個人再生で債権者漏れがあるとどうなる?債権者漏れのリスクと対応法
個人再生を申立てる際には、すべての債権者を記載した債権者一覧表を提出しなければなりません。
債権者一覧表に記載漏れがあると、個人再生の申立てが棄却されたり、最終的な返済額が増えてしまったりする可能性があります。
ここでは、個人再生手続きで債権者一覧表に記載漏れがあった場合の影響と対処法について、次のとおり解説します。
- 個人再生手続きで債権者漏れがあったらどうなる?
- 個人再生の申立後に債権者漏れが発覚した場合はどうすればよい?
- 個人再生の再生計画案認可決定後に債権者漏れが発覚した場合はどうなる?
- 個人再生手続きで債権者漏れを防ぐためにすべきこと
個人再生を検討中の方は、ぜひご参考になさってください。
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個人再生手続きで債権者漏れがあったらどうなる?
ここでは、債権者漏れが生じる原因や債権者漏れによる手続きへの影響について解説します。
債権者漏れが生じる原因は?
個人再生を弁護士に依頼すると、弁護士から各債権者に受任通知を発送し、債権を調査します。
しかし、依頼者である債務者が特定の債権者の存在を隠すと、弁護士が債権者を正確に把握できないことがあります。
債権者漏れが生じる具体的なケースは、以下のとおりです。
- 友人や親戚に迷惑をかけたくなくて債務者が申告しなかった
- 勤務先に個人再生することを知られたくなくて会社からの借入れを申告しなかった
- 家族や知人の借金について保証人になったのを忘れていた
- 請求や督促がなかったため借金の存在そのものを忘れていた
- 多重債務のために債権者を正確に把握できていなかった
- 代位弁済・債権譲渡が続き債権者を把握できていなかった
- 個人事業の取引先との債権債務を正確に把握できていなかった
個人再生の手続きで特定の債権者を除外すると、個人再生の申立てが棄却されたり、最終的な返済額が増えてしまったりする可能性があります。
申立前の準備段階であれば、債権者一覧表を修正できるので、気づいた時点で弁護士に報告し、追記してもらいましょう。
債権者一覧表への記載漏れにより債務者に生じるリスク
債務者が、特定の債権者を特別扱いする目的で債権者一覧表に記載しなかった場合は、以下のようなリスクを生じます。
- 申立を棄却されるおそれがある
- 手続きにかかる費用が増える可能性がある
- 再生計画が不認可となるおそれがある
- 返済義務はなくならない
ひとつずつ説明します。
申立を棄却されるおそれがある
債務者が、特定の債権者を特別扱いする目的で債権者一覧表に記載しなかった場合は、申立てが誠実にされたものではない判断され、再生手続開始の申立てを棄却される可能性があります。
手続きにかかる費用が増える可能性がある
申立てにかかる事実関係を詳しく調査するため、個人再生委員が選任される可能性があります。個人再生委員が選任されると、個人再生委員への報酬として15~30万円が別途必要になります。
なお、東京地方裁判所では、原則すべての事件で個人再生委員が選任されるため、債権者漏れにより手続費用が増額することはありません。
再生計画が不認可となるおそれがある
債務者が、特定の債権者を特別扱いする目的で債権者一覧表に記載しなかった場合は、再生計画が不認可となるおそれがあります。すでに認可決定が確定していても、当該認可決定が取り消される可能性があります。
債権者平等の原則や手続きの公平に反する許されない行為だからです。
非常に悪質なケースでは、特定の債権者に対する担保の供与等の罪に該当し、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金または併科に処せられるおそれもあります。
返済義務はなくならない
債権者一覧表に記載せず、かつ、債権者が債権届出をしなくても、返済義務がなくなるわけではありません。記載漏れを修正するタイミングによっては、再生計画の最低弁済額とは別に返済しなければならず、最終的に返済すべき金額が増える可能性もあります。
債権者一覧表への記載がなく届出もない債権の返済方法等の取り扱いについては、債権者に落ち度がある場合と、債務者に落ち度がある場合で異なります。
詳細は後述します。
債権届をしなかった債権者に生じるリスク
債務者が、特定の債権者を特別扱いする目的で債権者一覧表に記載しなかった場合で、かつ、債権者が届出しなかった場合は、当該債権者にも次のような不利益が生じます。
- 届出された債権と同様に減額される
- 原則として3年間は弁済を受けられない
ひとつずつ説明します。
届出された債権と同様に減額される
債務者が特定の債権者を債権者一覧表に記載せず、当該債権者が債権届出をしなくても、その債権は他の届出された債権と同様に減額されます。
個人再生では、債権者一覧表に記載がない債権者が自ら債権届出をしなくても、その再生債権者の債権が失効することがないからです。
原則として3年間は弁済を受けられない
債務者が特定の債権者を債権者一覧表に記載せず、当該債権者が債権届出をしなかった場合は、当該債権者は、原則として再生計画で決まった分割返済期間(原則3年間)が経過するまで、弁済を受けられなくなります。
ただし、債権者の責めに帰することができない事由により届出ができなかった場合は、他の債権者と同じ時期に弁済を受けられます。
個人再生の申立後に債権者漏れが発覚した場合はどうすればよい?
ここでは、個人再生の申立後に債権者漏れが発覚した場合の対処法について解説します。
再生手続開始決定前
個人再生の申立後に債権者漏れが発覚した場合、再生手続開始決定が出る前であれば、裁判所の裁量により、債権者一覧表の訂正・追加が認められる可能性があります。
申立後、債権者漏れに気づいた場合は、すぐに申立代理人に報告し、債権者を追加する旨の上申書と訂正した債権者一覧表を提出してもらいましょう。
債権届出期間経過前
再生手続開始決定がなされた後は、債権者一覧表の訂正が認められません。
ただし、債権届出期間中であれば、債権者側から債権を届け出てもらう方法があります。具体的には、申立代理人を介して債権者に連絡し、債権者から裁判所に債権届を提出してもらいます。
書面による決議または意見聴取前
債権の届出は、債権届出期間中に行わなければなりません。しかし、債権者の責に帰することができない事由により期間内に届出できなかった場合は、その事由が消滅した後1か月以内で、かつ、以下の決定がなされる前であれば、債権届出を追完できます。
- 小規模個人再生手続における再生計画案を決議に付する旨の決定
- 給与所得者等再生手続における意見聴取決定
債権者側から債権届を出してもらうためには、申立代理人を介して速やかに債権者に連絡し、連絡後1か月以内に債権者から裁判所に債権届を提出してもらわなければなりません。
個人再生の再生計画案認可決定後に債権者漏れが発覚した場合はどうなる?
ここでは、再生計画認可決定後に債権者漏れが発覚した場合の影響を解説します。
書面による決議または意見聴取後は、債権者も債権届出を追完できなくなります。
債権者一覧表に記載がなく届出もない債権を無届債権といい、債務者と債権者のどちらに落ち度があるかによってその取り扱いが異なります。
債権者に落ち度がない場合
債権届を出さなかったことについて、債権者に落ち度がない場合は、他の再生債権と同等に扱われます。
債務者は、認可された再生計画の再生債権の弁済率に応じて、漏れていた債権者に対する債務を弁済します。
債権者に落ち度がある場合
債権届を出さなかったことについて、債権者に落ち度があった場合は、その債権は劣後化されます。劣後化された債権は、再生計画で定められた弁済期間が満了するまでの間は弁済が禁止さます。
再生債務者は、他の債権者への弁済期間終了後、劣後債権を返済することとなります。劣後債権の弁済率や弁済方法は、認可された再生計画の内容がそのまま適用されます。
個人再生手続きで債権者漏れを防ぐためにすべきこと
ここでは、個人再生手続きで債権者漏れを防ぐためにすべきことを解説します。
書類の不備を避けるために手続きを弁護士に依頼する
故意に特定の債権者を記載しなかったわけでなく、うっかりミスであっても、再生手続開始決定後は、再生債務者側から債権者一覧表を訂正できません。
個人再生を弁護士に依頼して、すべての債権者を正確に伝えれば、債権者一覧表の記載漏れを回避できます。代位弁済や債権譲渡により債権者を正確に把握できない場合は、弁護士に相談して申立前に調査してもらいましょう。
まとめ
個人再生の申立前・申立後にかかわらず、債権者漏れが発覚した場合は、すぐに弁護士に報告しましょう。再生手続開始決定前であれば、債権者一覧表を訂正できる可能性があります。
再生手続開始決定後に発覚した場合も、漏れていた債権者に対して、再生届出期間内に再権届を行うよう促すことで、債権者・債務者のいずれにとっても不利な状況を避けられます。
友人や家族、勤務先への借金の返済を継続したいなどの事情により、全ての債権者を申告できない場合は、弁護士に相談し、任意整理で解決できないか検討しましょう。