自己破産すると生命保険は解約しなければならない?
自己破産は、裁判所に申立てて、借金の返済義務を免除してもらう手続きです。一定の財産がある場合は、財産を処分して債権者に分配(弁済)しなければなりません。
生命保険も財産の一つです。自己破産すると生命保険契約を解約しなければならないことがあります。どのような場合に、どのような保険が解約されるのでしょうか?
この記事では、自己破産における生命保険の取り扱いや注意点について解説します。
自己破産で生命保険を解約されることを不安に感じている方は、ぜひご参考になさってください。
目次
自己破産すると生命保険はどうなる?
ここでは、自己破産における生命保険の取扱いについて解説します。
解約返戻金見込額が20万円を超える場合は解約対象
生命保険の解約返戻金が20万円を超える場合は、原則として解約されます。
解約返戻金見込額が20万円未満であれば解約しなくてよい?
解約返戻金見込額が、20万円未満であれば保険契約は解約されないのでしょうか?
保険契約が1つの場合
保険契約が1つしかない場合、解約返戻金見込額が20万円未満であれば解約せずに済みます。
複数の保険契約がある場合
複数の保険契約がある場合で、各保険の解約返戻金見込額の合計が20万円以上ある場合は、すべての保険契約が解約される可能性があります。
裁判所によって異なりますが、東京地方裁判所では、以下に例をあげる生命保険以外の保険も含め、すべての保険の解約返戻金見込額の合計が20万円未満であれば、自由財産として取り扱われます。
- 学資保険
- 養老保険
- 傷害保険
- 自動車保険
- 火災保険
- 地震保険
- 損害賠償保険
自己破産で解約対象となる保険契約とは?
自己破産では、家族が契約者となっている保険契約も解除されるのでしょうか?
ここでは、自己破産で解約対象となる保険契約の範囲を解説します。
破産者本人が加入している生命保険(破産者=契約者)
自己破産で解約対象となる生命保険は、破産者本人が契約者となっている生命保険です。
破産者が保険料を支払っている生命保険(破産者≠契約者)
契約者が破産者以外の家族となっている保険契約について、破産者本人が保険料を支払いっている場合は、破産者の財産とみなされ解約対象となる可能性があります。
解約対象となる具体的なケースは後述します。
掛け捨て型の生命保険は自己破産で処分されない?
解約返戻金のない掛け捨て型の生命保険は、自己破産で処分されないのでしょうか?
ここでは、解約返戻金がない生命保険の取扱いについて解説します。
解約返戻金がない生命保険契約は処分対象とならない
掛け捨てで解約返戻金がない生命保険や、解約返戻金が20万円以下の生命保険は、原則として解約の対象になりません。
ただし、解約返戻金がない旨を証明する書面を裁判所に提出する必要があります。
自分名義の生命保険の保険料を親が払ってる場合は自己破産で処分されない?
契約者が破産者本人でも、保険料を本人以外が払っている場合は、自己破産で処分されないのでしょうか?
ここでは、破産者本人以外が保険料を負担している生命保険の取扱いについて解説します。
原則として名義人の生命保険として取り扱われる
保険料を払っているのが破産者以外であっても、契約者が破産者本人であれば、原則として解約対象となります。
以下に該当する場合は、契約者が保険契約の存在を認識していることが明らかですので、解約返戻金請求権と有するものとして処分対象となるのが通常です。
- 所得金額の計算上、当該保険契約の生命保険料控除を受けている場合
- 契約者貸付を利用している場合
- 特約に基づく給付金を受領している場合
個別具体的事情によっては処分されない可能性もある
破産者に契約者としての実質がないと認められる事情がある場合は、保険料を負担した人の財産とされることがあります。
具体的には、以下の事情をいずれも満たすようなケースです。
- 破産者が保険契約の存在を全く認識していない
- 破産者名義で保険契約をした人が保険証券や届出印を保管している
- 破産者が保険料を一度も支払っていない
- 破産者が所得税の計算上生命保険料控除を受けたことがない
- 破産者が契約者貸付を受けたことがない
自分が受取人に指定されている生命保険も自己破産で処分される?
ここでは、破産者が受取人となっている生命保険の取り扱いについて解説します。
保険事故が発生する可能性がなければ処分対象外となる可能性が高い
破産者が受取人となっている保険契約については、保険事故(保険金請求権が生じる原因)が発生する可能性がなければ、原則として処分対象外となります。
破産者が有する保険金請求権は、保険事故の発生時まで、抽象的なものに留まるからです。
保険事故が発生した場合は具体的な金銭請求権となるため、処分の対象となります。
受取人になっている生命保険も裁判所に報告する必要がある
破産者が受取人になっている生命保険も、契約者となっている生命保険と同様に、裁判所に報告しなければなりません。
自己破産で必要な生命保険の解約返戻金証明書の取寄せ方
ここでは、解約返戻金証明書等の入手方法について解説します。
保険会社に連絡して取り寄せる
解約返戻金証明書は保険会社に連絡すれば発行してもらえます。
手元に届くまで数日から数週間かかりますので、自己破産することが決まったら、なるべく早く保険会社に連絡しましょう。
契約者貸付を受けている場合は契約者貸付の金額を証する書面も取り寄せる
契約者貸付とは、生命保険の解約返戻金の範囲内で、保険会社からお金を借りられる制度です。
契約者貸付を受けている場合は、解約返戻金証明書の発行依頼に際して、併せて契約者貸付の貸付金残高が記載されている書面も取り寄せましょう。
生命保険の契約者貸付は自己破産でどのように取り扱われる?
生命保険の契約者貸付は、他の借金と同様に免責されるのでしょうか?
ここでは、自己破産における生命保険の契約者貸付の取り扱いを解説します。
契約者貸付は債務として取り扱われない
契約者貸付は、自己破産で債務として取り扱われません。
契約者貸付は、保険契約を解約した際に払い戻されるお金の一部を前払いしてもらっているだけに過ぎないからです。
自己破産前に生命保険の契約者を名義変更したらバレる?
自己破産で解除の対象となる生命保険は、破産者が契約者となっている生命保険です。
自己破産前に生命保険の契約者を変更すれば処分を免れるのでしょうか?
ここでは、自己破産前に生命保険の契約者名義変更をした場合のリスクを解説します。
申立前の名義変更は裁判所にバレる
生命保険の解約を免れるために申立前に名義変更しても、自己破産の手続きにおいて裁判所にバレます。
自己破産では、過去2年分の通帳や家計収支表を裁判所に提出するため、預貯金口座の入出金履歴や家計全体の収支状況から名義変更が明らかになるからです。
申立前に名義変更すると免責を受けられなくなる可能性がある
申立前に自己の財産の名義を第三者に変更する行為は、財産隠しとみなされ、免責を得られない可能性があります。
財産隠しが悪質と判断された場合、詐欺破産罪に問われることもあります。
自己破産で生命保険を解約しないで済む方法は?
どうしても生命保険を解約できない事情がある場合は、どうすればよいでしょうか。
ここでは、自己破産しても生命保険を解約しなくて済む方法を解説します。
解約返戻金見込み額を支払う
解約返戻金が20万円を超える保険契約があっても、解約返戻金相当額を破産管財人に支払って債権者に配当することで、生命保険を解約せずに済むことがあります。
介入権を利用する
健康状態や年齢によっては、生命保険に再加入することが困難なケースもあります。
このような場合は、保険法の介入権制度を利用できます。破産者以外の家族や親族が解約返戻金見込額を支払うことで生命保険を解約せずに済みます。
自由財産拡張の申立てをする
生命保険をどうしても解約できないやむを得ない事情がある場合、自由財産拡張を申立てて、裁判所に拡張が認められれば、解約を免れることができるケースもあります。
自己破産すると生命保険に加入できない?
ここでは、自己破産後の生命保険への加入の可否について解説します。
自己破産後も生命保険に加入できる
自己破産後も、保険会社の加入要件を満たせば生命保険に加入できます。
自己破産したことやブラックリストに載ることが、加入審査に影響を及ぼすことはありません。
契約者貸付も受けられる
契約者貸付制度は、将来保険契約を解約した時点で受け取れる解約返戻金の一部を前払いしてもらう制度ですので、自己破産後でも利用できます。
自己破産すると生命保険募集人の仕事はできない?
自己破産すると生命保険募集人の仕事はできないのでしょうか?
ここでは、自己破産における資格制限について解説します。
破産手続中は生命保険募集人の仕事に就けない
破産手続中は、生命保険募集人の仕事ができなくなります。
自己破産では、一定の資格・職業の制限を受けるからです。そのため、破産手続開始決定日から免責許可決定確定日までの期間(概ね3~6ヶ月間)は、生命保険募集人として活動できません。手続中は一時的に担当者を外れるなどの対応が必要になる可能性があります。
免責決定確定後は元どおり仕事に就ける
免責許可決定の確定により資格制限は解除されますので、手続終了後は生命保険募集人の仕事を再開できます。
まとめ
自己破産すると、原則として解約返戻金が20万円を超える保険契約は解約されてしまいます。20万円以上の解約返戻金があっても、例外的に強制解約せずに済むいくつかの方法があります。
生命保険の取扱いは、裁判所の運用や破産管財人の判断、債務者の状況にもよります。
どうしても生命保険を解約したくない事情がある場合は、弁護士に相談して生命保険契約を存続させる方法を検討してもらいましょう。