個人再生で生命保険の解約は不要!ただし弁済額が増額されることも?
個人再生をしても、生命保険を解約する必要はありません。
ただし、生命保険は財産として裁判所に報告する義務があります。解約返戻金の額によっては、再生計画に基づく弁済額が増額する可能性があります。
この記事では、個人再生における生命保険の取り扱いについて、以下の点を解説します。
- 個人再生では生命保険を解約する必要はない
- 解約返戻金の額によっては弁済額が増える可能性がある
- 契約者貸付を受けている場合の取り扱い・注意点
- 個人再生後の生命保険への加入について
生命保険に加入中で個人再生を検討している方は、ぜひご参考になさってください。
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個人再生をしても生命保険は強制解約されない!
ここでは、個人再生における生命保険の取り扱いについて解説します。
財産として報告義務はあるが解約の必要はない
個人再生をしても、強制的に生命保険を解約させられることはありません。ただし、債務者が加入している生命保険は、財産として裁判所に報告しなければなりません。
解約せざるを得ないケースもある
加入している生命保険契約に解約返戻金があり、その額が高額な場合には、再生計画において弁済すべき額が増える可能性があります。
収入の範囲内で返済できなくなるほど、弁済額が高額になれば、生命保険契約の解約せざるを得ないこともあります。
個人再生で弁済額が増える可能性のある生命保険の種類は?
ここでは、個人再生で再生計画に基づく弁済額が増える可能性のある生命保険の種類について解説します。
掛け捨て型の保険は弁済額に影響なし
掛け捨て型の生命保険は、途中で解約しても保険会社からお金は戻ってきません。そのため、加入している生命保険が掛け捨て型の場合は、弁済額に影響を及ぼすことはありません。
積み立て型の保険は弁済額に影響が出る可能性がある
積み立て型または貯蓄型の生命保険は、解約時に保険会社からお金が戻ってきます。この戻ってくるお金を解約返戻金といいます。解約返戻金は債務者の資産として、裁判所に報告しなければならず、その額によっては、弁済額に影響が出る可能性があります。
生命保険の解約返戻金がいくらなら弁済額が増える?個人再生の清算価値とは
ここでは、清算価値保障の原則と生命保険の解約返戻金の関係について解説します。
清算価値保障の原則とは
清算価値保障原則とは、再生計画における弁済額が、自己破産をした場合の配当額以上でならなければならないとする原則です。
財産を換価処分しない代わりに、仮に換価処分した場合に得られる金額を債権者の返済にあてるべきというルールです。
弁済額が増額されるかどうかは財産の総額による
再生計画において弁済すべき額(計画弁済総額)は、以下の基準の中で最も高い金額以上でなければなりません。
- 負債総額から算出される法定の最低弁済額
- 清算価値保証原則から算出される最低弁済額
- 可処分所得額(給与所得者等再生の場合)
例えば、小規模個人再生を申立てた人の負債総額が300万円で、預貯金が30万円、解約返戻金見込額が90万円と仮定します。
負債総額から算出される法定の最低弁済額は100万円ですが、清算価値保証原則から算出される最低弁済額は120万円(財産の合計額)となるため、再生計画において弁済すべき額は120万円以上でなければなりません。
解約返戻金が非常に高額な場合は、生命保険を解約せざるを得なくなる可能性があります。
清算価値の金額が膨らみ、債務者の収入では返済できる見込みがなければ、再生計画の履行可能性がないと裁判所に判断されるおそれがあるからです。
裁判所に再生計画を認めてもらうために、解約返戻金を取り崩して再生計画に基づく返済にあてるため、生命保険を解約しなければならないケースもあります。
解約返戻金が20万円以下なら清算価値に計上されない可能性も
裁判所の運用によりますが、解約返戻金が20万円以下(保険契約が複数ある場合は合計額が20万円以下)の場合は、清算価値に計上されない可能性もあります。
東京地方裁判所では、解約返戻金の総額が20万円以下の場合は、清算価値に含めない運用となっています。
個人再生前に生命保険を解約したら清算価値に計上されない?
ここでは、個人再生の申立て直前に生命保険を解約した場合の取り扱いについて解説します。
裁判所の運用にもよりますが、個人再生の申立直前に、生命保険契約を解約し、現金または預金に変化させた場合は、現金(預金)化される前の状態を前提に清算価値を計算するのが一般的です。
ただし、受領した解約返戻金を全債権者への平等な返済にあてた場合などは、清算価値から除外される可能性もあります。
生命保険料を家族が支払っている場合も個人再生で自分の財産として申告が必要?
ここでは、生命保険料を家族が支払っている場合の取り扱いについて解説します。
自己名義の生命保険契約はすべて申告する必要がある
個人再生では、被保険者が申立人(再生債務者)であるか否か、解約返戻金がある否かに関
わらず、申立人(再生債務者)が加入する全ての生命保険を申告する必要があります。
自己名義の生命保険の保険料を家族が支払っている場合も同様です。
家族が保険料を支払っていても、名義人である申立人(再生債務者)は、いつでも保険契約を解約し、解約返戻金を受け取れるからです。
清算価値から除外される可能性があるケース
以下の事情を全て満たす場合には、その事実を書面等で明らかにすることで、清算価値から除外される可能性があります。
- 現実に生命保険契約の手続きをした者(行為者)が契約名義人(申立人)と異なる
- 行為者が契約の効果を自己に帰属させる目的で申立人の名義を借用した
- 行為者が当該保険契約の保険料を全額負担している
- 行為者が保険証券や届出印を保管している
- 契約名義人(申立人)が当該保険契約の存在を全く認識していない
- 契約名義人(申立人)が所得税の計算上生命保険料控除を受けたことがない
- 契約明名義人(申立人)が契約者貸付を受けたことがない
個人再生における生命保険の契約者貸付の取り扱い
ここでは、個人再生における生命保険の契約者貸付の取り扱いについて解説します。
契約者貸付は債務として取り扱われない
契約者貸付は、解約返戻金の一部前払いであるため、債務として取り扱われません。
契約者貸付を利用している場合は解約返戻金額から差し引ける
契約者貸付を利用している場合、解約返戻金のうち、清算価値に計上されるのは、契約者貸付にかかる借入金を控除した金額となります。
契約者貸付利用時の注意点
契約者貸付を受けた時期や借入金の使途によっては、その行為により減少した財産価値を弁済額に上乗せすべきケースがあるので注意が必要です。
具体的には、次のようなケースです。
- 特定の債権者への返済にあてた
- ギャンブルや浪費に費消した
- 通常の生活費にあてた
特定の債権者への返済にあてた
特定の債権者に優先して返済する行為は、偏頗弁済にあたり、債権者平等の原則に反します。そのため、契約者貸付で借り受けたお金で一部の債権者だけに返済をした場合は、原則として、その返済相当額が、再生計画に基づく弁済額に上乗せされます。
ギャンブルや浪費に費消した
ギャンブルや浪費に費消した場合も、減少した財産価値が弁済額に上乗せされます。
通常の生活費にあてた
個人再生は、収入の範囲内で生活費を支出しながら弁済していく手続きであるため、破産手続きと異なり、通常の生活費にあてた場合は有用の資とは認められません(突発的な費用を除く)。
したがって、契約者貸付を受けた場合は、このような使途に使わないように注意しましょう。
使途を証明できるようにする
契約者貸付で借り受けたお金を、弁護士費用などの有用の資にあてた場合は、その部分については、清算価値の計算から除外できます。有用の資にあたるとして清算価値に計上しない場合には、上申書等でその使途を詳しく説明するとともに、その裏付けとなる資料を提出できるようにしましょう。
個人再生すると生命保険に加入できない?
ここでは、個人再生すると生命保険に加入できないのかどうかについて解説します。
個人再生中でも加入できる
個人再生の手続中でも、健康状態等の加入要件を満たせば、保険契約を締結できます。
個人再生したことが、加入審査に影響を与えることはありません。
個人再生後も加入できる
個人再生後も同様に、健康状態等の加入要件を満たせば、保険契約を締結できます。
個人再生したことが、加入審査に影響を与えることはありません。
生命保険募集人は個人再生できない?
生命保険募集人も、他の職業の方と同様に仕事を続けながら個人再生手続を利用できます。
個人再生には自己破産のような資格制限はないため、生命保険募集人の登録を取り消されることもありません。
まとめ
個人再生では、生命保険を解約する必要はありません。しかし、積み立て型や貯蓄型の生命保険に加入している場合は、解約返戻金の額によっては、再生計画において弁済すべき額が増える可能性もあります。
ご自身のケースがどうなるか不安な方は、弁護士に相談することをおすすめします。