更新日:2022年8月18日 (木)
公開日:2020年9月7日 (月)
自己破産すると退職金はどうなる?処分割合や手続の影響を解説
サマリー
自己破産を検討する際、将来受け取る予定の退職金がどう扱われるのか、仕事を辞めなければならないのかと不安に感じる方もいるのではないでしょうか。
自己破産の手続きでは、退職金の受領状況や退職予定の有無によって処分の対象となる基準や割合が異なります。
また、退職を求められることはなく、一定の要件のもとで財産を残せる仕組みも存在します。
この記事では、退職金の処分割合の目安や換価の手順、手続き時の注意点について分かりやすく解説します。
自己破産における退職金の扱いと処分対象となる割合

自己破産の手続きでは、債務者の一定の財産を換価して債権者への配当に充てることが原則とされています。
ただし、生活再建に必要な一定の財産は手元に残すことが認められており、退職金についても全額が処分されるわけではありません。
法律上、退職金債権の4分の3に相当する部分は差押禁止財産と定められており(民事執行法152条2項)、破産手続きにおいてもこの趣旨を踏まえた取り扱いがなされます。
受領時期や退職予定に応じた処分割合の目安
退職金の評価方法や処分対象となる割合は、破産手続開始決定の時点で既に退職金を受領しているか、あるいは将来受け取る予定であるかによって異なります。
| 退職金の状況 | 破産手続きにおける評価方法 | 処分対象となる基準(目安) |
|---|---|---|
| 既に受領済み | 現金または預貯金として評価 | 現金は99万円超、預貯金は合計20万円超の部分 |
| 退職済み(未受領)または退職予定あり | 退職金債権として評価 | 退職金支給見込額の4分の1 |
| 引き続き勤務(退職予定なし) | 将来の退職金請求権として評価 | 退職金支給見込額の8分の1 |
破産手続開始時点で既に受け取っている退職金は、退職金そのものではなく「現金」または「預貯金」として扱われます。
例えば東京地方裁判所の基準では、現金であれば99万円を超える部分、預貯金であれば残高(複数口座の合算)が20万円を超える場合に処分の対象となります。
すでに退職しているものの未受領の場合や、破産手続き中に退職が決まっている場合は、退職金見込額の4分の1が破産財団に組み入れられる対象です。
一方、当面退職する予定がなく勤務を継続する場合は、将来の不確実性を考慮し、仮に現時点で退職した場合に支給される見込額の8分の1相当額が評価基準とされます。
退職予定がない場合に8分の1の評価となるのは、破産手続きのために退職を強制させないための調整措置です。
20万円基準と同時廃止・管財事件の関係
多くの裁判所において、退職金の評価額(見込額の4分の1または8分の1)が20万円未満であれば、原則として処分対象にならず、手元に残すことが認められる傾向にあります。
退職金の評価額と他の財産の合計が一定基準(20万円など)を下回り、破産手続費用を賄う財産がないと判断されれば、同時廃止事件として簡易に手続きが終了する可能性があります。
ただし、財産の総額が20万円を超える場合や免責不許可事由が存在する場合は、管財事件として破産管財人が選任される運用が一般的です。
なお、裁判所によっては超過額を積み立てて債権者に分配する按分弁済を行い、同時廃止として処理する運用がとられることもあります。
退職金の換価処分方法と勤務継続について
破産手続において退職金が処分対象となる場合、実際にどのような手順で換価が進められるのか疑問に思う方もいるでしょう。
退職金の換価処分方法は、手続開始時点ですでに退職金を受け取っているか、あるいは今後受け取る予定なのかによって異なります。
退職金の受領状況に応じた換価の手順
すでに退職金を受領している場合は、現金または預貯金として取り扱われます。
たとえば東京地方裁判所の運用基準では、99万円を超える現金がある場合は超過分を破産管財人に引き継ぎます。
預貯金として保管している場合は、一定の基準(残高20万円超など)を超える口座を破産管財人が解約し、破産財団に組み入れる形をとることが一般的です。
一方、まだ退職金を受け取っていない場合は、退職金そのものが勤務先から回収されるわけではありません。
算出された処分割合(4分の1または8分の1)に相当する金銭を、申立人自身が破産管財人に納付する形で換価が行われます。
自己破産を理由に退職を求められることはない
退職金が処分の対象になると聞くと、「退職金を強制的に回収するために仕事を辞めさせられるのではないか」と心配されるケースも少なくありません。
自己破産の手続きにおいて、退職金の換価を理由に勤務先の退職を求められることはありません。
法律上、労働者と勤務先との間の雇用契約は破産者の一身に専属する権利義務関係とされています。
そのため、破産管財人が破産者に代わって退職届を提出したり、雇用契約を一方的に解除したりすることはできません。
退職予定がない方は、これまで通り仕事を継続しながら、必要な評価額分を準備して手続を進めることが可能です。
処分対象額を一括で用意できない場合の対処法
退職予定がない場合であっても、退職金見込額の8分の1(退職予定がある場合は4分の1)に相当する金額を破産財団に組み入れる必要があります。
しかし、手元の現金や預貯金が不足しており、算出された金額を一括で用意することが困難なケースも少なくありません。
一括納付が難しい場合には、破産管財人への分割積立による納付や、裁判所に対する自由財産の拡張申立てといった対処方法が検討されます。
破産管財人への分割積立による納付
処分対象となる金額をすぐに一括で納付できない場合は、毎月の給与などの収入から一定額を積み立てて破産管財人に支払う運用が広く行われています。
積立期間の目安は、退職金見込額の大きさや他の換価手続きの進捗状況、裁判所の運用基準によっても異なりますが、概ね1年程度とされることが一般的です。
日々の生活費を圧迫しすぎない範囲で積立計画を立て、破産管財人の管理口座へ定期的に送金しながら所定の金額を満たしていくことになります。
自由財産の拡張申立てによる手元への保持
家計や生活の状況から全額の積立てが著しく困難である場合などには、自由財産の範囲の拡張申立てを行う選択肢があります。
自由財産の拡張が認められると、退職金見込額の8分の1または4分の1の一部のみを積み立て、残りの部分については処分を免れて手元に残すことが可能になる場合があります。
評価額が20万円を超えている場合でも、他の保有財産と合算して99万円の枠内に収まる状況であれば、裁判所の判断により自由財産として拡張が認められるケースがあります。
ただし、自由財産の拡張が認められる基準や運用は裁判所ごとに異なり、本人の生活状況や今後の収入見通しなどを総合的に考慮して個別に判断されます。
処分対象とならない退職金・年金制度の種類
退職金制度にはさまざまな形態があり、勤務先が導入している制度の種類によっては、自己破産の手続きを行っても処分の対象とならないものがあります。
これは、個別の根拠法によって受給権の差押えが明確に禁止されているためです。
法律上差押えが禁止されている退職金や年金は、破産財団に組み入れられる財産から除外され、手続き上も処分されることなく保持できます。
差押禁止と定められている共済制度
中小企業の従業員を対象とする「中小企業退職金共済制度(中退共)」や、個人事業主・小規模企業の経営者などを対象とする「小規模企業共済制度」による退職金は、それぞれの法律によって差押えが禁止されています。
したがって、これらの共済制度を利用して積み立てられている退職金については、退職金見込額の算定や破産管財人への金銭納付といった換価処分の対象には原則として含まれません。
確定拠出年金や企業年金制度の取り扱い
退職給付の一環として導入される企業年金制度の中にも、法令により差押えが禁止されている制度が複数存在します。
代表的なものとしては、「確定拠出年金(企業型DC・個人型iDeCo)」や「確定給付企業年金」が挙げられます。
また、「厚生年金基金」に基づく給付請求権についても差押禁止財産と規定されているため、自己破産の手続きにおいて換価の対象外として扱われるのが一般的です。
処分対象とならない主な退職金・年金制度一覧
| 制度の名称 | 自己破産における扱い |
|---|---|
| 中小企業退職金共済制度 | 法令により差押禁止のため処分対象外 |
| 小規模企業共済制度 | 法令により差押禁止のため処分対象外 |
| 確定拠出年金(企業型・個人型) | 法令により差押禁止のため処分対象外 |
| 確定給付企業年金 | 法令により差押禁止のため処分対象外 |
| 厚生年金基金 | 法令により差押禁止のため処分対象外 |
勤務先が社内留保による退職一時金制度を採用しているのか、外部の共済や年金制度を活用しているのかによって、手続きにおける影響は異なります。
就業規則や退職金規程を確認し、どの制度が適用されているかを把握しておくことが大切です。
退職金見込額証明書の取得方法と退職金がない場合の対応
自己破産の手続きを申し立てる際は、保有する財産の状況を裁判所に正確に報告するため、現時点で退職した場合に支給される退職金の見込額を証明する書類の提出が求められます。
一般的には勤務先から「退職金見込額証明書」を取得して提出しますが、会社への依頼方法や、退職金制度自体が存在しない場合の対応についてあらかじめ把握しておくことが大切です。
勤務先に退職金見込額証明書を依頼する際の注意点
会社に証明書の発行を依頼する際、自己破産の手続きを進めていることを会社側へ報告する法的な義務はありません。
しかし、発行の窓口となる部署や担当者から、どのような目的で使用するのか理由を尋ねられる場合があります。
破産の事実を伏せておきたい場合は、生活設計の見直しやファイナンシャルプランナーへの相談、住宅ローンや教育ローンの申し込み手続きといった一般的な利用目的を伝えることが考えられます。
証明書を取得できない場合の代替方法
勤務先の事情や関係性などにより証明書の発行を依頼することが困難な場合でも、就業規則や退職金規程を入手できれば対応できることがあります。
退職金規程の写しと、その規定に基づいて算定した計算書を併せて提出することで、証明書の代替資料として裁判所に認められる場合があります。
規程をもとに計算書を作成する際は、勤続年数や基本給などの条件を正確に当てはめて計算根拠を明確にしておく必要があります。
退職金制度がない場合の提出書類
勤務先に退職金制度が存在しない場合であっても、単に「制度がない」と口頭で申告するだけでは足りず、その事実を裏付ける疎明資料の提出を裁判所から求められます。
就業規則や雇用契約書、労働条件通知書などに「退職金は支給しない」旨の記載があれば、その箇所の写しを提出することで証明に代えられます。
規程等で確認できない場合は、退職金制度がない旨を勤務先に記載してもらった証明書を用意する運用となります。
退職金と自己破産に関する手続きは弁護士へ相談

自己破産における退職金の取扱いや評価方法は、管轄する裁判所の運用基準や個人の財産状況によって異なる場合があります。
退職金は将来の生活を支える重要な財産でもあるため、申立てを行う前に正確な見通しを立てておくことが大切です。
裁判所の運用や個別事情を踏まえた見通しの把握
退職金見込額の算定基準や同時廃止・管財事件の振り分け、自由財産の拡張が認められる可能性などは、事案ごとに慎重な見極めが求められます。
ご自身だけで判断して手続きを進めると、想定外の換価や手続きの長期化を招くおそれもあります。
法律の専門家である弁護士に相談することで、管轄裁判所の傾向に応じた見通しを立てやすくなり、適切な方針を検討できます。
申立て準備の円滑化と勤務先への配慮
退職金に関する資料の準備にあたっては、勤務先に自己破産の事実を知られたくないと不安に感じる方も少なくありません。
弁護士に相談すれば、証明書を依頼する際の理由の工夫や、退職金規程を用いた代替資料の作成など、勤務先の事情に配慮した助言を受けられます。
また、退職金の評価額に応じて破産管財人への積立が必要となった場合でも、現実的な積立計画の策定や裁判所・管財人とのやり取りを一任できるため、手続きに伴う心理的・実務的な負担を軽減できます。
借金問題の解決と退職金の確保について悩まれている場合は、早い段階で弁護士へ相談し、ご自身の状況に適した手続きの流れを確認することをおすすめします。
コラム監修者
Shunsuke Teragaki
所属:代表(東京オフィス)
広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。