自己破産申請中の生活でやってはいけないことは?
自己破産申請(申立て)をしてから免責許可が認められるまでは、いくつかの点を注意しながら生活する必要があります。
場合によっては、免責されず自己破産できなくなってしまうおそれもあります。
今回は、自己破産申請中の生活について主に次の点について解説します。
- 申請中の生活で制限されること
- 制限されないこと
- やってはいけないこと

例えば、財産隠しをすると破産が認められなくなる恐れがあります。
他のやってはいけないことは本文でご案内しています。ぜひご参考ください。
自己破産を進めるうえで不安がある方は、一度ご相談ください。
自己破産申請中の生活で制限されること
ここでは自己破産申請中の生活で制限されることを解説します。
許可なく居住地を変更できない
自己破産の申請中(申立て後)は、管財事件の場合、裁判所の許可や破産管財人の同意なく居住地を変更できません。裁判所と破産管財人が財産の調査をするためです。
海外旅行が制限される管財事件は、主に次のようなケースが該当します。
- 99万円以上の現金を持っている
- 現金以外で20万円以上に相当する資産を持っている
- 隠し財産の存在が疑われる
- 住宅や不動産を所有している
- ギャンブルなどの浪費行為で免責不許可事由にあてはまる
もっともこの制限は、自己破産が終了するとなくなります。
海外旅行が制限される
自己破産の申請中(申立て後)は、一時的に海外旅行が制限されます。
自己破産をする人の海外旅行の扱いについては、次のとおりです。
自己破産申請前 | ・海外旅行は自由にできる
・ただし手続きのため担当弁護士に伝えておいた方が良い |
自己破産申請中 | ・管財事件の場合、一時的に海外旅行は制限される
・ 同時廃止事件の場合、海外旅行は自由にできる (ただし、免責の判断に悪影響が出る可能性あり) |
免責許可後 | ・海外旅行は自由にできる |
特定の資格・職業が制限される
自己破産の申請中は、特定の資格や職業が制限されます。具体的な制限される資格と職業については、主に次のとおりです。
士業 | ・弁護士
・司法書士 ・税理士 ・行政書士 ・家建物取引士 |
役員 | ・会社取締役
・信用金庫役員 ・商工会議所役員 |
その他職業 | ・貸金業者
・風俗業管理者 ・生命保険募集人 ・警備員 ・公証人 ・交通事故相談員 |
制限される職業の共通点は、資格のもとに他人の財産を預かり、管理する業務を行なっていることです。
ただし、この制限は永久的に続くわけではありません。免責許可を受ければ、再度資格を使って働くことができるのはもちろんのこと、新しく資格を取得することもできます。
郵便物は破産管財人を経て受け取れる
裁判所は、破産者あての郵便物を破産管財人に転送するよう郵便局に対して要請します。郵便物が転送されるのは、破産手続中のみです。
高額な買い物や財産の処分ができない
自己破産申請中は、高額な買い物や財産の処分ができません。
破産手続きは、自己破産者の所有している財産を全て処分し金銭に換価して、債権者へ公平に弁済・配当する手続きです。
自己破産の申し立てがされると、破産管財人が自己破産者の所有している全ての財産を管理・処分します。
ただし自由財産に当たる財産は処分しなくても良いと定められています。
具体的には…
- 99万円以下の現金
- 法律上差押さえが禁止されている財産
- 破産手続開始決定後に取得した財産
- 自由財産の拡張がされた財産
- 破産管財人が放棄した財産
自己破産申請中の生活でも制限されないこと
ここでは自己破産申請中の生活でも制限されないことを解説します。
生活保護受給
自己破産申請中の生活でも、生活保護を受給できます。
生活保護受給者が自己破産する場合、次のようなメリットもあります。
- 弁護士費用の自己負担なしで自己破産可能
- 裁判費用を自己負担しなくて良い
- 生活保護を受給している方が自己破産が認められやすいケースもある
年金受給
自己破産をしても公的な年金は受給できます。
ただし個人で契約している個人年金は、差し押さえ処分の対象になる可能性もあります。
それぞれの年金の種類と差押さえの対象になるかどうかを、以下に表としてまとめたので参考にしてください。
年金の種類 | 対象となる加入者 | 差し押さえの対象になるか | |
国民年金 | ・老齢基礎年金
・障害基礎年金 ・遺族基礎年金 |
日本国内に住む20歳以上60歳未満で、厚生年金に加入していない人 | ならない |
厚生年金 | ・老齢厚生年金
・障害厚生年金 ・遺族厚生年金 |
70歳未満の厚生年金に加入する事業所の会社員等、または公務員 | ならない |
個人年金 | ・個人年金保険による年金
・確定年金 ・終身年金 |
保険会社などと保険契約を行う個人 | なる |
企業年金 | ・退職年金
・確定給付企業年金 ・確定拠出年金 ・厚生年金基金 ・中小企業退職金共済制度 |
各種企業年金制度を採用している企業に勤務する人 | ならない |
家族カードの使用
自己破産をすると、所有しているクレジットカードの契約は解除されます。自己破産者はブラックリストに登録されるため、その後5~10年間は新しくクレジットカードを作れません。
本人以外が契約している家族カードは利用できます。
賃貸契約
自己破産申請中の生活でも、新たに賃貸契約を結ぶことは問題ありません。
ただし家賃保証会社を利用する場合は、審査が通りにくいケースもあります。
家賃保証会社によっては信用情報機関で、個人の信用情報をチェックします。自己破産をするとブラックリストに登録されるため、支払能力がないとみなされてしまい入居審査にも通れません。
自己破産申請中に入居審査に通りたい場合は、信用情報機関を通さずに支払能力をチェックする家賃保証会社を利用する必要があります。
自己破産申請中の生活でやってはいけないこと
ここでは自己破産申請中の生活でやってはいけないことについて解説します。
財産隠し
財産隠しとは、自己破産時に没収される自身の財産を意図的に隠す行為です。具体的なケースとしては、主に次のようなものが該当します。
- 預金口座の一部を申告しない
- 預金口座から現金を引き出して隠しておく
- 所有している財産や現金を親族や知人に預ける
- 離婚や贈与、売買によって財産が譲渡されたかのように偽装する
財産隠しは免責不許可事由に該当するため、発覚すると免責は認められません。
さらに詐欺破産罪(破産法265条)で起訴される可能性もあります。実際に財産隠しを行い、起訴された事件の具体例を紹介します。
実際の事例 | ・2500万円の借金を抱えて自己破産を依頼
・しかし父親が死亡した際の、死亡保険金を弁護士に対して意図的に伝えなかった ・自己破産の申し立て後も口座を裁判所に伝えず、破産管財人の調査によって発覚 |
財産隠し発覚後 | ・在宅起訴された
・懲役2年、執行猶予4年の有罪判決を受ける |
参考:神戸地裁伊丹支部決定平成23年12月21日判例タイムズ1366号246頁
財産の不利益処分
免責不許可事由の1つに財産の不利益処分があります。財産の不利益処分の具体的な内容については次のとおりです。
- 著しく不利益な条件で債務を負担し、または信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと
- 上記行為をするにあたって、破産手続きの開始を遅延させる目的があったこと
著しく不利益な条件で債務を負担しとは、いわゆるヤミ金業者からの借金が該当します。
著しく不利益な条件で処分するとは、クレジットカードを利用して購入したものを、安い金額で売却し現金を手に入れることです。
申請前の借金
自己破産をすれば借金がすべてなくなると考えて、申請中に新たな借金をするのはやめましょう。
むやみやたらに借金をすると、免責が認められない場合もあります。また悪質なものだと裁判所に判断されてしまうと、詐欺などの犯罪に問われる可能性もあります。
クレジットカードの現金化
自己破産申請前に、クレジットカードの現金化をしてはいけません。
クレジットカードの現金化とは、カードで財産価値の高いものを購入して、すぐに売ることにより現金を得る行為です。
この行為は免責不許可事由に該当するため、意図的に行うと免責を受けられません。
偏頗弁済
偏頗弁済とは、債務者が特定の債権者へ借金を返済したり、担保を提供したりする行為を指します。
自己破産する人の中には、自己破産手続き前もしくは申請中に家族や友人から借金していたお金を勝手に返済してしまう人がいます。
偏頗弁済は債権者平等の原則に反するので、 免責が認められない可能性もあります。最終的に免責が認められる場合でも、より費用がかかる管財事件で手続きを進めなければなりません。
裁判所・弁護士の指示に従わない
自己破産申請中は、裁判所・弁護士の指示に従いましょう。
指示に従わない場合、免責が受けられなくなる可能性があります。裁判所から指示を受けた場合は、自己破産手続きの最優先事項だと思い対応しましょう。
ギャンブル・風俗などの無駄遣い
頻繁な無駄遣いによる借金は、免責不許可事由に該当します。具体的な無駄遣いの例は次の通りです。
- ギャンブル
- 風俗
- 飲食
- 必要のない高価な物品の購入
ヤミ金の利用
厳密に言うとヤミ金の利用自体は、自己破産申請中の生活で禁じられているわけではありません。
自己破産申請中は、消費者金融から新たな借り入れを行うことができなくなります。しかし法律を守っていない闇金業者は、自己破産申請中の人に対してもお金を貸してくれます。
ヤミ金からお金を借りてしまうと、自己破産をする意味がなくなってしまうので絶対にやめましょう。
離婚
今すぐにでも離婚をしなければならない理由がある場合を除き、自己破産申請中に離婚をすることは避けましょう。
離婚に伴う財産分与をする場合、内容によっては財産隠しの目的で離婚したのではと裁判所や破産管財人に疑われます。
悪質な財産隠しだと判断されてしまえば、最悪の場合詐欺破産罪として起訴される可能性もあります。
まとめ
自己破産申請中の生活でやってはいけないことを犯してしまうと、最悪の場合免責が認められません。 免責を認めてもらうためには、弁護士や裁判所の指示をよく聞いて、積極的に協力しながら手続きをする必要があります。
確実に自己破産を認めてもらい借金から解放されたいとお考えの方は、まず弁護士に相談しましょう。