生手続きが不認可になったのは322件です。
つまり、小規模個人再生のうち、約97%は、債権者に反対されることなく、手続きを進めることができています。
個人再生に反対する可能性のある業者
次に、個人再生に反対する可能性のある業者や、その理由について説明します。
信用保証協会
信用保証協会は、主に中小企業の借入金に対して保証を行う機関です。
もし債務者が信用保証協会を利用している場合、個人再生を行うことで借金が減額されることになります。
この場合、信用保証協会はその減額分を補填する必要が出てきます。そのため、個人再生に反対する可能性が高いです。
また、個人再生を認めることで、債務者が負担を軽減し、信用保証協会が支払わなければならない金額が増える可能性があるため、利益を守る観点から反対することがあります。
貸金業者(消費者金融・カード会社)
消費者金融やカード会社などの貸金業者は、債務が減額されることを嫌います。当然ですが、再生手続きを通じて債務が減額されると、利益が減少するからです。
そのため、これらの業者は再生手続きに反対し、異議を唱えることが多いです。
特に高額な利息が絡む消費者金融では、利息の回収を最優先に考える傾向が強く、反対の姿勢を取ることがあります。
共済組合
共済組合は、主に団体や企業の従業員向けに提供される金融機関で、福利厚生の一環として債務を管理することがあります。
共済組合は、職場内での貸付けや福利厚生資金の返済を監督する立場にありますが、個人再生によってその債務が減額されると、共済組合にとっては資金回収が難しくなる可能性があります。
さらに、共済組合は組合員との信頼関係を重要視しているため、個人再生による影響が信頼を損なう可能性もあるため、反対することがあります。
友人・知人などの知り合い
友人や知人からの借金に関しても、個人再生に反対する理由が存在します。
返済を期待して貸したお金が、再生手続きによって減額されたり、最終的に回収できなくななったりすることに対して、不安を感じることがあります。
特に、友人や知人との関係が影響する場合は、感情的な面から反対することもあります。
貸金業者などではない一般の個人ですから、借りたお金は当然全額返ってくるもの、と考えていても不思議ではないでしょう。
個人再生に反対する業者がいる理由
次に、個人再生に反対する業者がいる理由について説明します。
前提として、再生計画案に反対した方が自分たちの利益が大きくなるようであれば反対しますし、そうでなければ反対しないでしょう。
再生計画案に反対し、個人再生手続きが廃止になると、債務者が自己破産を選択する可能性がでてきます。
そうなると、本来回収できたお金も回収できなくなってしまうので、近年では反対する業者は少なくなっています。
過半数の債権を有しているため反対する
債権者が1社だけだったり、大口の債権者が過半数の債権を有していたりする場合、その一社の意向だけで再生計画案を阻止することができます。
業者が、「ここは反対した方が自社の利益が大きくなる」と判断すれば、当然、再生計画案に反対してきます。
業者の方針として反対している
業者によっては、個人再生の手続きに反対することを方針としている場合があります。
特に消費者金融やカード会社などは、債務者が返済不能に陥る前に、過剰な借入を防ぐために積極的な取り立てを行うことがあります。
そのため、再生計画によって借金が減額されることを望まないケースが多いです。
業者は個人再生の手続きが成功した場合、収益が減少し、利益に影響が出るため、これを回避するために反対することがあります。
不正行為が疑われるために反対する
一部の業者は、債務者が不正に借入を行った場合や不正行為に関与していると考えることがあります。
例えば、借金が過剰である場合や虚偽の申告が行われている場合、業者はその債務者が正当な理由で個人再生を申し立てたとは見なさないことがあります。
このような場合、業者は債務者が意図的に返済を逃れるために個人再生を利用していると考え、再生計画案に反対することがあります。
給与所得者等再生に切り替えさせるために反対する
小規模個人再生に反対すると、債務者は自己破産に切り替えるリスクがありますが、自己破産をすると自宅を失うなどのデメリットがあります。
小規模個人再生が反対に終わったあと、給与所得者等再生に切り替えることが考えられるようなケースでは、再生計画案に反対することがあります。
給与所得者等再生の方が、借金の減額幅が小さいため、債権者はより多くの借金を回収できるからです。
業者の反対で小規模個人再生が廃止になる場合の対処法
小規模個人再生手続きにおいて、業者が再生計画案に反対し、手続きが廃止される可能性もあります。その場合、債務者は他の方法を検討する必要があります。
ここでは、業者の反対で小規模個人再生が廃止された際の対処法について説明します。
再生計画案の内容を再考する
業者が反対する理由として、再生計画案の内容が不十分である場合があります。
例えば、返済額が少なすぎるなど、業者が納得できる内容でない場合です。
このような場合は、再生計画案の内容を見直し、返済額や返済期間を調整することで業者との合意を得られる可能性があります。
再計画を立て直すことで、再生手続きを進めやすくなる場合もあるため、再度業者と協議し、調整を試みることが重要です。
給与所得者等再生に切り替える
給与所得者等再生は、安定した収入がある場合に適用される個人再生の手続きです。
この手続きでは、小規模個人再生より返済額が大きくなるものの、債権者の賛成を必要としません。
もし業者の反対で小規模個人再生が進まない場合は、給与所得者等再生に切り替えることで、再生計画がスムーズに進む可能性があります。
任意整理や自己破産に切り替える
再生計画が成立しない場合、最終的に任意整理や自己破産といった他の債務整理方法を検討することも選択肢の一つです。
任意整理は、裁判所を通さずに業者との直接交渉で返済額を減額してもらう方法であり、自己破産は全額の免除を求める手続きです。
いずれも、個人再生よりも簡便に進められる場合がありますが、信用情報に影響が及ぶため、慎重に判断する必要があります。
個人再生に反対する業者に関するよくある質問
個人再生をすると債権者は泣き寝入り?
一概に泣き寝入りとはいえません。小規模個人再生の場合、債権者の過半数が再生計画案に反対すれば、手続きを廃止させることができるからです。ただし、手続きが廃止になったあと、債務者が返済を継続(または再開)してくれるかどうかまではわかりません。
個人再生をすると後悔する?
個人再生を選択すると、生活の再建が可能になる一方、信用情報に影響を与えるため、将来の借り入れが難しくなる場合があります。
しかし、債務整理の選択肢として最も合理的な場合もあり、後悔するかどうかはその後の生活の再建次第です。
アコムや楽天カードは個人再生に反対する業者?
アコムや楽天カードは、個人再生に反対することがある業者です。
特に借入額が大きい場合、返済額の減額や免除を嫌う傾向があります。ただし、再生計画の内容によっては、業者と協議を重ねて合意する場合もあります。
まとめ
個人再生とは、借金を大幅に減額し、生活を再建する法的手続きです。
しかし、手続きを進めるには債権者の過半数の賛成が必要で、反対されると手続きが進まないこともあります。
特に小規模個人再生では、反対する業者が増えると手続きが廃止されるリスクがあります。
もし業者が反対する場合、再生計画の見直しや給与所得者等再生への切り替え、または自己破産や任意整理を検討する方法があります。
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